第1423話 春によく沸くヤツ。
「最初に断っておくが、サインは遠慮してくれ。一人に書くと、全員に書かないといけなくなる。写真撮影もNGだ。俺の写真を家に飾られて、毎日拝まれるなんて、想像するだけで死にたくなる」
「犯罪者のサインや写真など、誰が欲しがるか、クソボケ。思想だけではなく、自意識までイカれておるのか」
「くっくっく、そんなことを言っていられるのも今のうちだ。貴様も、すぐに欲しくなるさ。俺の輝きにあてられた者は、誰だって狂信者になる。なぜならば、俺様は、この上なく尊い美の結晶だから」
「くだらんことを、ごちゃごちゃと、やかましい。少し黙れ」
カドヒトの純粋なボケに対して、
至極まっとうな反応を見せてくれるバンプティ
それが小気味よくて、カドヒトは、
ついつい、無駄なアクセルを踏み込んでしまう。
「黙れとは、ずいぶんなご挨拶じゃないか、バンプティ」
口元の笑みを深めて、
しかし、視線にはギラっとした光を入れて、
「なぜ、俺が、お前の命令を聞かなければいけない?」
「どうやら、私の意図が正しく伝わっていない模様。……ではこう言い換えよう。死にたくなければ黙れ」
「ははっ、いいねぇ」
カドヒトは、本当に楽しそうに、ケラケラと笑ってから、
「九華の末端風情が、この俺を殺せるとでも? 勘違いも甚だしいぜ」
そう言い切り、見栄を切ると、
右手の親指で自分を指して、
「俺は真実の伝道者カドヒト・イッツガイ。その気になれば、神界の深層を統べることも出来なくはない気がする稀代の超人。運命の調律だって、任せてもらえれば、なんだか出来そうな気もしないでもない……そういうレベルのスーパーサイコパス。俺がその気になれば、お前が100億人いてもワンパンよ」
「……なるほど、イカれておる……完全なキ〇ガイじゃ……春によく沸くやつじゃのう」
バンプティは、心底から呆れかえっている顔でため息をつき、
「できれば『こんなの』の相手はしたくないのじゃが……まあ、仕方がない」
そう言うと、静かに気を高めていく。
充実していく魔力。
オーラが全身をめぐって、
全身をシンと包み込む。
その様を見たカドヒトは、
「おー、おー、いいねぇ! なかなかの練度だ。長き時間をかけて、じっくりと磨いてきたのが伝わってくる……」
そう言ってから、
さらにジっと、バンプティのオーラを見つめ、
「いや……本当にいいな……あんたはすげぇよ、バンプティ」
「貴様に褒められても、まったくうれしくない」
そう言うと、バンプティは地面を蹴った。
きわめて制度の高い瞬間移動でカドヒトの死角にもぐりこむと、
右手に集めた魔力の塊を、カドヒトの側腹部にたたきこむ。
「ぐっ……っ!」
一発では終わらない。
続けて、二発、三発と、
バンプティは、重たい拳を叩き込んでいく。
素晴らしい速度、
素晴らしい練度。
『バンプティが積み重ねてきたもの』を、
その身で受け止めたカドヒトは、
瞬間移動で距離をとると、
「……心底から感嘆するぜ、バンプティ……あんたは、マジですげぇ」
そう言ってから、カドヒトは、背後のスールに視線を向けて、
「わかっていると思うが、絶対に手を出すなよ。ここで俺に加勢したりしたら、お前もマジで捕まるぞ」
「俺は『聖典におけるセンエースの在り方』に対して『まっとうな疑問』を抱いているだけで、ゼノリカに反意を示す気などさらさらありませんから、偉大なる九華の第十席様に手をだしたりしませんよ」
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