第14話 ユウvsアルス
試験直後ということもあって、演習場は少し荒れていた。
本来ならば借りられるはずもない急な試合だったが、そこは賢者がどうにかしてくれたらしい。
流石は賢者だ。きっとネームバリューを活かして無茶ぶりを通したのだろう。
彼が強引に職員さんに話を押し通す様が簡単に想像できた。
ふう、と息を吐いて眼前の敵を見据える。
金髪を風に揺らし、碧眼の鋭い視線を向けてくる因縁の仇敵。
僕と並んで就職早々Bランクの地位を授与された少年は、それだけで人が殺せそうなほどの目つきでこちらを睨んでいた。
「無能の落ちこぼれがよぉ、調子乗ってくれんじゃねぇか……!テメェ如きが俺に勝てる腹積もりでいんのか、あ?」
「……うん」
「へぇ、カッケェなぁオイ。底辺が天才に下克上ってか?カッコよすぎて惚れちゃいそうだぜ、なぁ」
互いに剣を抜き、構える。
僕は左足を前に出して、剣を胸元で立てる。
アルスくんもまた左足を前に出しつつ、剣を右肩に引き付けた姿勢を取る。
「ルールはどうする?」
「ンなもんいるか、テメェが秒殺されるんだからよ」
どこまでも傲慢で高圧的で、けれど実力に裏打ちされた自負と自信でもあった。
厚く高い壁だ。乗り越えられるかどうかも分からない。
ならば正面から打ち砕くだけだ。
たった三か月だけでも、こっちにだって積み上げてきたモノがある。
前を見据えて、僅かに腰を落とした。
開始の合図は明確にはしなかった。そんなものは不要だからだ。
ただどちらが仕掛けるか、共に相手の隙を見計らい。
──先に仕掛けてきたのは、アルスくんの方だった。
「『
岩をも砕く水鉄砲が放たれる。そのまま受ければ致命的。
僕は素早く横に跳ぶと、その攻撃を回避した。
「『
その流れで戦闘における基礎となる肉体強化を終える。
アルスくんの狙いは予測できる。まずは水流魔法で足場を濡らして
或いは氷結魔法でゴーレムの時のように更に動きを縛りにくるかもしれない。
どうくるか。その思考をした時点で、こちらが後手に回らされていることに気が付いた。
「『
続いて発動したのは、槍のように鋭い形状の地面を隆起させる魔法だ。
だがあくまで初級レベル。速度はそれほどではない。
僕は落ち着いて大地の槍を回避する。
「ッ、『
直後、地面の水分を伝ってこちらを痺れさせるための電撃が放たれた。
左右を土槍に阻まれて咄嗟の回避は難しい。恐らくこれが狙いだったのだろう。
地面に足をつけている限り逃げ場はない。
なので、僕は跳躍により空へ逃げる選択肢を取った。
それが彼の狙いだった。
「馬鹿が──食らえ、俺の本気の一撃を」
宙に浮いている時は身動きが取れない。それはつまり、相手からしてみれば絶好の機会ということだった。
アルスくんが後頭部に剣を回すように構え、呪文を唱える。
火炎魔法、水流魔法、風圧魔法、土石魔法。
四種の基本属性魔法、その上級が彼の持つ魔鉱剣を中心に混ざり合い、漆黒の魔力となって暴れ狂う。
『
破壊力は折り紙付き。それもゴーレム相手に繰り出したそれより更に高威力。
直撃を受けたらまずい。そのことを理解して、僕は。
「『
全身強化に回していた内、半分ほどの力を一時的に他物の強化に回す。
この三か月の間に身に着けた聖剣の活用法だ。
奥の手を除いて、わざわざ力を全て再分配する必要がなくなった。
強化したのは空気の結合力だ。
通常なら足場にすることなど到底不可能な空気の結合を強めることで、空中でも身動きを取れるようにする。
続いて強化するのは脚力だ。
『
「本当に、君は強いよ」
ほとんど僕が後手に回らされていた。
本来なら、たかが三か月程度の努力で倒せる相手ではなかった。
そのことを理解した上で、それでも。
「でも!!」
弾丸のように前方へ跳躍する。
まさか空気を足場にして動けるとは思わなかったのか、アルスくんの表情が驚愕に歪む。
その間に最後の強化を行う。
魔剣の一撃に相対するに相応しいのは、勿論一つしかなかった。
「『
全ての色を混ぜ合わせたが故の黒色とは正反対の、全ての色を除いたが故の白色の極光が鋼の剣から放たれる。
膨大なまでの熱量によって熱せられた空気は加速材となって弾丸の速度を後押しする。
そうして、僕とアルスくんの視線が交錯する一瞬。
振り下ろされる漆黒を、振り薙ぐ純白で以て迎え撃つ──!
「『
「『
その二つの究極の衝突は、灰白色の爆発となって演習場の大地を吹き飛ばした。
聖剣と魔剣、白と黒、無能と天才。
全てが相反する二人が切り出すジョーカーにしてエース。
職業:ゆうしゃ試験に合格したばかりの新米が放っていいレベルの攻撃じゃない。
きっと後で施設の管理者からすごく怒られる。
そんな憂いも、今はどうだっていい。
これまでの学園生活で散々見せつけられてきた才能の原石。
その壁を乗り越えるということだけが、僕の頭の中を埋め尽くしていた。
「ありえ、ねぇ」
黒い光が徐々に解けていく。
きっとまだ彼自身コントロールしきれていない大技なのだろう。その隙を容赦なく突く。
全身に力を込める。
思い切り剣を振りぬく。
心を薪としてくべて燃やす。
「この俺が、ユウに、負け──」
「僕が勝つッッッ!!!!」
そうして、一閃。
漆黒を打ち破った純白の剣は、その腹をアルスくんの顔面に打ち据えることで、勝負の終了を告げた。
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