第1642話 罪と罰。
「バカは徹底的にやらないと同じ事を繰り返す」
「真理ね。けれど、だからといって、ふりかざしていいものではない。クズに道理を教えるのも、上に立つ者の仕事の一つ。けれど、そこには明確なボーダーがある」
――状況であったり、言動の内容であったり。
『超えてはならない一線を超えた者』に対しては、
『罰』を執行しなければならないが、
しかし、先ほどのボーレの言動は、
『ボーダーを超えている』とはいいがたい。
もし、ボーレが、
『アモンの地位を知った上でかましてきた』、
『社会システムに対する明確な反逆の意思を示した』
というのであれば、また、少し話が変わってくるが、
現状のボーレは、
『しっかりとした間違い』を犯してはいるものの、
しかし、『明確な罪』を犯したとはいいがたい。
「アモン。あなたにも『裁量権』はあるけれど、それは、『過剰なリンチを許す』という暴力許可証ではない。あなたの能力と覚悟と献身に対する信用の証。その『証の重さ』が理解できず、闇雲に権利と力を不用意に振り回すバカは……抹殺対象とみなす」
「……」
「……」
ピリピリと重たい空気が流れる。
両者とも、黙ったまま、強い眼力で、にらみ合う。
五秒後、
アモンが、
「だいぶ肩もほぐれてきましたし、施術はこのぐらいにしておきましょうか。お疲れさまでした、先輩」
そう言って、ボーレの肩から手を放す。
アモンは、ボーレの肩に、回復魔法をかけながら、
「舎弟になった以上、今後も定期的に、肩をもませていただく所存です……よろしいですよね?」
「あ、いや……肩は……もう二度と、揉まなくていいかな」
「それはいけません。舎弟になった以上、絶対に、定期的に、肩をもませていただきます。もちろん、肩以外にも、腰や足も、すべてお任せください。ん? おっと、気付かなくて申し訳ありません。目が充血していますね」
そこで、アモンは指の関節を鳴らしながら、
「この充血具合……もしかしたら、ヘルペスかもしれませんね。ということで、いったん、くりぬいて、強めの酸で殺菌しましょう。ヘルペスはしつこいですからねぇ。念入りに殺していかないと」
とニコヤカに言いつつ、
眼球に手を伸ばしてくるアモンに、
ボーレは、
「クビ! 舎弟、クビ!」
あわててそう叫ぶ。
「舎弟とか、俺、そういうの好きじゃないし! ちょっとしたジョークだから! 本気にするなよ、もー、あははぁ!」
「……そうでしたか、気付かなくて申し訳ない。冗談には慣れていないもので」
そう言いながら、アモンは自分の席に戻り、
「僕に何か用がある時は、いつでも声をかけてください。舎弟になる準備は、常時万端ですので」
「……あ、うん、はい」
と力なく返事をしてから、
すごすごと、自分の席に戻るボーレ。
席につくと同時、
険(けわ)しい顔で、
ゲンの肩に、
ドーン!
と、重めのグーパンをいれる。
「痛いんですけど」
「俺は、その何万倍も苦しんだんだ!」
「お前が悪いんだろうが」
「お前が止めなかったのが悪い! 俺は被害者だ! 被害者は常にただしい! というわけで、今後、龍委として働いていく上で発生する面倒事は全部任せた!」
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