第564話 ジャミの記録。
最優先すべきは『ゼノリカ』という組織。
とはいえ、ゼノリカという『箱』を守ろうとしているのではない。
最も重要な事は『全てを包み込む光で在り続ける』ということ。
偉大なる英雄が築いてくれた全てを、誤りなくキチンと、後世へと繋いでいくこと。
そのために必要な事はすべてやる。
それだけの話。
言葉で言うのは簡単だが、実行するのは難しい理想。
ここまで完璧に『その理想』が実現されているのは、『努力した者が報われるシステム』がきちんと構築されている、というのが大きな要因である。
ゼノリカでは、余計なだけの『黒い思考』に支配されることなく、いつまでも、高潔でい続ける事が許されるシステムが組まれている。
そのシステム構築に費やされた時間と労力は膨大だが、
おかげで、ゼノリカはほとんど完璧ともいっていい美しさを手に入れた。
高潔な意志と、家族に対する愛情と敬意。
バロールは、カティに対して色々言ってはいるが、彼女の事を心底から尊敬している。
そして、カティもそれは分かっている。
そうでなければ、プライドの高いカティが、脆弱だのなんだの言われてヘラヘラ笑ってすませるはずがない。
もし、どっかの名前も知らないクズに罵られようものなら、仮にその悪口が『バロールから言われたものと全く同じ内容』であったとしても、カティは、容赦なくキレて、そのクズを灰にするだろう。
ゼノリカに属する者たちも『所詮は一個の生命』でしかないので、もちろん『高潔なだけ』ではなく、『言い過ぎ』たり、それに対してキレる事もあるし、純粋に配慮が足りずに誤解を生んでしまうことなども多々あるが、根柢の部分での信頼関係があるため、いつだって、『本当の最悪』には至らない。
――ワイワイと、休息がてら、親交を深めている九華の面々。
と、そこで、
バーンッッ
と、扉が開く音がして、
『バロールが使っていた扉』の隣にある扉から、汗だくのイケメンが出てきた。
「お、やっと出てきたようだねぇ」
「ほんと、随分と長かったわね」
サトロワスとテリーヌの言葉を聞き流しながら、
そのイケメンは自分の記録を確認する。
「……ちっ」
記録が不満だったのか、強めに舌打ちをする、その若いイケメンは、
ゼノリカの天上、九華十傑の第一席『ジャミ・ラストローズ・B・アトラー』。
とてつもないスーパーエリート集団である九華の中でも、ブッチ切りの才覚を有する超天才。
「どうだったんだ、ジャミ」
言いながら、バロールが、後ろからモニターを覗きこむ。
そこに表示されていた数字は、
「……は? ……1090時間?」
「え?! うそぉ!」
カティも、バロールの横から覗きこむ。
そこには、確かに、彼らとはケタの違う数字が表示されていた。
「うーわ……マジじゃん……引くわぁ……」
ドン引きしているカティを横目に、
バロールが、ジャミの肩を叩きながら、
「おい、ジャミ。なんだ、その不服そうなツラは。あてつけか? 九華最低最弱の名をほしいままにしている私に対するあてつけか?」
「ああ、すまない。そういうつもりはいっさいない。ただ、先生……パメラノから、事前に、『この上なく尊き神』の『記録』を聞いていたので……自分の矮小さにイラっときただけで……」
「神の記録? 神帝陛下も、これを利用したということか?」
「ああ、どうやら、そうらしい。……それも、時間圧縮の倍率を10倍以上に引き上げた『遥かに難易度の高いバージョン』で臨まれたらしい」
時間圧縮は、倍率を上げれば上げるほど、訓練のしんどさが跳ねあがる。
そんな事は、ここにいる全員が知っている(訓練施設の概要について、パメラノから聞かされているため)。
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