世界の終わりと君とその先と
亜未田久志
第1話 まずはじめに
一目惚れと呼ぶには鮮烈で、恋煩いと呼ぶには鈍痛で、愛と呼ぶには若すぎた。けれど
時は遡り、六月、梅雨の季節、紫陽花が咲き誇り、雨が降りしきる中。甲斐エイスケという少年は
「今日もサボんの体育?」
「男子にはカンケーないじゃん」
「そういって保健室まで逃げてくるのそっちじゃん」
「まあ、ね」
甲斐少年は生まれつき身体が弱く保健室登校であった。対する少女冬城は健康優良児。授業はサボタージュ気味の不良生徒。
「甲斐くんはさ。体調大丈夫?」
「まあ学校来れるくらいには」
「そっか」
「そっちも元気に不良やってるじゃん」
「うっせ」
冬城に肘で小突かれそれを甘んじて受け入れる甲斐。それが彼らの日常だった。そう思っていた。
「……じゃあそろそろ戻るわ」
「ん……なんか元気ないね」
「そりゃあ、不良生徒ですし?」
「自分で言ってりゃ世話無いよ」
「あはは、かもね」
そう言って彼女は保健室から出て行った。
次の日だった。
全校集会で冬城アキラが
曙星の巫女、それは地球に迫る天体にして神であるところの曙星から地球を救うための人身御供の事を指す。毎年、その天体に様々な少女が命を散らして来た。それに冬城アキラが選ばれた。
甲斐の心臓が早鐘を打つ。座っているのさえ辛い。顔色が悪いのを見て取ったのか教師が駆け寄ってくる。しかし、それを避けて今まさに体育館の前、舞台の上で表彰されようとしている冬城に手を伸ばす。
「冬城!」
ハッと彼女が振り返る。その表情は恐怖に震えていた。怖いに決まってる。世界のために犠牲になれだなんて馬鹿げてる。断れ、断ってくれと甲斐は願って止まない。
「おい何してる」
黒服の男が舞台に迫る甲斐を止める。非力な彼は簡単に止められてしまう――はずだった。
――この世界で地球より少女を選んだのは君だけだった。
少年の脳内に声が響く。
――ならば、選ぶ権利は君にだけあるのだろう。
その声は天上から聞こえていた。
――我が名は曙星。
そう名乗る者は告げる。
――世界と少女を天秤にかける者よ。
告げる。
――君はどちらを選ぶ?
答えはもう決まっていた。
「冬城! 一緒に逃げよう!」
斥力が体育館を席巻する。
引力が二人を繋ぎ合わせる。
星の力が世界を覆う。
「なにこれ!? 甲斐くんがやってんの!?」
「わかんない! でもこれなら! どこまでも逃げられる!」
「――信じた!」
「応っ!」
体育館を思い切り飛び出して世界も空間も時間も捻じ曲げて走り出す。
二人は曙星が天に浮かぶ地球の成層圏まで飛び上がっていた。
「このまま地球じゃない星に行こう!」
「馬鹿じゃないの!?」
「そうかも!」
「あはは!」
それが最初の終わり。
地球外生命体と化した二人は天体ショーの世界へ飛び出ると。
次の宇宙の終わりを見る。
「――は?」
「なに、いまの」
――我は滅びの曙星。
そう名乗る者は告げる。
――我の力は滅びしか呼ばない。
告げる。
――つまり君達は永遠に世界の滅びに立ち向かう事になった。
二人の繋いでいた手が離れていく。
確かに一人の少女は救われた。
地球という犠牲を払って救われた。
けれど何事にも代償が必要だ。
星の力を借りて星の海を越えるのならば。
それ相応の代償が必要だ。
人の身には余る代物。
そんなもの抱えて生きていくと決めたのなら。
代償は――きっと世界か一人の少女なのだろう。
――選び続けろ甲斐エイスケ。
――君が選ぶんだ。
――世界か彼女かを。
ふざけるなという声は世界の壁に消える。
遠ざかる冬城の姿に手を伸ばしながら。
その声を聞く。
「甲斐くん次の世界でも君は――」
――ああ冬城。
――俺は選び続けるよ。
――君を。
それが例え幾つの世界を犠牲にしても。
甲斐エイスケは冬城アキラを選び続ける。
世界と秤にかけるには軽すぎて、恋と呼ぶには重すぎて、君を呼ぶには足りなくて。それでも
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