第795話 暁ジュリア。
「ぁの……えと……その……」
岡葉は、ジュリアの威圧感にたじろいで、
ついには、トウシに助けを求める視線を送り、
「ボク、彼女に何か悪いこと言ったかな?」
トウシは、溜息をついて、
ジュリアに視線を送り、
「状況を考えぇよ、ジュリア……お前が男嫌いなんは知っとるけどもやなぁ、こんな状況なんやから、無意味な敵対は――」
「男嫌い? なに、そのイカれた勘違い。あたしが嫌いなのはあんただけ。他の奴の事は、好きでも嫌いでもない。どうでもいい。どこで野垂れ死のうが、どれだけ不幸になろうが、心底、どうでもいい。ほんっっとうに、全身全霊、どぉぉぉでもいい! あたしは、あんたを殺すために生きている。それだけ」
「……あ、そう。もうええ、お前、しばらく喋んな」
そこで、トウシは、岡葉に視線を向けて、
「悪いけど、あいつ、色々あって、情緒不安定やから、関わらんようにしたってくれる?」
「……あ、うん……そうみたいだね……」
★
ジュリアは、今でこそ、身長170センチ股下百センチ体重52キロの九頭身というパーフェクトスーパーモデル体型の超絶美少女だが、中一の冬までは、ただのデカいデブ。
ルックスに多大な不具合を抱えた少女だった。
当時は、ニキビも酷く、髪の手入れさえ怠るほど容姿に無関心だったため、周囲の心ない連中からは、『白い汚豚』・『ドリアン系ブス』・『ゴブリン突撃部隊隊長』などと散々なあだ名で呼ばれ蔑まれていた。
「汚豚、俺は、友達の気持ちが知りたいんだ。だから、お前は、今日から、俺のサッカーボールな。ボールは友達! というわけで、これから、色々と体験させてやるから、随時、感想をレポートするように。いいな」
「――工藤、お前は、だから、ダメなんだよ。もっと美しく蹴らないと、真にボールの気持ちを理解させる事はできないんだよ。ほら、こんなふうに」
「うわ、吐いた。おいこら、武藤。レバーにぶち込んでんじゃねぇよ。あーあー、もう、クツにかかっちゃったよ。ほら、汚豚、はやく、なめて、なめて」
性格は今とさほど変わらないが、しかし、幼さゆえに、現実に即した知識が乏しかった。
小学校を卒業したばかりの、勉強しかしてこなかった世間知らず。
だから、正しい抵抗ができなかった。
「イタイ」「ヤメロ」そんな事を口にしたところで、迫害の手が止まることはない。
むしろ激化する。
その地獄の行きつく先は、いつだって、
『キサマらのスベテをオワラせてやる』
自殺か虐殺の二択。
彼女が選んだのはその両方。
ただ彼女ほど本気で『その二つを完遂させようとした者』は少ないだろう。
(明日、終わらせる。どんなことがあろうと、少なくとも、工藤だけは絶対に終わらせる。あえて数日前から使っている、この無駄に大きなサイズのリュックサックなら、チェーンソーだって、バレずに持ち込める。明日、あいつらは終わる)
彼女の計画は完璧だった。なによりも完璧だったのは決意。
――復讐後に自殺する覚悟。
『死ぬ気』で臨めば、女子中学生でも、男子中学生の五・六人を殺す程度は朝飯前。
(チェーンソーの刃を首にあてる。それを五回ほど繰り返すだけの簡単なお仕事)
頭の中で念入りにリハーサルをした。
チェーンソーの使い方も入念にチェックした。
問題はなにもない。
そう思っていた。
――起こった問題はひとつだけ。
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