第1502話 完成した老害。


「事実として、私が最年少であり、モノ心つく前から、あなたに手をひかれてきた。つい敬語が出てしまう程度のことは、許してほしいものだ」


 ポロっと、本音を口にすると、

 バンプティは渋い顔になって、


「そのような甘えは許されぬ。ゼノリカを……主の組織をナメるな」


「あなたを敬愛しているだけで、ゼノリカをナメているわけではない」


「いや、ぬしは、ゼノリカをナメておる。ナメているという言葉が気に食わぬのであれば、こう言い換えよう。ぬしは、主に対する愛が足りぬ」


「いや、まあ……確かに、私は、聖典教の信者ではないが……」


「九華のリーダーともあろう者が、主を信じていない……これは由々しき事態」


「……九華に聖典教の信者は、ほとんどいなかったような……」


 バロールやマリスは、聖典を暗記するほど読み込んでいるが、

 しかし、神を信じているわけではなく、

 カティに至っては『んなもんいるわけねぇだろ』のスタンスをとっている。


「というか、あなたも、正式には聖典教の信者ではなかったはずだが?」


 バンプティは、補佐として、

 直属の上司であるパメラノと行動を共にすることが多い。


 パメラノは、聖典教における教皇的な立場にあるため、

 聖典教関連の行事に参加することが多々ある。


 直属の配下であるバンプティは、

 聖典教関連行事の『ほぼ大半』に、

 パメラノの従者として参加している。


 ――その前提があるため、

 多くの者が、バンプティも聖典教の人間なのだろうと、

 勝手に認識しているが、

 実際のところ、

 バンプティは、聖典教の人間ではない。


 ……なのだが、

 しかし、バンプティは、

 『やれやれ顔』で首を横にふり、


「アホなことを……私は、生まれる前から、主の剣。聖典教の名簿に名前こそ登録されておらんが、しかし、そんなことは些細なこと。主を愛する気持ちで言えば、私の右に出るものはそうそうおらん」


「……神法的には『名簿に登録されているかどうか』だけが『聖典教の信者か否か』の判別基準なのだが……」


「そんな画一的な話はしておらーん! 私は心の話をしておるのだ、心の!」


(老害感がすごいな……こんな人じゃなかったはずだが……)


 ジャミは渋い顔で、


(……いったい、どうしたというのだ? この人も、私と同じで、根っこの部分では、主という概念に対して、一歩引いた目でみていたはずだが……)


 実際、そうだった。

 昨日までのバンプティは、

 『神帝陛下という概念』に対し、

 どこかで『懐疑的な感情』を隠し切れずにいた。


 これまでの人生経験等から、

 『おそらく、実在はしたのだろう』とは思っていたし、

 『あれほどの敬意を向けられる人物は、

  当然、素晴らしい神だったのだろう』とは思っていた。


 しかし、それは『理性の部分』での認識であり、

 本音だけを並べるのであれば、

 ぶっちゃけ『……ウソくせぇ』と思っていた。


 『この辺の機微』に関しては、

 むしろバンプティが正常であり、

 大概の人間は、聖典を読んだときに、

 『ウソくせぇ』と思うものなのである。


 だが、今日という膨大な経験を経たことで、

 バンプティの中で革命が起きた。


 バンプティの中には、

 間違いなく神が宿ったのだ。

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