第274話 われわれは高潔すぎる
「……」
バロールは、眼球に力をこめたまま、しかし少しだけ黙る。
テリーヌの言い分に屈した訳ではない。
『気付けばMAXに達していた主への忠誠心』が、頭の中を支配しただけ。
――それと、
「あんたは九華の一柱。私と同じ、華麗なる神族が一人……私は、家族に猿がいるとは思いたくないのだけれど?」
そこで、場の熱が、一気に下がる。
バロールが、ただの輩(やから)なら、まだかみつくだろうが、
「……ちっ、いつまでもアネキ面・先輩面しやがって……たかが200年ちょっと早く九華に上がっただけのくせに……」
バロールは、殺気を収めて、そうつぶやくだけにとどめ、テリーヌから視線をはずした。
追及はできる。
テリーヌは、間違いなく、少し言いすぎた。
九華に属する神族が一人とはいえ、『過ち』を犯さないわけではない。
そして、『本当に大事な場面でならば、謝罪する事に苦はない』が、『この程度のちょっとした失態』で、『弟』に対して頭を下げられるほど、テリーヌのプライドは安くない。
その、ちょっとした『しょうもないともいえるプライド』を、バロールは、弟として立ててやった。
結局のところ、この一幕は、それだけの話。
どれほど地位が高くなろうと、結局、人間関係の本質は変わらない。
そんなお話――
落ちついた二人を横目に見ながら、ジャミはフゥと息をはく。
年的には一番若いし、九華になったのも、『他の九華視点』でいえば『つい最近』だが、ここにいる誰もが、ジャミの事は認めている。
とてつもない才能。
圧倒的な資質。
神聖を感じさせるほどのカリスマ。
三至天帝から、正式に、『九華の主席』という地位を賜っているという事実。
伊達ではない、ケタ違いの素質。
ジャミの力は、五聖命王とほぼ対等。
――どころか、相性のいいミシャンド/ラが相手ならば、
やり方次第では、肉薄する事も不可能ではない。
そんな領域にいる超魔人。
場に静けさが戻ってから、
パメラノに続く、この中では二番目の年長者であるサトロワスが、
「はっはー、みんな、ピリピリしているねぇ。まあ、気持ちはわかるよ。私も同じさ。正直、あれほどとは思っていなかった。やばい、やばい。神様、すごすぎさね。ぜひ、直接お会いしたいところだけんども……まあ、厳しいだろうねぇ。ちぃと、住んでいる領域が違いすぎるって感じだ。これでも、私は、第三アルファだと、太陽神とまで呼ばれているんだが……ははっ、本物の太陽を、少しみくびりすぎていたって感じかな? 全てを照らす神様は、うん……実に遠いねぇ」
空気を変えるようにそう声を発した。
サトロワスの気配りにかぶせるように、アルキントゥが続けて、
「あらためて、自分が『どこ』に属しているのか、理解できた気がしましたわ。アダム殿にも言われてしまいましたが……どうやら、私は慢心していたようです。精進しなければいけませんわね」
――九華十傑。
それぞれが、それぞれの世界では、神のように崇められている者達。
正式な神族が一柱。
現世において、最も位の高い生命。
神を除くすべての頂点。
生きとし生ける全ての者達の支配者。
当然のように、それぞれの配下の前では、支配者然としているのだが、
やはり『家族』の前では、気が抜けてしまうようで、
というか、むしろ、普段が気を張り過ぎているため、
かつ、事前の緊張からの緩和から、今の彼・彼女らは、かなり緩んでいる。
「ところで、悪とはどういう意味だ? なぜ、われわれは、悪の組織を目指すのだ?」
ふいに、バロールが、主の御言葉を思い出してそう言った。
すると、それまで黙っていた九華十傑の第二席であり、この中でぶっちぎりの古株であるパメラノが、
「今の我々は高潔すぎる」
ポソっとそう言った。
その瞬間、誰もが息をのんで、耳を傾ける。
ジャミが主席ではあるが、この中で誰が最も大きい発言権を持つかと言えば、やはり、パメラノになる。
「昔はそうでもなかったんじゃがのう……サトロワスが上がる前くらい……6千年くらい前までは、たまぁに、『己が地位の高さ』に狂ったバカが、『百済(内部調査機関)上がりの第十席』に粛清されたりしとったんじゃが……今では、誰も、愚かさを見せんようになった」
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