この異世界物語はフィクションです
桜花オルガ
- プロローグ - 小説家、世界を去る
手を伸ばしても掴むことの出来ない、陽の光を浴びこの世非ざる宝石のような煌めきを放つ大海。
そんな海の上に浮かぶここは、空中浮遊都市『ミライ』
今から数十年も前の話、地球の人口が100億人に達しようとしたその時に、世界の権力者たちの正誤解らぬ”ボタン”の押し合いにより世界の人口は約十分の一に……存在する陸地は三分の一にまで減少した……
ーーーーー
「嗚呼……雨、か……」
新作の近未来ファンタジー小説を書き始めたばかりだってのに、俺は路地裏で鉄の匂い漂う、生暖かいソレが溢れ出る脇腹を押さえている。
路地裏ってなんだよ……ほぼ自宅の書斎に引きこもってる俺がたまたま買い物に出かけて、路地裏に連れ込まれそうになっている女の子を見かけたから思わず止めに入ったらこれかよ……
どうやら俺の脇腹に刃物を突き立てた奴は逃げたようだな……女の子は……あぁ、無事か……
フィクション小説家の俺の最期が、まさかこんなノンフィクションになるとはな……
家族もいない天涯孤独の身だし、俺がいなくなっても悲しむ人はまぁいないだろう……ある意味それは救いだったかもな。
雨音が……遠ざかっていく……
俺の意識は、完全に途絶えた。
あれ……なんだここは……空間?よく分からない空間の中を前に進んでいるのか?それとも下に落ちているのか?
うっ!眩しい!!
前からなのか下からなのか全く分からないが、前方!正面!そう!俺の真正面から眩しい光が二つ迫ってくる。
一つは大きな真っ白な光、もう一つは大きな真っ黒な……真っ黒なのに眩しい光が!
このままじゃ……ぶっ!ぶつかっっ……
大きな二つの光は俺の体をものすごい速度ですり抜けて行った。
体は何ともないようだ。
なんだったんだあの光は?そしてここは……
思考を巡らせようとした瞬間、俺はまるで西洋の大聖堂を彷彿とさせるような扉の前に立っていた。
俺を誘うようにその扉は静かに開き始め、中から優しい老人のような声が聞こえてきた。
「ここに来る者は随分と久しぶりじゃの」
おお……眩い衣に長く貯えられた白い髭、神?これってもしかして神様ってやつか!?
「あの!自分は小説家で!ペンネームは如月幽摩と申しましてっっ」
「ほほ~、ならユウマ君と呼ばせてもらおうかの」
「あっ、はい!もしかしてその……神様……なんですか?」
「うむ、そういった認識で構わんぞい」
なかなかフランクな感じの神様を前にして、俺のテンションは爆上がりだ。
ファンタジーなどのフィクションを心から愛する俺にとってまさに天国!
嘘みたいな最期を迎えて悲しかったけど、まさかこんなご褒美が待ってるなんて!最高すぎる!!
神様曰く、俺がいま目にしている神様の姿は、俺の持つ神様といった存在に対するイメージが具現化された姿らしい。
くっそ……めちゃくちゃ可愛い女神様をイメージしておけば……いやいやこんなん事前情報なけりゃ無理だわな。
「それで神様、俺はこの後どうなるんでしょうか?地獄か天国のどちらかに行く流れなんですかね?」
「いやいやユウマ君、行先は異世界じゃよ。君が生きてきた世界とは全く別の世界に転生してもらいたいのじゃよ」
「ふぇ?異世界?転生?」
あまりにも突拍子もない言葉に変な声が出てしまった。
いやまぁここまでの間のこと全てが突拍子のないことなんだけどね……
「君の今回の件はちとイレギュラーでの……」
俺って命を落とす予定じゃなかったのかよ……せめて執筆中の小説を完成させたかった……
詳しく話を聞くところによると、特別な事情がない限りは今回の俺のように神様に会えるなんて事はまず無いらしい。
そんな事よりもだ!
転生先の異世界はなんと剣と魔法のファンタジー世界!!!!!
行く!そんな楽しそうな場所に行かないなんて選択肢は皆無!!
さらに何やら転生特典?なるもので、魔法を使うための魔力が尽きる事はないらしい……きたよきたよチート能力!
「ユウマ君は想像力豊かなようじゃから、その能力を存分に発揮できるスキルも与えておくぞい」
神様サービスすごいな!
フィクション小説家の俺は想像力にはそれなりの自信がある!
「神様、俺決めました!異世界を旅してまわって、そこでの出来事を小説にします!」
「ユウマ君は物書きが本当に好きなんじゃな。旅をするなら一つお願いをしてもいいかの?」
神様のお願いは、異世界に散らばる『神器』なる物を出来る限り多く見つけて欲しいとの事だった。
『神器』の数は不明らしいけど、旅の目的は多い方が楽しめるかもしれないな。
転生特典も貰えちゃうし、ここは快く了承しよう。
「それと、もしも本当に困った事があれば空に向かってワシを呼んでみてくれんかの?行けたら行くでの」
行けたら行くって絶対に来ないパターンのやつじゃん……
「は、はい……その時はお呼びしますね」
「んむ、契約完了じゃの」
次の瞬間とつぜん神様の全身が眩く発光しだし、俺の意識は遠のいていく。
薄れゆく意識の中で、神様が「すまんの、ユウマくん」と言った気がした……
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