ep.6  ふらいみー とぅざ むーん

 ある日の昼休み。

 オレは、いつになくドキドキしていた。


 白井さんが気になってしょうがない……!

  

 ……なのに……っ!

 白井さんに視線が向けられない……!!



 

 今日……白井さんが髪型を変えてきた。

 いつもは前髪を下ろしてるのに、今日は前髪を編み込んで横に流していた。

 

 つまり、「おでこ」が出ている。


 ……つ、つまり……ッ!! 

 白井さんの丸い顔が……その……ままま丸出…っ…もとい、全開になっているということ……ッ!!!

 

 

 ひュニコォォォォォォンッッ!!!

 訳:(かわいすぎるぅぅぅぅぁぁぁぁっっっ)



 ……そんなわけで、今日は朝からロクに白井さんと話せていない。

 それどころか、恥ずかしくて顔を見ることすらままならないのだ…。



 「おでこ」が出てるだけで、こんなに違うのか……。


 ……かわいい……っ……。


 そういえば、こうして見てると白井さんって、ちょっと日本人離れした美しさがあるというか……。

 白くて、丸くて、かわいいんだけど…なんだかちょっと大人っぽいというか……。


 In other words、天使。

 In other words、天使あざらし。


 ………………。



 ひュニコォォッ…

「熊田くん…」


「…………ッッ!?」


 

 突然の呼びかけに、オレの意識は宇宙そらから呼び戻された。



「やっぱり、変…? …かな」


「……?」



 そこでオレは気が付いた。

 最初の心の叫びからずっと、白井さんを見ていたことを……。

 ……はは恥ずかし過ぎて爆死する……っ。


 ……しかし……「変」とは……?


 両手で顔を覆い身悶えした後、オレは白井さん言葉の真意を測りかねていた。



「へ…変って?」


「…………え?」



 白井さんが魂が抜けたような表情をしている。


 ……そんな顔も、かわいい。

 なんていうか……白の面積が多いからか、透明感がすごいというか……う…美しかわいい…………っ。



「ご、ごめんっ、なんでもない…‥。……そう…だよね…」



 ……なんだ……?

 白井さん……なぜそんな顔を……。





「熊田ー。…………顔ッ!!」


「…ん? ……あぁ…姫滝……」



 休み時間。たまたま行き会った姫滝に声を掛けられた。

 昼休みの一件があってから、オレは、授業も頭に入らず白井さんの事ばかりを考えていた…。

 あの顔を思い出すだけでツライ……。



「顔ヤバすぎでしょ……。

それより熊田ぁ、今日のまどか、めっちゃかわいいっしょ?」


「ああ…。髪型で印象って、あんなに違うもんなんだなっ」



 さっきまで頭はぐるぐるだったのに、"美しかわいい"白井さんを思い浮かべただけで、顔がニヤけ、テンションが跳ね上がった。



「まどかに相談されてさぁ、うちがアイデア出したんだ、アレ」


「……天才だな…ッ」


「当ぉ然っ。……んでぇ? なんてホメたワケよぉ?」


「……え?」


「…………は?」



 ……ほめる……?



「……熊田……まさか、まどかに何も言ってないわけ……?」


「…あ…いや…だって、オレなんかが何か言わなくたって、十分……」


「……熊田さぁ……。 

あんたって、どうでもいい時は簡単にホメられるタイプなんだね」


「……? それって、どういう……」


「いいからっ! ちゃんとホメてあげなよっ!?

かわいいって思ったんでしょ!?」


「そ…そりゃ、当たり前だっ」


「…はぁ。なら、ちゃんとやりな」




 姫滝と別れた後、オレは絶望した。

 …………オレは…………。

 これでも、昔から人の変化に敏感なほうだった。

 いいと思ったら率直に伝えられるデキる男(これに関しては)だと思っていた。

 …………なのに。


  

 放課後、クラスのみんなが少しずつ教室を後にする中、白井さんはなぜか最後のほうまで教室に残っていた。

 ……オレにとっては好都合だ……っ。



「し…白井さん」


「熊田くん…っ」



 白井さんは、編み込んだ前髪を気にするように何度も触りながら、一瞬オレに向けた視線を下に落とした。


 ちゃんと伝えろっ…!

 薔薇の騎士・シローだろうが……ッ!!



「きょっ…今日は、ごめんっ。

…ぅ…その……白井さんの雰囲気がいつもと違ってて……なんてゆーか…どドキドキしちゃって……。今日は顔も、まともに見れなくて……」



 …まぁ、これはいつもだけど。



「……そ…その………とにかく今日の髪型、すごく似合ってる…!

…かわいいし、大人っぽいし、なんつーか、ユニ〇ーン! って感じってゆーか…。

丸いのも白いのも、いいとこどりで、透明感とかもヤバいし……!」



 ぁぁあれ……?


 白井さんは、黙ってうつむいたまま動かない。

 

 ……自覚はあるさ。もう途中から何言ってるか自分でもわかんなかったし…。

 …なんだよ、ユニ〇ーンって……。

 

 

 白井さんが少し顔上げると、目元にうっすらと涙が見えた。


 …最悪だ…。

 白井さんの前じゃなきゃ、とっくに自害してる。



「…ごめん、白井さんっ! 

…オレは…ホントにかわいいって思って、

ただ、それを言いたかっただけで……!」


「ぁ…ち…違うの。……恥ずかしくて……」



 白井さんが涙をぬぐった後、笑った。


 In other words、望月(もっちもち月)。



 そして、口元を袖で隠し、すこし横を向いたままオレをちらっと見ながら言った。



「…熊田くん……あたしで…ど……ドキドキした…の……?」



 ………………。



 ひュニコォォォォォォォォォンッッ!!!!



 In other words、あざらし子ちゃんが好きすぎる…!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る