第354話 神を目指すラムド
ゴートは、
(重要な役目だ。俺は、表だったアンチテーゼでありながら、ゼノリカのハト派とリーンを導かなければいけない……)
ラムド・セノワールは、ゼノリカのタカ派。
それは絶対的な立ち位置。
世界視点での分かりやすい巨悪。
『倒せば終わりの王将』
その上で、ジンテーゼへ辿り着くためのかけ橋にならないといけない。
そのポジションが、魔王国の宰相。
これから、成りあがっていく国家の頂点『偉大なる魔王リーン・サクリファイス・ゾーン』の、『片腕』にして『愚者』にして『道化師』にして『黒幕』。
世界の敵として注目を集めながら、ひそかにリーンを導いていく。
当のリーンにすら気付かせずに、
リーンからのヘイトをも集めながら……
(……非常に難しいポジション……)
――理解に届くと、ゴートは、思わず、ゴクっと息をのんだ。
その理解は、当然、その先にも届く訳で、
(このミッションを成功に導いた者は神となる。基本的には、UV1と長強と沙良想衆が候補者。だが、全ての中心に、俺はいる。つまり、俺には、権利はなくとも交渉材料ならあるってことだ)
ただの『かけ橋』――『道具』で終わるか。
それとも、その先を目指すのか。
それは、これからの行動しだい。
(使い捨てで終わるつもりはねぇ。これはチャンス)
可能性はある。
未来はある。
いや、創れる。
どちらも、ゴートの手の中にある。
――バロールが、
「己の才覚だけで魔王国を導け。魔王国にはこれから大きな仕事を任せるつもりでいる」
「導け、とは……具体的に、どの程度を御望みでしょう」
「……『どんな方法を使ってもいい』から二位まで持って行け。フーマーを超える必要はない。だが、限りなく近づけ。とにかく、魔王国を、大国にしておくんだ」
どんな方法を使ってもいいから。
その言葉に、明らかに力が入っていたのをゴートは聞き逃さなかった。
そこが、もっとも大事なところ。
――酷く強引に主張を貫け。
――妥協も協調も必要ない。
――強硬に理念を押し通せ。
――ハッキリと間違えながら、それでも、怯まずに、前へ進め――
そこで、ゴート(ラムド)は、あえて、
「最終的な目標をお聞かせいただければ、よりよく事を進められるかと存じますが、いかがですか?」
『それ』を聞く。
あえて口にさせる。
分かってはいる。
理解はできている。
ここまで聞けば、バロールが何をしたいと思っているかくらいわかる。
だが、忖度するだけでは不十分。
『この先』を目指すのであれば、『ここ』を『明確なフック』にする必要がある。
(バロール猊下……あんたには、俺が、ゼノリカ内部で地位を上げるためのとっかかりになってもらう)
ラムド――『センエース』の現時点における基本的な『出世欲』は『下の中』がいいところ。
もちろん、ただのバカではないので、『出世欲は醜い』などと浅はかな事は言わない。
『出世しなければ出来ない事がある』という現実問題は理解できている。
ただ、日本の警察で働いていた時、『出世しただけ苦しくなった』という現実に襲われた。
ゆえに、出世欲は少ない。
ゴートは思う。
――ゼノリカでも、当然、同じことは起こりうるだろう。
――上に行けばいくほどしんどくなる。
当たり前の話。
だが、『ここ』にいるだけでは出来ない事が確実にあるのだ。
結果、ゴート・ラムド・セノワール(センエース)は、高みを目指す事に決めた。
――その這い上がると決めた覚悟が、この世界に、本物の混沌をもたらす――
目的を聞かれたバロールは、
「本音で言おう。誇れる実績が欲しい」
確かな本音を口にした。
愚直なのではない。
ラムドを『取るに足らない存在だ』と認識しているがゆえ。
だからノンキになれる。
「私は、『主』の目指す先を実現したい。主は『絶望の先にある救済』を成すつもりであられる」
想いを隠す必要すらない相手。
それがバロールにとってのラムド。
今のラムドは、バロールにとって、ちょっとした道具でしかない。
「私は、主の望みを完遂し、神に報(むく)いた者となりたい。あえて、幼稚な言葉を使おうか。私は、主から『よくやった』と褒められたいのだ」
バロールの発言を受けて、ゴートは思った。
(この猿顔、狂信者タイプか……勝手にリアリストタイプかと判断していたが、思いっきり外れたな。まあ、俺は心理分析が得意な訳じゃねぇから、別にいいけど……)
顔や仕草を見て、だいたいの、タイプ分けをする。
それは、生きていく上で必須のスキル。
正解・不正解は、さして重要ではない。
重要なのは、正解や不正解を積んでいく事。
その数と質が、その人間の器になる。
(いもしない神に褒められたいと願う、その気持ち。俺には分からない。だが、分からなくても問題はない)
ゴートは思う。
(バロールの目的は理解できた。まずは、それに沿ってプランをたてる)
すり寄るつもりはない。
だが、まずは、『使える』という評価をもらう所からはじめるしかない。
今のラムドは、それだけ低い所にいる。
ここから這い上がるためには、目の前にあるチャンスを全力でモノにしないといけない。
(必ず成功させる。そして、俺も、この猿顔と同じポジション……神を目指す)
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