24 なんということでしょう
――あぁ、もうこのままここで暮らしたい。
スタンピードが発生して十日。
僕はそんなことを考えていた。
「今……僕は辺境スローライフを送っている。もう、このまま……このまま、ここで余生を過ごせばいいんじゃないかな」
強固な外壁に囲まれた千メートル四方の土地。
そこにはぴったり地上五メートルのところまで改良型浄化結界が張られていて、瘴気が侵入してくることはない。穢れの森にあるまじき、人が過ごすのに快適な空間がそこにはあった。
――なんということでしょう。
敷地の中央に配置された明るいテラスは、水晶窓から様々な生産設備を一望し、ご飯を食べられる素敵空間に仕上がっているのです。
巨大な二つの水タンクは、片や
また、浄水装置から排出される汚泥は
そして、そびえ立つ五棟の生産設備が、シルクタワー、毛皮タワー、水晶タワー、肉タワー、粘土タワーです。ここでは様々な素材が自動的に生産され、並列思考スキルで操作される
大量に手に入る魔石は各錬金装置で利用してもまだ余るほど。動力源として魔力を供給し続けています。
「――
「あら。私にも一皿くださる?」
「レシーナ。お願いだからもうちょっとだけ浸らせて……今、夢の辺境スローライフにだいぶ近いところまで実現できてるんだよ。いい感じなんだ」
僕が視線を戻すと、そこには五人の女の子がテラス席に座っていた。
レシーナは僕の差し出した豚鬼ソーセージをパクっと食べて、満足そうに目を細めている。ね、小鬼のやつとは全然違って超おいしいでしょ。たぶんこの十日間で、この味を作るのが一番大変だったと思う。
ペンネちゃんは僕が渡した戦斧を満足げに眺めながら、皿に盛った干し柿をむしゃむしゃと食べていた。どうも他の干し柿を食べてみたら、僕が作ったのとは全然味が違って愕然としたんだって。生産者冥利に尽きるよね。
ガーネットはなんというか、修羅場を潜って来ましたという感じで、更に強い女の子になっていた。僕のことを真顔でジッと見つめているけど、それはどういう感情なの。なんかちょっと怖いんだけど。
キコは僕の足元に座り、僕の手からひたすら魔素飴を食べて、何やら納得したようにうんうんと頷いている。その頷きは一体何なんだろう。それに、たくさんあるとはいえ、そう一気に食べる類の飴ではないと思うよ。いくら影魔法の燃費が悪いからってさ。
ジュディスはみんなから一歩離れたところで、魂が抜けたようにグッタリしている。たぶんこの生産拠点を見て驚きすぎたんだろうね。五人の中で一番良い反応してくれたから、僕はとても喜んでいるよ。ベストリアクション賞をあげよう。ありがとね。
「ところでクロウ。スタンピードはすっかり収束したけれど……街の人が貴方の帰還を心待ちにしているわよ。そろそろ顔を見せてあげたら?」
「うーん……
「えぇ。そう言うと思ったから、コットン一家の者を既に呼び寄せてあるわ。もうしばらくしたら到着するのではないかしら。安心してこの場を任せられるわね。ふふふ」
まったくもう、レシーナには敵わないなぁ。
何にせよ、楽しい楽しいクラフトゲームの時間はここまで。瘴気も減って女王たちの出産ペースも緩やかになったため、生産場も最初ほど忙しくもなくなった。シルヴァ辺境領の瘴気濃度は今後もこのくらいに保たれていくだろうし、あとはコットン一家に任せちゃっても大丈夫だろう。
それにこの十日で、僕の亜空間魔法もだいぶパワーアップしたからね。実は密かに問題だった「あの件」も解決の目処がついた。辺境スローライフ欲もけっこう満たせたと思うし、これでまた気持ちを切り替えて頑張っていけると思う。
「そういえば……貴族の女に手を出すなと、私はかつて言ったと思うのだけれど」
「……さぁ、ダシルヴァ市に帰る準備だ」
「えぇ。後ほどゆっくり話し合いましょう」
そんな風にして、僕は夢のような辺境生活に泣く泣く別れを告げると、再び現実へと帰ることになったのだった。とほほ。
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