第981話 『タナカ・イス・トウシ』VS『ネオバグ』


「……あなたが神話狩りの『聖主』? ……レコードのデータから鑑みるに、あなたが『そんな地位に収まる』のは、ありえないと思うのだけれど……」


「最初にちゃんと言うとくけど、自分から言い出したわけやないからな。周囲の連中から、高度な嫌がらせ・レベルの高いイジメを受け取るだけ……そこんところ、勘違いせんように」


 トウシが喋っている間、

 ネオバグはずっと、彼のオーラを分析していた。

 高純度の解析能力などは持ち合わせていないが、

 オーラの質から、在る程度の攻略法は検算できる。



(これがタナカ家の傑作『タナカ・イス・トウシ』……なるほど、おそろしく強大……『完成した私』に匹敵している……凄まじい……)



「なんや、ワシを探っとるような目やな……安心せぇ。お前ごときでは、ワシを解する事は出来んよ」



「ずいぶんな自信家ね……まあ、そこまでの高みに至っていれば、鼻が高くなっても仕方がないけれど」



 そこで、ネオバグは、自身のコアオーラに発破をかけて、魔力とオーラを増幅させ、


「あなたがとてつもなく巨大な存在だという事は認めるわ……けれど、残念。少し足りないわね。私は、もっと歪んだ存在なの。辿り着いた虚無。全てを終わらせる闇。――私は、あなたよりも美しい」


 ニタっと笑って、


「ニルヴァーナ・コア、起動!!」


 ギアを上げた。

 胸部に付着している『カラータイマー的な何か』が、煌々と輝きだす。


「どう? わかる? 見える? 私が、あなた以上だって事実! あなたは、凶悪なオーラの持ち主だけれど、私はそれをも凌駕してしまっている! 完成した私が、真の頂点だという証! あなたは、私が完成した事を証明してくれる量(はか)りにすぎない!!」


 豪速のステップ。

 残像を残し、跳躍。

 踏み込んだ左足が轟音と爆風を起こす。

 ジオメトリの後押しをうけて、振り上げた拳が加速する。


 この速度に反応できるわけがないという見立ては、


「よっこらせ、と」


 ――あっさりと覆された。


 拳を絡めとられ、

 まるで体育教師の実演みたいに、

 ゆっくりと、背負って、投げられた。


 非常に滑らかな一本背負い。

 くるりと、弧を描いて、地面へ――


「がはっ!!」


 背中にガツンと強い衝撃。


「なっ――」


 全身が痺れていたが、

 そんな事はどうでもよかった。


「っ……なんで……」


 からっぽの疑問で埋め尽くされる脳内。

 『現状に対する理解』がまるで追いついていない。

 なぜ、自分は転がされているのか。

 さっぱり分からない。


「なっ……なにをしたぁああ!」


 ネオバグは、クンと、背中に力を込めて、即座に立ちあがって、

 再度同じように――とはいえ、先ほどとは少しだけ違う角度から、流水のような特攻を決めた。

 魔力の質を『反射』に設定してみたり、

 オーラに純度の高いエクシードを積んでみたり、


 いくつかの小細工を込めて、

 『丁寧な削り』を求めたが、


「はいよ、っと」


 タナカトウシは、その細い両手で、ネオバグの肩と腰を軽く掴み、両の腕を交差させるようにひねった。

 それは、非常にゆったりとした動きで、だから細部まで視認できて……

 なのに、回避するコトはおろか、距離をとるコトもできず、


 気付けば、ネオバグの視界は揺れて、

 その体は、クルンと側転していた。


「がはぁああああ!!」




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