第710話 龍試。
ピーツは、数少ない『記念受験生』だった。
自分のスペックを十二分に理解していた彼は、『この人生では何者にもなれない』とハッキリ理解できていた。
何も成さず、ただ生きて、ただ死ぬだけの空虚な人生。
そうなることはわかっていた。
だから、彼は、『大学園に落ちた』という看板を欲した。
『何者でもない』よりは『大学園に落ちた者』の方がましだと思った。
意味不明……とも言い切れない、感情の錯綜(さくそう)。
だから、本人も、まさか受かるなんて思っていなかった。
つまりは、本当に運だけで受かってしまった。
ただ、周りは盛大に喜んでくれたため、辞退する訳にもいかなかった。
『せっかく入学できたんだから』との想いもあり、
どうにか頑張ってみようとはしたものの、当然、まったくついていけず、
結果、精神的に追い込まれて、自殺という選択肢を選んだ。
試験の選択肢では運で正解しまくったのに、
人生の選択肢はミスってしまったという、ちょっとした小話。
(1単位しか取れない基礎科目でもお手上げ……いやいや、これ……龍試なんてとれるワケねぇぞ……やべぇな……)
ピーツは思う。
(……三年くらい基礎学習の詰め込みにあてて、残り五年で単位を回収するという作戦を取れば、どうにか学士号は取れなくもないだろうが……)
根性の塊センエースがその気になれば、
『大学園で学位を取る』くらいの事は、そこまで難しい事ではない。
フーマー大学園の難易度は高いが、『学士号』までなら、根性さえ据わっていれば、誰でも取れる(フーマー大学園にちゃんと入学できるだけの力がある者なら、誰でも)。
ただ、
(だが、別に、俺の目標は学位を取ることじゃねぇんだよなぁ……)
ピーツの目標は、悪の宰相ラムド・セノワールの討伐。
そのために、冒険者試験を突破する必要があるだけで、
年単位をかけるのであれば、わざわざ龍試を経る必要などなく、
単純に、来年か再来年に冒険者試験を受ければいいだけの話なのだ。
★
10単位が取れる実技――通称『龍試』。
龍試には、『講義+テストのパターン』と『テスト一本勝負のパターン』の二つがある。
龍試は『宝くじ感覚』で受けるやつを減らすため、
『成績が極めて悪い者は退学処分にする』という処置がとられる。
そのため、龍試は、学内ランキング上位の者しか受けない。
ガチガチのエリート志向の者だけが受ける最高峰の科目。
龍試の『合格数』が、大学園内では最大級のステータスになる。
ちなみに、学内ランキングは、学生の総合スペック+テストでの評価で決まる。
大学園の学生は、全部で2000人~2500人くらい。
現在のピーツの順位は、2000人以上が在籍するフーマー大学園内で、ぶっちぎり最下位!!。
完全に周りの人間からシカトされているレベル。
エリート志向が蔓延しているフーマー大学園では、
学内ランキングが全てみたいな所がある。
ちなみに、勇者は歴代ぶっちぎりの一位を獲得していた。
本来なら、『流石の大天才』ともてはやされるところだが、
あまりにも態度が悪すぎたため、
当時は、最下位のピーツよりもシカト&敬遠されていた。
ちなみに、各学年の人数は↓な感じ。
1年生は300人、
2年生は295人
5年生は270人、
8年生は250人、
9年生は120人、
12年生は50人、
15年生は10人くらい。
★
3限が終了したところで、食堂に向かうピーツ。
定食を購入し、なんとかあいている場所を見つけて、腰を下ろすと、
そこで、
「勇気があるな。それともただの無知?」
二つ隣に座っている『気ぐらいの高そうな青年』から、そんな風に声をかけられた。
そこで、ピーツは記憶を探ってみた。
そして気付く。
ピーツが腰かけたココは、学内ランキング上位者限定のテーブルだった。
別に、学校内のルールでそう決まっているというワケではない。
どの世界にも存在している、暗黙の了解。
だから、ピーツは、
(おっとっと……俺、めんどうな事をしちゃったねぇ……)
と、心の中で焦った。
空気が読める『閃壱番』は、第一アルファだと、ちゃんと、『この手の面倒』を綺麗に回避してきた。
「その顔、ここがどういう席か思い出したようだな? どうする? 居座るか? それとも、退散するか?」
「……もちろん、退散します。上位カーストに対する反骨精神とかは持ち合わせていないので」
「賢明だ。ここに座っている時点で、賢くはないが」
気位が高そうな青年は、ジットリとした重たい目で、ピーツを睨み、
「……『分』と言うのは、キチンとわきまえないといけない」
言われて、ピーツは、
「……ははっ、ですよねぇ」
と、場を流すような笑い声をあげてから、
定食の乗ったトレーを両手に立ち去ろうとするが、
(……ほかは、あいてねぇ……)
既に、低成績者用の席はうまっていた。
立ち往生していると、
周囲から、クスクスという笑い声が聞こえてきた。
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