禁足地に足を踏み入れし者を異能者という、真の能力者は気ままな生活を送っていた~Don’t go in~

涼梨結英

第1話

「武井先生ぇ、もう補修良くないっすか?」


一人の高校生の少年が眠そうな口調で机に突っ伏しながら黒板の上でチョークを滑らせる女性教師に言った。


「別に私もやりたくてやってるわけじゃない、元はと言えばお前が前回の補修を休んだのがいけないんだろ」


「あれは本当に体調崩してたんだって・・・・あああああそれにしても今日は暑いな」


少年の顔がようやく机から離れた。

青みがかった目、シャツの上のボタンを二つ外して下は学ランのズボンを履いている。

机の上に広げられたノートやシャーペンには使った痕跡がない、黒板には長ったらしい数学の計算式が書かれている。

それを見てめんどくさそうにため息をつき、よく晴れた青空の下に立ち並ぶ街を窓越しに眺めた。

すると突然二人のいる教室の扉が開かれた。


「武井先生、今よろしいですか?」


そう言って教室に入ってきたのは五十代ぐらいの男だった。


「教頭先生、何か御用でしょうか?」


「はい、最近起きている神隠し事件についてなのですが。事件の数件が我が校の学区付近で起こっているため先程PFSPの方から警備レベルの引き上げを求められました。ですのでそれについての会議を行うために武井先生も一度職員室に来ていただけませんか?」


「わかりました。おーい瀬上、今日の補習は一旦ここまでだ、続きは・・・・ってもういないか」


======


瀬上は急いで後者の階段を駆け下りて下駄箱へと向かった。走りながら今履いている上履きを脱ぎ、下駄箱の前に着くと靴の入れられた棚の上をめがけて投げた。

上履きは上に置かれていた他の靴にぶつかりそれを下へと弾き飛ばした。

下に落ちた靴を急いではいて校門めがけて一直線に走った。

左右のあるグラウンドやプールからは夏休み中に練習している運動部の部員の声が聞こえる。


「あれ、最下位じゃね?」

「ほんとだ、おい瀬上補修はどうしたんだよ」

「抜け出してきた」

「ちゃんと受けろ!」

「やなこった」


会話をしながらカバンを肩にかついで状態で走った。校門を出て瀬上は本屋へと向かっていた。


途中で道の反対側から瀬上と同じ私服を着た奴が大声で話しかけてきた。


「最下位の瀬上、ちゃんと補修受けろ!」

「今日は漫画の新刊で急いでるからまたな」


そう言って手だけ振り返して瀬上は走り去っていった。


本屋に着くと彼は絶望し、膝から崩れ落ちた。

その光景を周囲を行き交う人々は不思議そうな目で眺めていた。


「新刊が、売り切れ・・・・せっかく補修を抜け出してきたのに、俺の今日の楽しみが・・・・だがまだ諦めるには早いから、他の本屋はまだあるかもしれない」


立ち上がると再び他の本屋へと走り出した。


======


「疲れた・・・・」


瀬上は自販機の前で立ち尽くしていた。


本屋の前で崩れ落ちた後、瀬上は漫画の新刊を追って自分の学校のある八王子とは真逆の奥多摩町まで来てしまっていた。


夕焼けによって赤くなった空もそろそろ暗くなろうとしていた。


「しょうがない、ここでジュースの一本でも飲んで帰るか」


独り言を呟きながら彼は財布を開いた。

そして財布の中にあった一枚の千円札を迷わずに自販機の投入口にぶち込んだ。


「ここはオレンジジュースに、あああああああ間違えた」


間違って隣のエナジードリンクを押してしまった。

瀬上はまあいいか思い、それを飲みながら駅へと向かった。


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「そういえば今日Spica持って来るの忘れたな。仕方ない、切符を買うか」


券売機のところに書かれた料金表を見た。


「えーっと八王子までは・・・・」


彼はまたしても絶望して膝から崩れ落ちた。


「770円・・・・」


開きっぱなしの財布の中には750円しか残っていない。


「あああもう今日はついてない、漫画は買えないは自販機は押し間違える、しかもそれで電車に乗れないなんて・・・・どうしたらいいんだよ」


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空はもう暗くなっていた、時間は10時を超えていて八王子駅から離れていくと人通りは少なくなっていく。


「それにしても助かった、券売機のお釣りのところに撮り忘れた50円があって。あれがなかったら今頃夜道を走るはめになるとこだった」


独り言を呟きながら歩き、瀬上は自身が暮らしている学校の寮へと着いた。

五階建てのマンションで透の部屋は三階、階段を登ろうとした時、彼の目に一人の少女が映った。


長い黒髪で学校の制服を着た少女が階段横の壁に寄りかかる状態で座っていた。

どうやら眠っているらしい。


「おーいお前、そんなところで寝てると風邪引くぞ・・・・」


瀬上の声に対するその少女からの返事はなかったため彼女の体を揺らした。


「おいお前、早く起きろ」


肩を軽く揺らすと彼女はそのまま反対側へと倒れた。

それと同時に瀬上の手に冷たいものが触れた感じがした。

手を見るとおびただしい量の赤い血が付いていおり思わず地面にカバンを落としてしまった。


「ヤバいだろこれ、おいしっかりしろ」


彼女のそばに行って瀬上は彼女を仰向けにその場に寝かせた。


「救急車を呼ぶか、いやそれじゃあ間に合わないか・・・・仕方ないか、久々だがやるしかないな」


瀬上は彼女の傷口に直接触れた。


少女は顔に痛みをこらえる表情を浮かべて歯を食いしばっていた。

傷口を直に触られいるのだから相当な激痛が走っているのだろう。


「すまない、少し我慢してくれ」

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