第708話 基礎魔法実技Ⅰ。
「では、実験室でモルモットのアルバイトをするのはどうです? 日給で金貨が貰える治験もあるようですよ。まあ、かなりの高確率で『だいぶイカれた副作用』が出ますが」
「……遠慮しておきます」
「いけませんねぇ。アレもイヤ、これもイヤでは……ほんとうに、あなたはどうしようもない」
(……『高確率でだいぶイカれた副作用が出る治験』に二つ返事で参加するやつの方が、『どうしようもなさ』では上をとると思うが……)
と、そこで、
「先生! ちょっといいですか!」
「ん、なんですか?」
同級生の女学生が、教師を呼んだため、 どうにか、解放されたピーツ。
ホっとしていると、
後ろから、
「ついには、あいつ、ランク1の魔法も使えなくなったらしいぞ」
「珍しいヤツだな。大学園に入って勉強すればするほど能力が落ちるとは」
「なにそれ、絶対にほしくない特殊能力っ」
「なんで、大学園に入ったんだ、あいつ」
「――『自分じゃついていける訳がない』っていう事すら分からないくらいバカだから」
「俺なら自殺するな」
それらの会話は、どれも、『ピーツに聞かせようとしている声音』というワケではなかった。
ピーツは、別に、イジメられているわけではない。
大学園に入れるくらい優秀な者なら、『他人をイジめても自分に益はない』という事くらいは理解できる。
その場で多少はストレスを解消できるかもしれないが、最終的には『かつてイジメをしていた自分』を想いだして『後悔する事になる』と理解できるだけの頭がある。
だから、率先して、クツを隠したり、水をぶっかけたり、などという事はしない。
だが、『思っている事が口から出てしまう』ぐらいのことはある。
「いやいや、わざわざ自殺しなくても、やめればよくない?」
「いや、やめるのは、いろいろと、なかなか厳しいものがあるだろ」
「プライド的な理由で? あいつにそんなものないだろ」
「いや、そういうのじゃなくても、大学園をやめるのは勇気がいるぞ」
「あー、それもそうか……『大学園に入れる』ってなれば、家族も親戚も沸いただろうからなぁ」
「学費で、親が借金しているかもなぁ」
「となると、やっぱり、自殺だろ? 簡単だし。クイっと首をしめればいいだけ。それで楽になれる」
「提案してきてやったら? あいつ、たぶん、『自殺すれば楽になれる』って事も理解できていないだろうから」
「いや、それを理解する頭ぐらいはあるだろ。もし、それを理解することすらできないほどのバカなんだとしたら、話しかけたくねぇよ。変に近づいて、バカが移ったらどうする」
などという会話を耳にしながら、ピーツは、
(あー、まー、この環境なら、自殺するかもなぁ……)
などと考えていた。
(俺みたいに『自ら孤高を選んで生きている』って場合だと、ああいう『他者の声』に対して何も感じないけど、普通に生きているやつからすれば、まあまあキツいだろうなぁ……)
そういう『普通の人間』として生きてきた『記憶』はないので、『自分の陰口を耳にした一般人』がどういう心理になるのか、デジタルには理解できないが、『閃壱番』も、人間の心を持っていないワケではないので、予想をつけるくらいはできる。
サイヤ人でなくとも、ネクタイしめてお受験面接に挑むカカロットを見て『内心、絶対にイヤだろうなぁ』と、宇宙一の戦士の気持ちを感じとることはできる。
★
フーマー大学園について。
・概要(読み飛ばし可)。
フーマー大学園では、『~~年で卒業』などという目安はない。
『難しい科目』であればあるほど、多くの単位を獲得でき、早く号(学位)が取れる。
8年以内に120の単位を取れば、『学士』に、
12年以内に350の単位(鬼試三つ以上合格を含む)を取れば『修士』に、
15年以内に800の単位(龍試5つ以上合格を含む)を取れば『博士』になれる。
『簡単に単位が取れるもの』は、かなり少なく、最高学位である『博士号』を取ろうと思うと、『バカみたいに難しい科目(鬼試)』や『死ぬほど難しい科目(龍試)』も履修しなければいけないため、よっぽどの才能がないと博士号はとれない。
また、『基礎魔法実技Ⅰ』のように『簡単に履修できる科目』もあるにはあるが、
その『簡単』というのは、あくまで比較の問題。
『他の科目と比べれば簡単』というだけで、基礎魔法実技Ⅰは、
ハッキリ言って『第一アルファで車(マニュアル)の免許を取る』よりも大分難しい。
一科目で取れる単位は基本的に1単位で、ちょっと難しいものなら2単位もらえる。
2単位もらえる科目はテストが難しいため、『学士』だけを目指す者は、基本的に履修しない(よっぽど得意な科目とかなら話は別。めちゃめちゃ剣が上手い者は、魔法の科目を捨てて、『応用剣術Ⅵ』などの難しい科目で単位を稼いだりする)。
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