その娘、兎族てとら
頭にルルを乗せたラウを連れてトレーネの町を散策しているが、本当にのどかで良いところだ。
小さな子供にあのお姉ちゃん頭にドラゴン乗せてるーーなんて指を刺されたりするけど、やっぱりみんな魔族よりもホワイトドラゴンに目がいくんだな。
《神器の気配が近づいて来ています》
お!ククルが神器に反応した!
近づいて来てるってことは、誰かが身につけているってことか?
「どけどけ邪魔だぁーー!!」
うおっっ!?
猛スピードで走ってくる女の子をギリギリで躱す。
おいおい危ないな……ん?
あの女の子……兎のような耳……おお!初めて見たけどあれが兎族の女の子かな?
「おいババァ!トロトロ歩いてるんじゃねーてと!」
うわぁ……お婆さんに対してなんて言葉遣いだ……と思ってたらお婆さんをおぶってどこかへ走り去って行く。
ん?なんか遅れて小さな生物が五体、後を追って行くな……
町を歩いているとまたあの兎族の女の子の声が聞こえる。
「バカタレが!そんなんじゃ話にならないてと!」
上を見上げると民家の屋根で大工作業?のようなことを凄い勢いでしている。
「はい完成っと!これがてとらの実力ってわけ!」
なんか見た目が杜撰な作業に見えるけど大丈夫なのだろうかw
謎の小さな生物たちもいる……ウサギ……に似てるな……
そこから町の行く先々で1人で大騒ぎする兎族の女の子を見かけた。
《武神の腕輪、彼女が持ち主です》
あの子がしてる腕輪が神器!武神の腕輪っていうのか。
「あの兎族の子……マルで風のヨウな子ネ……」
おぉ、ラウが圧倒されているw
それにしても兎族ってみんな口が悪いのかな?
とりあえず神器の所有者も分かったし、昼時だから食事のために近くの店に入ることにする。
店主おすすめの肉料理がめちゃくちゃ美味い!ラウもルルもニコニコだ。
「本当てとらには参ったぜ。屋根は修理できたが見た目がよぅ」
「私なんてまたババァって呼ばれたわ」
よく見るとあの兎族の子が絡んでたお婆さんや大工作業してた人たちも店内で食事しているようだが……やっぱり迷惑がってるんだなw
……いや、なんだ?皆あの子の話をしながらすごい笑顔をしている。
「私が足を痛めているのを知ってておぶってくれたのよ」
「俺の娘はこのあいだ魔物から守ってもらったってよ!1人で町の外に出るなクソガキーーって言われたらしいけどなw」
店内にいる町の人たちは楽しそうにあの子の話で盛り上がっている。
「てとらっていうのか……なんだ、いいやつそうじゃん」
「神器を持ってるヨウだし、会いに行くんデショ?」
武神の腕輪の能力について知りたいし、食事を終えたら会いに行ってみるか。
その前に気になることがある。
店員のお姉さんを呼び止め、兎族の子が引き連れている生物について聞いてみた。
「あぁ、あの子たちは……新種?なのかしらねぇ。町の子供たちの遊び相手になってくれたりもするのよ。てとらちゃんもあの子たちも可愛いわよね」
詳しく聞いてみると、あの五体の生物は普通の兎でもなく、魔物のデビルラビットでもない新種らしく、【魔兎】と呼んでいるらしい。
近くの森の中でデビルラビットに襲われている所をてとらに救われ、それから一緒に暮らしているようだ。
「……優しい子だ。口の悪さは照れ隠しなのかもしれないな」
食事を終えた俺はたちは町外れにあるてとらの家へと向かった。
「あ!アノ家のマエにいる子がソウじゃない?」
「空を見上げて……何かお祈りしている最中なのかな?」
てとらのうさ耳がピクリと反応し、ユウマたちの方へ振り向く。
「……あんた達、わたしに何か用てとか?」
「突然すまない。君の持っているその腕輪について……」
腕輪という言葉を聞いた瞬間、てとらの表情が一変する。
「あんた達、あの国から雇われた追っ手てとね……」
てとらの体が一瞬でオーラに包まれる!
