第6話
ーー9:00
今はお風呂上がりのぬくぬくたーいむ
ベッドにこれでもかってくらい勢いよく倒れ込む。うはぁ、らくぅ
ベッドに横たわりながらスマホを弄る
はぁ〜、どーしよ。
さっき見たコメントの画面を見つめる。やりたいなぁ…
誰かに聞いてもらってるだけでも嬉しかったのに依頼なんて…嬉しすぎます神様、ありがとうございます。
さて、どう返信しようか。
「春音ー、ちょっと来てー」
向こうの部屋から僕が呼ばれる声がした。無視しようかと一瞬考えたがやめといた。
「何」
学校より1オクターブ程低い声で話す
「あんた、曲」
見るの早いな…どんだけ監視してんだよ
「知ってるよ」
「やらないよね?そんな依頼」
「…」
「あなた、言っておくけど受験生だからね?そんなことしてる時間ないのよ?趣味でやることも本当は嫌なんだから」
「わかってるよ。断るよ」
やりたい、とも趣味くらいやらせてくれ、とも何も言えない自分に心底腹が立つ。でも怒られるよりかはいいや。僕はまた部屋に戻ろうとする
「あ、あと、」
んもぉ、今度はなんだよ。ぬくぬくしてぇんだよこちとら
「そういえば珠里ちゃんとは最近連絡とってるの?」
胸がドキッとする。藤森珠里、ふじもりみさと と読むんだけど彼女は僕と親友で茜とは幼馴染だ。彼女も高校一年生。学校は違うが茜と同じ通信制の高校通い。
「……なんで?」
あっちの目的を知らないと僕も話したくない。そもそも親は珠里のことをよく思っていなかったはずだ。一緒に遊んじゃだめ、とかもう話すな、って言われたこともあったから僕からは茜のことも珠里のことも話さないようにしていた。
「自分の子供の人間関係を把握しておくのも親の務めでしょ?」
でた。親の務め。僕のことを考えての行動なんだろうから表には言えないけれど正直言って面倒臭い。
これで本当のことを言って文句を言われなかったことがない。さらに茜と珠里は通信制高校だ。そこでも親からしたら二人の評価はどん底だろうに。
「…もし、今でも連絡を取っているならやめなさい。珠里ちゃんとは今後関わらないように。お母さんたちの気持ちも考えて」
そう、うちの親が嫌っているのは珠里自身ではなく、親なのだ。聞いた話によると嫌味的なものを言われたことがあるんだそう。
子供たちの親友関係と親どもの親関係はイコールで繋がっていて親の関係が悪かったらたとえどんなに友達になりたかろうとダメと言われてしまうのは何故なんだろうとつくづく思う。
友達の家庭環境とかどこの高校に行ったとかという情報を親に伝えたくない要因はこれだ。本当は嘘をつきたいくらい。
でも、嘘は怖い。バレた時のことを考えるととても怖くてできるものか。
「あー、うん、あんま連絡してないよ」
適当に誤魔化す。ちなみにこれは嘘ではない、しかし真実かと言われるとそれも危うい。
直接会ったのは3月末、茜と3人で遊びに行った以来会っていない。それは茜も同じだ。
僕が受験生になるとめっきり会えなくなってしまうと思ったから2年の最後に思いっきり遊びに行ったんだ。それから何ヶ月が経った?半年は経ってるか。
その予想は的中し僕は一年間遊び禁止になった。許してもらっても午前の4時間だけ、とか制限が多すぎて遊ぶとかそれどころじゃないから結局やめる羽目になる。
「ならいいわ。年賀状も今年は出さなくていいわね?」
…!
「そ…れは…」
ああ、何反抗してんだ。やめろ、穏便に過ごすべきところだろ。
抑えろ、抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ
「?どうなの?」
大丈夫、LINEも繋がっている、連絡手段があることはバレてない。そこで連絡を取りあえばいいだけの話だろ?
茜と珠里が僕の前からいなくなったら僕はもう、終わりだ。だから。
「…うん、出さなくていいよ。」
「わかった。要件はこれだけ。」
言い終わった瞬間に僕は部屋から出て再び自分の部屋に引きこもった。
腹の中から込み上げてくる、何か。怒りとはまた違う。自分ではない自分になっているみたいだ、
春音であって、春音でない。
なら、俺は誰?名前は春音、一緒だ。じゃあ見た目は?これも一緒。
なら、心は?
一緒なのか、一緒じゃないのか、誰の心なのか、
わからない。
たまにくるこの感覚、体の中から掻き回されて、自分が誰なのかすらわかんなくなる。
これは何回経験しても慣れることはないだろう。
…だいぶ落ち着いた
「コメントありがとうございます!申し訳ないのですが、今実は学生で受験期に差し掛かっている最中でして…これらの曲は短時間に息抜きとして作っているものがほとんどなのでご依頼を承ることが出来かねます。」
コメントに返信。
ぼーっと天井を見上げる。あ、なんかいいメロディ浮かびそう。
重い体を起こしてギターに手をかける。チューニングは…なんかいいや、面倒臭いし、多分大体あってるでしょ
とりあえず弾いてみる。
C/G/Am/Em/Dm/Dm/G/E7
〜〜〜
あー、ここ半音使って、E7は特徴的なコードだからなおさらスケール外の音が際立つ。んで、ここで韻踏んで、シンコペーションで終わらす。そこにハーモニクスとか入れたらどうだろう。
うん、いい感じ、グリッサンドでもいいかな。
ただただ自分の感覚に任せて音を紡ぐ。メロディーを考え出す時がいっちばん楽しいんだ。
あ、通知。
「わかりました。受験頑張ってください!」
「ありがとうございます!頑張ります!」っと。送信。
作詞…してみようかな。
今作ったメロディを忘れないようにスマホで録音しておく。たった8小節の短いメロディ。
テーマは…今やってる音楽でいいか。アップテンポ系で、跳ねるように。
15年しか学んでない拙い日本語を音に乗せて詩を作っていく。
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