第1112話 万物最強の、真なる王。
「――『舞い散る閃光センエース』。世界最強は、お前じゃない」
ウムルの『その挑発』を受けて、
センは、
「……ふぅん」
低トーンで返事をする。
ほんの少し、心が熱化したが、
しかし、ウムルが発している特質性の奇異が、センエースの魂を鎮火させた。
センは、ウムルを探るような目でとらえる。
それは、図り切れていない目だった。
(俺のプロパティアイですら何も見えない……純粋な『見た目』でも、奇妙という点以外は何もつかめない……そして、こいつは、無知ではなく、『俺』が誰かを知っている……)
いったん、『その事実』と向き合ってから、
スッっと、短く息を吸って、
「では、誰が世界最強なのかな? そこのところ、ぜひ、ご教授願いたいね。もしかして、あんたが世界最強? だとしたら、ぜひ、お手合わせ願いたいな。『この俺』も、世界最強とまでは言わないけれど、しかし、そこそこ強いと思うから、退屈はさせないと思いまっせ」
センの返しは、ようするに『やるならやったるぞ』だったのだが、
ウムルはセンの返しをさらりと流し、
なんとも事務的に、
淡々と、感情のない声で、
まるで、事前に用意された台本のセリフでも諳(そら)んじているかのように、
「我が王は……貴様をはるかに超える虚空。万物最強の、真なる王」
「ふぅん、なるほど、なるほど。あんたの上司が最強なのね。了解でーす。で? いろいろ教えてくれて助かったけど、その目的は? 俺よりも強いヤツがいるって『真理』を俺に教えることがあんたの命題だってことはよくわかったし、あんたが教えてくれた『真理』は、俺にとって非常にショッキングな内容だった。――で? そういう諸々の行動にいたった動機は? 俺に真理を教えて……だから? いつだって、大事なのはそこだろ? 違うかい?」
センエースの問いに対し、
ウムルは、
安定のシカトを貫いて、
「我が王は、私などとは比べ物にならないくらい強い」
「あんたの王はすごい。あんたよりも強くて、すごくかっこいい。――うん、はいはい。それはもう十分わかったから、少しは会話をしようぜ」
「その事実を、忘れるな」
「だから、それは分かったと言って――」
と、センが心底ウザったそうな顔であしらおうとしたところで、
「――っと!」
ふいに、ウムルが豪速で殴り掛かってきた。
しなる体を弾ませて、
その拳を、ロケットのように突き付けてきた。
ギリギリのところで回避するセン。
スウェーでよけたのは余裕からではなく、
状況的にそれ以外の選択肢はなかったがゆえ。
つまりは最善策を強制された結果。
(はやいな……)
心の中でそうつぶやくと、
リンボーに近いスウェー状態のまま、
右手を地面にそえて、左足を軸に、右足の膝を、
グンッッ!
と、強く、突き上げる。
ウムルの腹にぶちこむつもりだったが、
ウムルは瞬間移動でその場から消えていた。
(軽やかだねぇ……)
そう評価しながら、
センはブレイクダンスのような鮮やかな回転で体勢を立て直すと、
『自由で高度なフェイントを入れつつ空間を翔(か)けまわっているウムル』を、
静かな心でとらえ、
(出力的には存在値1000くらい……だが、戦闘力はかなり高い)
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