第1068話 お前は誰だ?
「くるしゅうない」
その一言で、
脆弱な牢獄は、己が定めの完遂を解し、
スゥウっと、虚空へ熔けていった。
パラパラと、チラチラと、粒子となって、
まるで柔らかな風に吹かれているかのように、
スゥと、音もなく流れていった。
粒子の残滓がまたたく中で、
センエースは、
『ピーツ』『ドコス』『エーパ』『カルシィ』『パガロ』の『執念』を補足し、
「……ミシャたちに加勢してくれたこと、心から感謝する。お前たちの執念、この俺が受け止めよう」
そう言って、
彼らを、自分の『中』へと受け入れた。
『ソル・ボーレ』という特異な絶望によって生じた『彼らの死』は、今のセンエースでも『なかったこと』にはできない。
だが、その死を昇華させる事なら可能。
希望と、友愛と、誇りと、優しさを、
センエースは、丸ごと包み込む。
調和され、一致して、
そして、すべてがセンエースになっていく。
★
――粒子の残滓が晴れた時、
センエースの目の前には、
P型センキーが立っていた。
その向こうでは、アダムとシューリの二人が、
『象(かたち)を失ったミシャ(業)』のことを想いながら、
ツーっと、涙を流していた。
そんな彼女たちを見たセンエースは、
とても、厳かな、
しかし、とても穏やかな声で、
「安心しろ……」
凛と響く、英雄の声。
この上なく尊き神の王は、
奏でるように、
「ミシャ(業)は、俺の中にも、ミシャ(本体)の中にもいる……これは、感傷の慰めではなく、ただの事実」
センエースの言葉を受けて、
アダムとシューリは、
……コクっと、小さく頷いた。
彼女達も、また、
『全て』を思い出したわけじゃない。
というより、本当のところは、何も理解できていない。
ただ、解(わ)かる。
失ってはいけないもの。
決して、無くしてはいけないもの。
センエースと、彼女達の、根源的なコアを支えている原初の歴史。
――なんて、謎だらけの余韻に浸っていると、
独(ひと)り、蚊帳の外にいるP型センキーが、
「……お前は、誰だ?」
まるで、超一級の舞台。
役者も脚本家も、全員、幽玄でキ〇ガイ。
問われた神は、
ゆっくりと目を閉じ、
輝く息継ぎを経て、
パっと目を開き、
「俺は、究極超神の序列一位。神界の深層を統べる暴君にして、運命を調律する神威の桜華。舞い散る閃光センエース」
この上なく尊い口上。
頂(いただき)にたどり着いた神の名乗り。
それを受けて、
P型センキーは、一度うなずいてから、
「……そして?」
そう問われた『理想の英雄』は、
美しい予定調和に身をゆだねて、上品に見栄を切りなおし、
そのままの『厳かな流れ』を断つことなく、
果てなく優雅に、
「私は、運命を殺す狂気の具現。永き時空を旅した混沌の狩人。月光の龍神??????」
ラストに『奇怪なノイズ』の入った『不完全な名乗り』を受けると、
P型センキーは、
「……はは」
一度、からっぽの笑みを浮かべてから、
「……かぁぁっくぃい」
そう言うと、
そのまま、
「厄介なイヤがらせはもう消えた……昇華されて、満足したってことか……」
そうつぶやいてから、
「……別にもう意味ねぇ……なのに、許容量以上の運命力を削るべきか否か……いや、もちろん、やるべきじゃない。自粛すべき……わかっている……俺はバカじゃない……」
数秒悩んでから、
「けど……まあ、でも……」
アイテムボックスから、一枚の禁止魔カードを取り出し、
「さすがに、このままじゃ、おわれねぇからなぁ。せめて、一発だけでも……」
そう言ってから、スっと息を吸い、
「禁止魔カード、使用許可要請」
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