合体勇者ロボ ヴァルムヴィーサ

ヴォルフガング・ニポー

第1章 復活! 合体勇者ロボ!

第1話 ヴァルムロディの天恵

 ――この魔法の世界ではすべての者に【天恵】と呼ばれる特殊能力が神から与えられる。




「ヴァルムロディ様。では右手をお出しください」


 司祭に促されるまま七歳のヴァルムロディは右手を差し出す。


 天恵の力が現れるのは早くて十歳、遅ければ八十歳を過ぎることもある。ただしどのような力が現れるか、そのあらましは七歳にもなれば訓練を受けた者を通じて知ることができる。


 自分の天恵が何であるかを知ることによって、それに向けた鍛錬をすればより早く能力に目覚め、より高めることができる。現在はその歳になれば身分に関係なく教会に行って天恵を知ることが通例になっている。


 司祭がヴァルムロディの手を取り何やら呪文を唱えると、ぼうっと手の上に光の球が現れ何かが映し出された。


「これは……」


 司祭は驚いたような顔をした。


「どうなのだ、ヴァルムの天恵は? どうなのだ、司祭よ」


 本人よりも父親の方が前のめりだ。ルンドストロム侯爵は急かすように言った。


「ヴァルムロディ様の天恵は……≪合体勇者ロボ≫と表れております!」


「な、なんだその天恵は? 初めて聞くぞ」


「わ、私も初めてでございます……」


 ヴァルムロディは賢い子だ。周りの大人の様子からすでに察していた。


「僕の天恵は……使い物にならないと言うことですね……」


「な、何を言っておる。『勇者』とついておるのだ。素晴らしい能力に違いない!」


「さ、左様でございます。申し訳ありません、私も長く審神の役目を承っておりますが、このような天恵は初めてでございまして、よくわからないのでございます」


「そうですか……」


 この中で最も落ち着いているのはヴァルムロディだ。大人たちの動揺に対して凜とした眼差しを崩さない。


「僕は、貴族の息子としていかなる天恵であろうと、領民のために尽くすことは変わりありません」


「おお、ヴァルムロディ……」


「なんと素晴らしい……」


 父と司祭はその姿に感涙を禁じ得なかった。


「ヴァルムロディ様、あなた様の天恵の名前からいくつかのことはわかりましょう。私たちにわからないのは『ロボ』という言葉です。それ以外はおおむね理解できるつもりです」


「そうですか。ぜひお教えください」


「ほほほ、なんと聡明なお子でしょう」


 溌剌とした物言いに司祭はしわだらけの顔にさらにしわを加えた。


「まず、『合体』というのは言うまでもなく合体、つまり何かとくっつくということでしょう。おそらくはそれによって『勇者』の力が高まるのではないかと」


「なるほど」


「そして『勇者』です。ここには二つの可能性が表わされています」


 司祭の表情が引き締まる。


「そこにはいい可能性と悪い可能性の二つがあるということです」


「是非聞かせてください」


「ヴァルムロディ、悪い可能性もあるというのだ。覚悟はあるのか?」


「あります!」


 七歳の子供は臆することなく答えた。


「わかりました。では悪い方から申しましょう。勇者の天恵が表れたということは、この世界に勇者が必要になるということ。すなわち、魔王が復活する可能性があるということです」


「な、なんだと!」


 ルンドストロム侯が驚くのも無理はない。およそ二千年前に魔王によりこの世界のほとんどが壊滅させられたのだという。その後現れた勇者によって魔王は滅ぼされたが、いずれまた復活するとのことだった。


 それが近いうちに迫っているという。


 だが、ヴァルムロディは冷静だった。魔王と言われてもわからないのかもしれないと思ったが、その双眸には断固たる決意がすでにみなぎっていた。


「ではよい可能性を申しましょう。それは言うまでもないかもしれません。ヴァルムロディ様、あなたこそが復活した魔王を倒す勇者だということです」


「なんということだ!」


 叫んだのはルンドストロム侯だ。


 当然だ。勇者として魔王と戦えば死ぬかもしれない。絶対に勝てるなんて甘い考えはできない。侯爵家の大事な跡取り失われてはならないのだ。


「勇者……それこそが僕がこの世に生を受けた意味なのですね」


「おそらくは」


 司祭は利発な子供の目をまっすぐに見た。そしてその頭をそっとなでた。


「ルンドストロム侯爵様、お嘆きあそばされるな。あなたのご子息はこんなにもお強い。きっと魔王を倒す立派な青年へと育たれるでしょう。むしろ誇りに思うべきなのです」


「そ、そうだな。私のなすべきことはすでに決まったのだ。このヴァルムを立派な勇者に育てるのだ」


「その通りでございます」


「ヴァルムよ。そなたが勇者となるならそのための支援を父が惜しむことはない。だが、それはとてもつらいことかもしれぬぞ。覚悟はできておるな」


「はい、父上! 魔王が目覚めたとき、必ずや討ち倒して見せましょう」


 七歳にしてこれだけの気迫をもって答えることなど誰にできよう。


「ああ……このお子は、人類の希望となる方かもしれません……」


 父と司祭はそのまばゆさに目を細めた。




 それから九年が過ぎた。


 司祭の予言どおり魔王は復活した。


 森や山には魔物が現れるようになった。


 まだ復活して日が浅い時期はただの村人でも追い払うことはできていた。しかし魔王の力が回復しつつあるのだろう。魔物は日に日に凶暴化し、その数も増えてきた。


 あちこちの地域で犠牲者が出るようになり、人々は住居を集約し壁で集落を囲うような生活を強いられるようになっていた。


 誰もが勇者の出現を待ち望むようになった。


 このとき、十六歳になった人類の希望・ヴァルムロディは、――牢獄の中にあった。

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