第718話 存在値の違い。
「ゲームキャラみてぇに、同じことを連呼しやがって……ハリボテ野郎が……」
つぶやいてから、ピーツは、『ピーツがもともと所持していたナイフ』を抜いた。
特に攻撃力が高いわけでも、特殊な魔法がこめられている訳でもない、
どこでも売られている、切れ味の悪い果物ナイフ。
武器と言うより、本当に、ただの、ちょっとしたツール。
筆箱に入っているカッター的な存在と言えば、
このナイフのポジションが理解しやすいだろうか。
「もうネタは割れてんだよ。出オチ野郎……どうせ、お前は、アレだろ? キンハーで最初に出てくる恒例ボスみたいに、『ただ強そうに見える』ってだけのチュートリアル・ザコだろ?」
言いながら、ピーツは、ナイフをふりかぶって、
「死ねぇ! そして、俺の初経験値になるがいい! これで、俺はレベル2になった!」
そう叫んで、ナイフをふりおろすピーツ。
全力で振り切った。
思いっきり、刃物を、力一杯、
亜サイゾーの頸動脈をめがけて、振り下ろした。
相手が第一アルファの一般人なら、なかなかの確率で命を奪えるであろう狂気の一撃!
――が、
キィン!
と、あっさり弾かれた。
亜サイゾーの首はまるで鋼鉄だった。
「……いってぇ……うぁ、痛ったぁ……痺れる……てか、うそだろ……ぉい……」
ナイフを弾かれた方の手がビリビリと痺れている。
二度目を振る気力は湧かなかった。
一撃で、アッサリと戦意を削がれてしまった。
「さっき、私の存在値は53万だと言ったな。あれは確かにハッタリだ。ちょっとした小ネタジョークでしかない」
そう前を置いてから、
「私の本当の存在値は1500だ。これは嘘ではない。証拠というワケではないが、少しだけ、私の力を見せよう」
亜サイゾーは、魔力を注ぎながら右手を天に向け、
「獄爆天撃ランク19」
魔法を使うと、
亜サイゾーの頭上で、
黒い稲妻をまとった火の玉が出現し、
その火の玉は、メキメキと音をたてて膨らんでいって、
そして、
ドガァアアアアアアン!!
と、強大な爆発を起こした。
爆風や熱波等は、亜サイゾーの魔力で制御されていたため、ピーツに届く事はなかった。
完全に統制された『非常にお行儀のいいエネルギー』の炸裂。
だが、その苛烈な爆発を目視するだけで、異常性が充分に理解できた。
「……ぁ……ぇ……ランク……19……?」
魔法のランクは、エックス級の世界の場合、『5』が天才と凡人を分ける境となる。
3~5までは、才能(スペシャル)がなくとも、死ぬ気で努力すれば使えるようになる(魔法がド下手という、『レッドスペシャル』を有している場合、一生かけても3くらいが限界)。
『ランク5』から先となると、『凡人(魔法習得に関するスペシャルを何も持っていない者)』では『運よく不老のスペシャルを手に入れて、1000年ほど修行する』という仮定を経なければランク6は使えない。
勇者のような超天才だと、ランク7とか8の魔法も使える。
しかし、そこらへんが『エックス人』の限界。
※ 第一以外の『アルファ人』だと、10~12くらいが基本的な限界。
『第一アルファ人』の場合、限界というものが基本的に存在しない。
スキルやスペシャルのレアリティだけで言えば、
セン以上の『クオリティ』を有する者はいくらでもいる。
(経験値倍率とド根性はセンが全世界一だが)
第一アルファ人は、比類なき、最強の優良民族!
資質だけなら、ぶっちぎりの世界一ィイイイイ!!
勇者のように、特異な能力を持つ者が、特殊なアイテムを育てることで、限定的に『ランク9』の魔法を使用可能とするという場合もない事はないが、それは、もう、本当にレアケース中のレアケース。
――それが、魔法のランクに関する常識。
仮に、ランク6の魔法なんてものが使えるなら、
魔法実技系の科目を総なめするだけで、楽に学士~修士までは取れる。
しかし、目の前にいるバケモノは、
「じゅう……きゅう……」
存在値1500と言われても、正直、ピーツにはピンとこない。
『53万』も『1500』も、ふざけた数字としか思わない。
ただのつまらない出オチギャグとしか認識できない。
だが、ランク19の魔法と言われれば、ギリギリ、想像が出来た。
『二桁』という、馴染みのある数字だったので、
ギリギリ、『途方もなさ』がイメージできたのだ。
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