第199話 久しぶりに、キレちまったよ……ぶっ壊してやる。



「……あぁぁぁぁぁぁぁん?!!」






 鍵穴にハメこんだ冒険の書が、ポイっとはじき返された。


 その様子を見ていたセンは、顔中に血管を浮かびあがらせて、


「……は、はは……この野郎……ナメたマネしてくれんじゃねぇか……何が正規のルートだ、クソが。てめぇ、まさか、この究極超神センエースに、『冒険者試験を受けてこい』なんて、そんなナメた事言うつもりじゃねぇよなぁ、おぉ?」


 そこで、センは、


「こちとら、もう、我慢できねぇんだよ……悠長な事はやってらんねぇんだ」



 スゥっと大きく息を吸って、




「……はぁぁあああああああああああああああ……」




 一分ほど、完全集中状態でオーラを練り上げてから、



「究・極・超・神・化……5!!」




 サイと闘った時よりも遥かに強大なオーラを纏う。


 その場にいながら、『遥かなる高み』の果てに立つ。



 巨大な扉を見下ろして、


 勢いそのままに、



「クソ扉ぁああ……俺のワクワクドキドキを邪魔すんな。さっさと開け。拒絶するなら、ぶっ壊すぞ!!」




 魔力を高めて、脅しつける。


 返答はなし。



「いい根性だ!! 気にいった!! 殺す!!」



 両手に、膨大化させたオーラと魔力を融合させたエネルギーの塊を集中させて、


「顕現! 【フルパレードゼタキャノン】!!」


 宣言と同時、金属が高速回転しているような音が響いた。

 その直後――


 ガチャガチャガチャッッ!!


 両手に一丁ずつ、巨大な銃が現れた。

 メタリックな銃身が脈打っている。

 『激しく生きている』と一目で分かる威容でありながら、その深部には、『気高い無機質感』が確かに在った。

 センの体躯の三倍はある大口径の超強大な魔双銃。

 センは、その凶悪な二つの銃口を扉に向ける。



「3……2……1……」



 一度撃ってしまうと、長時間の冷却を必要とするオーバーヒート状態になってしまう代わりに、究極の殲滅力を体現できるという最高峰のバカ火力魔法。


 ――砲身が輝きだす。

 悲鳴のような駆動音。

 エネルギーが一点に収束していく。


 そして、極限まで高められた『暴力』が解放される。



「0……食らい尽くせ」



 主の命令に従い、フルパレードゼタキャノンは唸り、勢いよく咆哮。

 豪速のエネルギー弾が扉を襲う。

 極太の照射。

 大気が鳴動する。

 空間が歪んで、バチバチと黒い電磁放射が舞う。



 ――だが、






「ふぁっ?!」






 扉はビクともしなかった。

 かなりの魔力を込めて放ったというのに、傷一つついていない。


「……えぇ……マジっすか……」


 センは素の表情で、フルゼタを消す。

 そして、ペタペタと両手でさわりながら、扉の状態をシッカリと確かめる。


(……おいおい、マジでヘコみの一つも出来てねぇぞ……信じられねぇ……そんな物質が、この世に在っていいのかよ……)



 そこで、センは、親指の爪を軽く噛む。



(これって、マジで、ありえてきたって事じゃね? ……この奥に、俺すら話にならない世界が広がっている可能性……)



 『ソレ、マジでどんな地獄だよ』と思いながらも、心の底から、



(ぁああ……見たい……行きたい……そこはどんな世界だ? 何がある……何ができる……そこでなら、俺は……)






 ―― どこまでいける? ――






「アダム!!」


 センは、そこで、地に降りて、


「俺は、これから、冒険の書をパクりに行く。テキトーに王族を締めあげれば、すぐにでも、さし出してくるだろう。つまり、数分で戻ってくるってこった。だから、何も心配するな。つぅか、何もすんな」


「主上様、冒険の書なら、わたくしが一冊、保有しておりますが?」


「なに? マジで?」


「はい。戦争時には、何度か冒険者と対峙する場面に遭遇いたしまして、何かに使えるかと思い、一冊だけ奪っておいたのです」


 返事をしながら、アダムはアイテムボックスから冒険の書を取り出して、


「どうぞ、お納めください」


「よくやった、アダム。愛しているぞ」


 言いながら、センは、アダムを抱き寄せて、その頬にキスをする。

 ついでに、その豊かなオッパイも一揉みしておく。


「しゅ、しゅ、主上様!」


 真っ赤になって慌てるアダムを置いて、

 センは、すぐさま、先ほどの位置まで飛び、


「おら、本物だ! さっさと開け!!」


 もう一度はめこむ。


 すると、



『ブブー。この冒険の書は、サイコウイング・ケルベロスゼロ・タナトス(決戦仕様・究極最終形態EX)を倒した者の所有物ではありません』



「……こ、こ、この……カスが……おちょくってんのか……ぼけぇ……」



 怒りに震えながら、頭の中では、


(冒険者試験を運営している委員会にカチこみをかけて、俺の『冒険の書』を作らせるか? ……いや、それをしても、正規のルートじゃねぇとか言いだすんじゃ……ちっ……くそが……手抜きのRPGみたいな要求してきやがって……鬱陶しい……俺は『お使いゲー』が大っきらいなんだよ、クソが……)



 そこで、センは、少し深呼吸をして、



(落ちつけ……別に、この扉は逃げねぇ……正規のルートで手に入れて、堂々と通ってやればいい。幸い、試験は数日後。『今すぐいく』か『数日後になる』かの違いでしかない。落ちつけ)


 一度、深呼吸。

 そして、決断する。






「いいだろう。冒険者試験……受けてやろうじゃねぇか」



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