第113話 「自爆、ランク9」の魔カード
「そいつを俺に近づかせるなぁあああああああ!!」
アイテムボックスから、1枚の『魔カード』を取りだして、勇者は叫んだ。
「範囲拡大と、威力増大を限界まで積んだ『自爆』の『魔カード』だぁぁああああ。ただの魔カードだと勘違いするなぁ! ゴールデン・ドラゴンハイドを使って『キラ化』させた、最高級の魔カードだ! 使えば、俺は死ぬが、お前らも全員死ぬぅううううう!!」
「くく……いいあがきじゃ。嫌いじゃないぞ」
魔カードは、魔道具の中でも、かなり一般的というか、この世界では普通の市販品。
低位の魔法を封じ込めることができる単純な魔道具。
特徴的なのは、どんな系統の魔法でも封じ込めることができて、誰にでも使えるという点。
生活魔法を封じこめた最低位の魔カードは、日本でのシャンプーや歯ブラシと同じぐらいの価格で店先に並んでいる。
それだけ便利な魔カードだが、当然、高位の魔法は封じ込めることはできない。
最高でもランク2まで。
だが、いくつかの手段を用いることで、そのランクを上げることもできる。
まずは、勇者が言っていたキラ化。
ゴールデン系(超希少種。どの種族にも誕生する可能性はあるが、確率は低い)に属する魔物の革を使うことで、込められる魔法のランクを3段階上げられる。
最高位種族のドラゴンの革であれば、さらに込められる魔法のランクは2段階上昇。
プラス、
「それだけじゃねぇ! 俺が、魔力を注いできた! その期間、10年!! いつか、こんな日がきた時のために! 俺が俺であり続けるための、最後の手札ぁ!」
その心情を、あえて例えるならば、
『辞表を、常に内ポケットへ忍ばせて働いているサラリーマン』。
本当に、10年間、勇者は、その『自爆』の魔カードに魔力を込め続けた。
結果、その魔カードに込められている『自爆』のランクは驚愕の『9』。
エックスにおいて、その価値は天文学的。
この世界で最も優れた宝の一つに数えてもいい大秘宝。
大げさでもなんでもなく、その『自爆』1枚だけで、国が買えるほど。
「近づくな、近づくな、近づくなぁああああ! 俺に寄るんじゃねぇ、いいなぁあ!」
「うるっさいのう。……おい、ぬし、何か勘違いしとらんか?」
「あぁ?!」
「逃げたいなら、とっとと逃げるがいい。まったく、クソやかましくワメきおって。どこまでDQNなんじゃ、アホウが」
「ん……だと……」
「ハッキリ言ってやろうか? わしは、ただ、わしの城に不法侵入してきて暴れているイカれたバカ野郎で実験をしている……ついでに迎撃をしておるだけじゃ。それ以上でも、それ以下でもない」
「……て、てめぇ……い、今……こ、この俺を……殺すまでもない弱者として扱いやがったな……」
勇者は、肩を震わせて、
「お、俺を軽蔑するのは構わねぇ……俺をマヌケだと罵るのも構わねぇ……大抵のことは、笑って殺すだけで済ますが……それだけは……それだけは、いただけねぇ」
(笑って済ますんじゃなく、ちゃんと殺すんかい)
と、センは、一度、心の中でつぶやいてから、
「では、どうする? 闘うか? それでも別に構わんぞ。どっちでもいい。ぬしが生きていようが、死んでいようが。そんなものには、心底から興味がない。……陛下であれば、立場上、ぬしを捕らえ、法の下で正式に裁く……などという七面倒な手間をかけねばならんじゃろうが、わしに、そんな義務はない」
そこで、魔王が割って入ってきた。
「いやいや、あるある! ワシだけじゃなく、お前も、同じことをせねばならん立場にある! お前は、まったく、ほんとうに! 毎度、毎度、何をトチ狂ったことばかりホザいとるんだ! 何度も言っているが、最低限の公私くらいはわきまえよ、ばかもんが!」
ラムドを演じているセンも、心の中で、
(本当に、このラムドって、だいぶ酷いな……イカれ方だけなら、勇者と同等かそれ以上)
と同意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます