スクールアウト‼️‼️‼️
はとさん。
第1話 上山レン、15歳。
「あ、やば、ストロー伸ばさずにジュース飲みきっちゃった…」
「そんなんどうでもよくね?」
「や、なんか損した気分。嫌な予感がするよ」
「はは、たとえば何が起こると思う?」
「…横江が絡んでくるとか?」
二人同時ににかっと歯茎を見せて笑う。おれたちのほかに笑ってるやつはいない。なぜならここは教室の一番端っこで、今最も笑いを取ってるのは教室の中心にいる横江という男子だからだ。
ー俺の名前は上山レン。ごく普通の中学3年生だ。でも、普通と違うところは、全く青春なんてものに関わりがないことだ。体育祭の時はみんなで優勝目指したりしないし、好きな人ににボディタッチされてドキドキするとか、そんなのは異世界のような話だ。
まぁ、俗にいう陰キャというやつ。横江はクラスの人気者なんだけど、最近おれのことをいじったりしてきて、うざがっている。
正直うざがってるってのは建前で、ほんとは陽キャに絡まれて心底嬉しいのが本音だ。で、さっきから話してるのがおれの数少ない友達、高嶺祐也だ。こいつは根っからのコミュ障で、コンビニの会計でさえ怯えてセルフレジのあるところにわざわざ遠回りしていくぐらいだ。
そんなやつとどう仲良くなったかっていうと、それはおれにもわからない。話しかけたのはおれからだったと思うけど、おれだって言うほどコミュ力があるわけでもないし、結構時間がかかったと思う。高嶺とは、共通の趣味もないし、何か頭のいいことを語り合ったりしてるわけでもない。陽キャと話す方がよっぽど楽しいし充実できるだろう。(まぁそもそも話せないんだけど。)
でもその楽さがいいんだなと、最近は思っている。
ところで、高嶺には好きな人がいる。
隣のクラスの高田という女の子だ。以前休み時間に2人で見に行ったことがあったけど、芸能人級の可愛さで、なるほどなと思った。その後も高嶺は高田さんの魅力をずっと語ってたが、お前は眼中にもないんだろとは言わないでおいた。今度家に行ってみようかなとつぶやいていたのは全力で阻止したが。
そして今日も、こいつはおれが適当に相槌してるのに気付きながらもずっと語っている。あの動作が可愛いとか、まつ毛長くて好きとか、さっき喋れたとか、色々。
こういう時、青春モノのアニメでは、陽キャと陰キャの恋愛ストーリーが始まるんだろうが、そんなのは現実に存在しない。
話したことがあるというのも、真面目そうだから宿題を聞いた程度のことだ。
LINEだってビビって追加できてないし、学年LINEでその子が発言するとスクショして保存しているらしい。さすが陰キャという感じの回りくどさだ。この調子だときっと認知もされていないだろう。
そしてさらに恐ろしいのは、高嶺が高田さんと両思いだと勘違いしている事だ。
「3ヶ月前に挨拶されたからな、悪いがおれはレン、おまえを置いて陽キャデビューさせてもらうぜ」
信じて疑わないドヤ顔に少しいらだちを覚えたが、これもまた青春、と存在しないモノを想像し気持ちを抑える。
「いやーそれはいいんだけどさ。正直高田さんって友達多いし、恋人ぐらい居るんじゃないの?」
苦笑いでそう言うと、高嶺が急に机を立ち上がった。結構な音がしたのでクラス全員がこちらを振り返った。
視線の痛さにおれはおもわずサッと顔を背けた。見えなかったけど、多分高嶺も。
そして高嶺は曖昧な表情でそのまま廊下に飛び出ていった。おれは急いで後を追う。
「おい、どうしたんだよ!まさか確認しに行くってのか?」
どんどん上がるペースに息が上がる。
むりだ。
店員ともしゃべれないお前が、好きな人と会話するだなんて。また高嶺に声をかけようとすると、急に高嶺が振り返った。
「そんなことおれができるわけねぇだろ!高田さんだぞ!?」
そうかーと言いかけた時、高嶺の前にいる存在に気づき、思わず声が漏れた。急に止まったおれを不審に思ったのか、高嶺は
「おい、どうしたよ?俺の事心配してんのか?そんな事しなくてもおれはちょっと様子見するだけ…」
芸能人級の顔。すらりとした白い腕。絡まりなどない真っ黒なロングヘア。
「高っダ…さん…」
驚きのあまり高嶺の呂律が回らないようだった。そりゃそうか。同じ学校なんだ、遭遇することはある。今までなんでスルーしてきたのか分からないくらいだ。
「あァ…ッと…今の聞いた?」
「ん?私の名前呼んだかな?それは聞こえたような気がするなぁ〜」
ふわふわとした甘い声に無意識ににやけそうになる。慌てて口元を結んだが、きっと今の自分はキモイのだろう。3秒ほど間が開き、おれはハッとした。
「あぁーっとー高嶺が高田さんにっ、恋人いるかって言ってて」
おれがいけしゃあしゃあと言ったのを見ると、高嶺の顔がみるみるうちに赤くなった。
「ちょおまっ…今は違ぇだろ!」
「どうしたの?恋人?」
若干引き気味な高田さんの顔を見て、言われた側では無いのに何故か心臓が痛くなった。
「あ…そう。高嶺が恋人いるかなって言ってたの。ど、どうなの」
やっとの思いで打ち明けると、高田さんが少し考える素振りをした。
「……今はいるよー。高嶺…くん?狙ってたらごめんねー。なんちゃって〜。あ、そろそろ行くね!ありがとね!」
「あーあは、いやちょっと気になってただけだしぃ…あァ…」
未だに目の焦点が合わない高嶺が、死にかけの鳥みたいな声を出していて、おまけにとっくに高田さんはここには居ないことが不憫で、何故か吹き出してしまった。
「ははは…何が両思いだよ。思いっきり振られてんじゃねぇか!」
おれが笑うと、恥ずかしそうにしながらも高嶺もふっ、と笑い出した。
「あーあ。これ皆の間に噂されたら嫌だなぁ。おれのカーストがどんどんさがっちまう!」
「大丈夫、俺たちは元々どん底、これ以上下がることなんてないさ!」
おれがおどけて言うと、高嶺もいつもと同じ笑い方をした。いつの間にか廊下の端にいたおれらは、通行人に邪魔そうに避けられている。
青春なんてない。ダサすぎる。
でも、最高に今が楽しかった。
スクールアウト‼️‼️‼️ はとさん。 @moyashipon
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