第732話 かったるい集団行動。


 護衛役のカルシィと、そんなカルシィの護衛役であるドコス・エーパの二名。

 そして、勝手についてきているボーレ。


 そんな、妙なメンツと行動を共にしているピーツは、

 現在、心の中で、


(だっるぅ……めんどくせぇ……集団行動うぜぇ……俺、こういうゲーム的なクエストは、独りでやりたい派なのに……)


 ブツブツと、文句をたれていると、

 そこで、


「キシャァ!」


 前触れもなく、森の奥から、電気をまとったオオカミがあらわれて、飛びかかってきた。

 存在値20ちょっとの『サンダーウルフ』。


 こんな近場では滅多に現れない、そこそこ強くて、なかなか危険なモンスター。

 『クア森林の浅層限定』で言えば、かなり最悪に近いエンカウント。

 だが、



「まあ、とりあえず、赤点は回避だな」



 カルシィは、ヒュンと細剣を振りながらそう呟いた。

 すると、サクっと首が飛んで絶命するサンダーウルフ。


 フーマー大学園の学内ランキング5位の超越者カルシィの実力はハンパじゃない。

 まだ10代と、かなり若いのに、その存在値は60をゆうに超えている。

 まだまだノビシロを残していながら、既に、各国の王族級。

 それがカルシィという天才少女。


「ピーツ、このサンダーウルフは、君の記録にしておけ」


「へ?」


「退学されても困る。この記録で赤点を回避しなさい」


「……はあ」


 『無理して断る』ほどの事でもないし、

 それに、断っても、どうせグイグイくるだけだろうと思い、

 ピーツはテキトーに、生返事をして、

 懐から、魔石を取り出し、それを、サンダーウルフの死体に当てた。


 すると、サンダーウルフの死体から、微量の魂魄が放出され、魔石の中へと入っていく。

 そして、残りの大本の魂魄は、カルシィの中へと入っていった。


 ピーツが使った魔石は、入学式で配られるものであり、

 フーマー大学園に属する者なら誰でも持っている。

 色々な記録等を残せるようになる、かなり便利で高性能なマジックアイテム。


 その背後では、ドコスとエーパも、サンダーウルフを狩っていた。

 どうやら、群れだったようで、

 ピーツたちは、5体のサンダーウルフに囲まれていた。


 本来であれば、メチャメチャ危険な状況。

 冒険者であっても、王族級でなければ、かなり苦労する局面。

 だが、ドコスとエーパも相当な実力者で、その存在値は50台と凄まじく高いので、サンダーウルフ数匹くらいなら余裕で対処していた。


 学内ランキング上位20名は、全員、存在値50を超えている。

 存在値50といえば普通に王族クラスなのだが、

 そのランクの者がごろごろいる特殊機関。

 ――それが、フーマー大学園。

 世界最強の国家が有する世界最高学府。



 ちなみに、ボーレも、


「よいしょっと」


 サンダーウルフ程度なら、楽に狩っていた。

 魔法を込めた鈍器で、サンダーウルフの頭を一発で砕く。


「はい、赤点回避~」


 鼻歌まじりに、サンダーウルフの魂魄を魔石に収めているボーレに、ピーツが、


「驚いた……先輩、意外と強いんだな」


「……あのな、後輩……俺は腐っても、フーマー大学園の8年生だぞ。サンダーウルフくらい狩れるっての」


 フーマー大学園の上級生だったら、全員サンダーウルフ(存在値20)を狩れるかというと、決してそうではない。

 学生の中には、『戦闘技術が低いから、冒険者試験ではなくフーマー大学園を目指した』という者も大勢いる。

 その手の者達は、サンダーウルフにも、まあまあ苦労する。


 つまり、ボーレは『そっち系』の学生ではないということ。

 というか、むしろ、その真逆で、

 かなり戦闘に特化したタイプ。



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