第716話 孵化。
卵が割れて、中から、
「きゅいっ!」
と、かわいらしい鳴き声を出す小さな龍が出現した。
手乗りサイズで二頭身の愛らしい龍。
モッフモフの子猫を凌駕する可愛さ。
その『手乗りサイズのドラゴン』は、背中から生やしている小さな翼をパタパタさせて宙を舞うと、ピーツの頭の上にポスンと着地して、猫のようにクルンとまるまり、
「すーすー」
と、寝始めた。
「……どうなってんだよ……」
謎の状況に戸惑っていると、さらに、
「ん?」
割れた殻が、手の中でもぞもぞと動いていた。
「うわ、きもっ」
うごめいている殻は、やがて、長方形のてのひらサイズになって、実体化していき、
そして、
「……スマ……ホ……?」
ほぼ完全なスマホになった。
※ これは『MDデバイス』と呼ばれる、『携帯ドラゴンのマスター専用』の特殊なマジックアイテム。
ピーツは、眉間にしわを寄せながらも、
そのスマホ(MDデバイス)の画面をススっといじってみる。
すると、
メニューには、アプリが一つだけあって、
「……携帯ドラゴン……」
一つだけ表示されるソフトウェア。
それは、『携帯ドラゴン』という名称のアプリだった。
実は、ピーツは、そのアプリのことを、
「携帯ドラゴンって……あの、携帯ドラゴンか……?」
良く知っていた。
携帯ドラゴン。
それは、センエースが第一アルファで唯一ハマった携帯ゲームだった。
課金こそしなかったが、かなりノメり込んで、
ずいぶんな長期間、石を溜めて、盛大にガチャをまわし、
そして、豪快に爆死して引退したという黒い歴史をもつスマホゲー。
ピーツは、頭部で寝ている小さな龍の首裏を、
まるで猫のようにつまんで、目の前まで持ってきて、まじまじと見て、
「確かに……初期状態の携帯ドラゴンっぽいけど……」
「くぁあ~」
と、小さく愛らしくアクビをする携帯ドラゴン。
ピーツは、その子を、とりあえず、いったん、頭の上に戻してから、
MDデバイス(スマホ型のマジックアイテム)のアプリ内容を確認する。
だいたいは、スマホゲーの時と同じで、
「ここで、所有している携帯ドラゴンのステータスを確認できます……と。ほぼ同じだな」
ステータス確認を選択してみると、
000000000000000000000000000000000000000
登録名 『??』
型番 『IS=GPQC/タイプD95775‐GX9』
《強化値》 【1%】
《容量》 【200】
[HP] 【1%】
[MP] 【1%】
「攻撃力」 【2%】
「魔法攻撃力」 【1%】
「防御力」 【1%】
「魔法防御力」 【1%】
「敏捷性」 【1%】
「耐性値」 【1%】
111111111111111111111111111111111111111
ステータスを確認したピーツは、
「……見事に初期能力。……『俺がやっていたセーブデータが適用される』とかではないんだな。『スマホゲーのセーブデータが異世界でも適用される系』のネット小説は多いから、少し期待したんだが……」
ピーツの頭で寝ている携帯ドラゴンは、何も出来ない完全初期状態。
ゲーム開始直後の能力。
「まあ、初期状態でも充分に強いという可能性もなくはないが……というか、こいつは、戦闘で使える系のアレなのか? それすらも今のところはサッパリだな……」
ステ確認以外にも、いろいろとアプリをさわってみるピーツ。
「どうやら、ガチャも使えるみたいだが……どうやってポイントを得ればいいんだ?」
『MDP』という『石(ポイント)』を溜めると回せるのだが、
そのポイントの取得の方法がさっぱりわからない。
このアプリは、本来のスマホゲーと違い、
スマホ内でゲームプレイというのは出来なかった。
現状だと、『ステ確認』と『ガチャがまわせる』という二つの機能しかない。
「課金か? 課金しかない感じか? よーし、じゃあ、コンビニでアイチ〇ーンカードを……って、コンビニなんかあってたまるか、ボケ! 異世界ナメんな!」
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