婚約破棄された後は、何故かもう1人の幼なじみに恋人の手ほどきをされてます

第10話

食堂の空気が一気に冷え、視線がこちらに向いてくるのがわかる。

「よく言うわ。あなたの方が節操がないんじゃない？アムルとグロッサムが一緒にいた日は、私はまだ婚約解消していなかった。それなのに2人きりでいるなんておかしいわ」

我慢できず立ち上がりアムルを見た。

「あら、私は相談を受けていただけよ。学年が違うからあなたの様子をとても気にしていたのよ。女同士だからよく見えることがあるでしょう？だから、あなたの様子を教えてあげたら、とてもグロッサムは喜んでいたのよ。それなのになぁに？まるで私がいけないことをしたかのような言い方じゃない」

「したじゃない！」

あら、と白々しく驚いた。

「私の話し聞いていた？あなたの事を教えて欲しい、とグロッサムに頼まれて、わざわざあなた事を教えてあげたのよ。2人の仲を取り持つように協力してあげたのに、感謝でなく、ふふっ、癇癪をくれるの？それも私とグロッサムが何をしたのかしら？」

含み笑いをしながら、目を細めながら言う。

「それは・・・」

答えに詰まった。

2人で抱き合っていた、と言えたらいいがそんな破廉恥なこと言えるはずがない。

「そうねぇ。常識的に考えて、あなたの考えている、なにかした、という変な妄想としておくわね。でも、婚約者の目の前でする訳が無いわ」

嘘ばかり。私の前で、してたじゃない。

だがそうここで反論した所で、余計に自分が惨めになりそうだった。「そもそも証拠はあるの？」

「証拠？」

「そうよ。私たちが、ルミナの言ういけないことをした、という証拠よ。ほらぁ、出して見せて」

私の事が大嫌いだとわかる、あからさまな見下す顔で、手を差し出した。

そんな証拠出せないと知ってて、こんな大勢の前で言うなんて卑怯だ。

「あらあ、出せないの？出せないなら言わないでよ。嘘つきルミナ。あ、ごめんなさい違ったわね。頭が良すぎていやらしい妄想ばかりしていたのね。気持ち悪いわ。だから、婚約解消されるのよ」

「その通りよ。あなた、色々な噂がたってるわよ」

「噂？」

取り巻きの1人、ナターシャが面白そうに言った。

「表と裏では違うのよ」

キームリがすかさず意味深な言い方で、あえて周りを見回し、アムルに同意求めた。

「やめなさいよ。常人としての常識がないからこうなったのよ。だから、グロッサムを責め、私を責めるのよ」

「自分勝手ね」

「違うわよ、自分の欲望のままに生きてるのよ」

3人は愚かだと言わんばかりに、蔑んだ目で私を見てきたが、何を言っているのか正直分からなかった。だが、私に対する噂をアムルがたてている。

それは否応にもわかったが、その内容が分からない。けど、あきらかに悪意のある内容なのは分かった。

それも周囲からは、やはり、とか、本当だった、とかヒソヒソと声が聞こえ寒気が走った。

アムルは勝ち誇ったように笑いながら、私の顔を覗き込む。

「グロッサムの言うように、本当につまんない女ね。何か言い返しなさいよ。ふふっ、でも、あまり調子に乗って言い返したら後で困ることになるわよね。あなた、ではなくオルファ家がね。あら、怖い顔。いいじゃない無駄に頭がいいのだもの。他は大人しくしておきなさいよ」

勝ち誇った微笑みを私に向けた。

「もう1人の幼なじみと仲良くすればいいわ。でも、また1人犠牲者が出るわね。可哀想にね。ねえ、クリス」

口調が獲物を狩るような感じに変わった。

「クリス。私の方へいらっしゃい。そうでないと、困ることになるわよ。ルミナには素晴らしい頭脳と優しい幼なじみがいるんですもの、他はいらないわよ」

「どう、いう事・・・？」

不安そうにクリスが呟いた。

「そうねえ。直ぐに分かるわ。ルミナと最後の話をしてね」

不穏な言葉を残し、楽しそうに去っていった。

「・・・なにか飲む？」

私の言葉をクリスは聞こえていなかったようで、青い顔でアムルの背中を見つめていた。