青オーラ!てか俺たちめちゃくちゃ警戒されてる!?
「いやいやいやいや!君の事情は分からないが、俺たちに戦闘の意思はない!」
俺の言葉に同調してラウも何度も力強く頷いてくれている。
てとらは改めて俺やラウ、ルルを一瞥すると、警戒を解いてくれたようだった。
「名乗りもせずに申し訳ない。俺はユウマ、隣にいるのがラウで、その頭に乗ってるのがルル」
「ホワイトドラゴン……てとか……わたしは兎族のてとらてと」
「ところでさっきは何かお祈りでもしてたのかな?邪魔しちゃったのならごめん」
「兎族やその辺の野うさぎ、デビルラビットも含めて、全ての兎はまいにち女神様に祈りを捧げるてとよ。ちょうど終わった所だから気にしなくていいてと」
そこから俺たちはてとらに旅の目的を詳しく話した。
「……あんたが魔王の妹てととは……でも残念だけど、この武神の腕輪はあんたの求めてる能力じゃないと思うてとよ」
武神の腕輪は兎族の国で国宝として保管されていて、能力は装着者の攻防力を爆発的に強化するものだと伝えられているらしい。
そしてある事情から武神の腕輪はてとらに装着され、自分自身の意思でも外すことが出来なくなり、それが原因で兎族の国を追われてしまっという事だった。
「なぁてとら、神器には意思があって、自ら装着者を選ぶらしいんだ。きっと武神の腕輪はてとらを選んだんだよ」
「……神器の意思……ならてとらの意思はどうなるてと?こんな腕輪のせいでてとらは……」
ぐっっ!
ラウが思い切り肘で俺の脇腹を突いてきた。
「ちょっとユウマ!全然フォローになってナイじゃないノ!!」
五体の魔兎たちが心配そうにてとらの周りに集まってきた。
「てとらの気持ちも考えずに……その、すまない。話を聞かせてくれてありがとう……」
とぼとぼと俺たちは宿屋へ引き返していた。
それにしても最悪な出会いになってしまった……というか、一方的に傷つけてしまった。
俺はやっぱり転生しても人付き合いがあまり得意ではないらしい。
人の輪の中にいると、誰かを傷つけてしまったり自分が傷ついてしまったり、そういった事が必ず起こってしまう……
これって普通のことなのかな?
こんな俺にとって、一人で黙々と小説を書くことは本当に幸せな時間だったんだ。
ドン!っと急に背中を叩かれる。ラウの仕業だ。
「元気出しなサイ!別にユウマが悪いワケじゃナイわよ!」
武神の腕輪がお兄さんを見つける手掛かりにはならないと知って、本当は落ち込んでるはずのラウに励まされるなんてな……
「そうだな!この町の冒険者チームが戻るまでの間、たくさん美味いものでも食べて次の旅に備えよう!」
そしてまたやってくるベッド一つだけ問題……
だがしかし!だがしかしであーる!
人は学び成長する生き物!すでに対策は考えていたのだ!
「じゃじゃーん!桶は女将さんにお借りしましたー!」
部屋の中央に大きな桶に入った氷柱のお出ましだ!
「ん~涼しい!これでルルを真ん中に置いて寝ても夜中に暑くなることはないと思うぞ!」
「氷魔法まで使エルなんて……一体イクつの属性ヲ……いや、コノ質問はやめておくワ……でもコレはすごく快適ネ!褒めてアゲルわよユウマ!」
へいへいお褒めに預かり光栄ですw
でもこれでなんの憂いもなく安心して朝を迎えられそうだ。
さ!ルルも眠気が限界のようだし、今夜はもう寝るとしよう。
2つの大きな影が、トレーネの町へと近づいている……
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