Genesis Online

第5話 プロローグ

全世界が一つの国家、要はぼくが住んでいる大日本皇国に統合されたのは今から100年くらい前、つまりは2600年らしい。らしいというのは、そのくらいの年代はAlt-Noaという最近では生活の一部ですらある名前の国家と大日本皇国とで名前がごっちゃになっているからだ。そのくらいに世界の気候も大きく変わったし、現在一般的に使われていて、昔使われていた西暦からは660年足せば計算できる皇紀の2600年からは新世紀として皇紀から名前が変わった皇暦102年。高山部の九月といえど、そこそこ暑い。毎日25度以上とか殺しに来てるよ...でも、市の中心部になるともっと暑い。それこそ30度とか平気で行くからなんともいえない。


三牢市では比較的古い―――具体的に言うと、皇紀どころか西暦の1900年より前からこの地にあった所謂『三剣族』の家々が多い、三牢市西側中高山部。その中でもトップクラスの敷地面積と周りへの借地を誇るのは我が家、菊池家だ。

まあ、理由としては元々養ってる人が結構特殊だからなんだけど、それ以外にも単純に三剣村時代の村長の家だからというのもある。元々の土地は三牢市中心部なのだけど、そこには現在『三牢巨骸石公園』がある。うちで養ってるケモミミ女に言ってやりたいものだよ。まあ、こんなんでも一応殺せないから凄いけど。


ということで、ぼくは今日もいつもの様に学校終わりの放課後をベランダで過ごしております。三牢西小学校6年4組十三番、菊池葵。和服も洋服も半々ぐらいにいるぼくの学校でも奇抜な、常に振袖を纏っている者です。そんな着物姿と、手入れが施された腰まで伸びる長髪、小4で伸び止まり一時期はお兄ちゃんをも抜いた154cmの背丈とこの歳になっても一向に訪れる気配のない変声期のせいでよく―――というか知っている人にもよくからかわれるけど、女の子じゃなく男です。本当におかしいよね。養っている人のせいで、「男女問わず十四歳になるまでは振袖を着ること」っていうルールがあって、そのせいでお兄ちゃんもちょっと前までは振袖だった。


男の子って感じの姿に振袖はギャップ萌え?なのか結構モテてたみたいだけど...それでチョコの処理を手伝わされる身にもなって欲しいよ。え?ぼく?女子から大量に友チョコもらいました。みんなで前日に集まって手作りして、それに加えて居候娘が作った分のチョコも渡すって感じで。居候の身分でも流石は建国譚に語られる『神人』、威厳もへったくれもないけど作ってくれるチョコはとっても美味しい。

―――たまにぼくを見つけてはベタベタしてきて溺愛してくるのはやめて欲しいけど。


『あれ?あ、葵!って、走らないでよ!おい、聞いてるー?』

聞き覚えしかない声を耳聡く聞いたぼくは全力疾走を始めていた。成功確率は5分、失敗したらいつもより長めの一時間溺愛コースだ。「私のこと、嫌い?」って聞いてくる守ってあげたくなってしまう様な顔は本当に狡いと思う。ぼくも見習いたい―――じゃなくて、そういうふうに言ってみて悪女ムーブしてみたいものだ。って、あれ?なんか今、横から聞こえた様な...?


「えへへっ!つーかまーえた!」

「ぐぇっ」

後ろからガッチリ両腕でホールドされる。足元はふわふわなしっぽがぼくの足を絡め取っていて、不審な動作をしたら尻尾でもってぼくのことを転ばす姿勢だ。しかも、割とギリギリと力が込められた両腕は痛い。恐る恐る左を振り向くと、いつも通りの見慣れた白髪とケモ耳を持った女の子がぼくに目を開けていない笑顔で笑いかけていた。


あ、これ、相当マジでお怒りの状態だ。

「あ、あの...」

「ねえ?なぁんで、私のこと見かけて全力疾走したの?」

弁明をしようとしたぼくの言葉を、質問で遮った少女は、何故かヤンデレを感じさせる言葉を続けた。

「私、いっつも君のことを甘やかしてるよね?なんで逃げるのかなぁ?」

「いや、単純にそれが鬱陶しいんだけど」


思わず本音が口をつく。でも目の前の神人はそれを聞き逃してくれたのか、

「ふぅん?鬱陶しいんだ。でも、いいよ」

あ、聞き逃してなかった。でも、きっと優しい彼女のことだから

「私をみて、喜びで失禁するくらいに甘やかしてあげるから」

「アッーーーーーー!」

い つ も の(現実逃避)。



「全く、私のことなんてどうでもいいんだ?」

「いや、どうでも良くないけどさ?ずぅっと粘着されると疲れるんだよね。それに今日は準備しないとだし」

甘やかし(という名の拷問)を終えたぼくと、神人として一番有名なケモ耳白髪の居候『フブキ』は、いつもの縁側でいつもの感じ(フブキの膝枕にぼくが転がる感じ)でくつろいでいた。ぷくぅと膨らませたフブキのほっぺたはいっつもみてて思うけどぷにぷにしてて美味しそう。


「あ、そういえば今日はみんなで新作の...えっと、なんて言ったっけ?」

「ジェネシスオンライン」

「そうそう、それをするんだったよね。あと―――二時間!?結構不味くないかな!?」

「だから急いでたんだけど!?」

フブキがようやくぼくが急いでいた理由を気づいてくれたみたいだ。と言っても、まあフブキのかわいがりを逃げる口実だけど。


「不味いね。流石にゼロが来るなら私だってそれなりの準備しないと「呼んだ?」出たー!?ゼロ、飛んでこないで!心臓に悪いから!」

「あはは、いいじゃんか。ボクだって神人だよ?そう、天皇と並ぶ、いやいっそ上位である神なる人なのだから!」

慌て出すフブキが口にした単語によって現れたのは、神人でちょっとお勉強すれば確実に出てくる名前であるゼロ本人。髪の色は蒼銀で、ショートヘア。所々ピンク色のメッシュが入っているのが特徴。蒼と銀の比率で性格が変わる娘で、銀がほとんどを占めるいまの性格は見ての通りイタズラ好き。背中に生えている(というかついている?)黒の翼でふよふよ飛んできたのかな。


「どうせ在鹿もここに来るんだから、どっちにしろ変わんないかなって」

「監督責任は?実際それを免罪符にして桐川さんから逃げてきたんでしょ?」

快活そうな表情で言うゼロに対して、フブキは現実的だ。いまのゼロの状況なら、「雅人お兄ちゃんに任せた」とか言いそうだけど。...って、なんかデジャブ。

「彼氏だしねー。やっぱり、カッコいいところを見せることでエッチして子供こさえるまで早くなるでしょ」

「...葵がいるのにそんなこと言っちゃだめでしょ?」

やっぱり言ってた。それとフブキ、ぼくはそんなことじゃ気にしないからね?お兄ちゃんの部屋にあったエッチな本を無表情で全部電力変換炉にぶち込んだぼくのこと、忘れたわけじゃないよね?まあ、興味がないかと言われれば―――うん、やっぱりないけど。


「まあ、早めに布団の準備終わらせちゃおっか。今日は長いログインになるぞー」

ニコニコとして言うゼロについ「そりゃ、今日から始まる奴だからね」と突っ込んでしまう。ゼロもそれは分かっているのか、「まあそうだけどさー」とヘラヘラする。

お兄ちゃんたちが家に入ってくる前に、ゲームにインしている間リラックスできるように布団だけは準備しとこう。今日は、新しいゲームの初めての日だからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Genesis Online 天月トワ @Althanarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