第5話 平和に対する罪
「突撃!魔王軍を蹴散らせ!」
「ウオオオオオ!!」
「ハッハッハ!新たに転生者呼べなくても、今までに我が国が召喚して来たチート能力持ちの転生者がたくさんいるもんねー!」
「圧倒的ではないか、我が軍は」
現時点では、各地に派遣されたフェルシア王国軍がいわゆる魔王軍の撃退に成功している。
*
「んーーーー??……人類、思ってたより強くねえ?なんでケナシザルの分際で″俺の考えた最強の魔王オーク軍団″の物量作戦防いでんの?」
魔王ヴォルガル、サンタモニカが各オーク部隊の指揮官から吸い上げた情報に基づいて作成した魔王戦略マップを眺めながら首を傾げている。
地形と軍の配置などを地図に示したものだ。
「そりゃ向こうにはチート人間沢山いますけど、こっちにはチートオーク一匹もいませんからねえ」
アーバインがしょうがないでしょうが、とでも言いたげに両手を広げた。
「……」
ヴォルガルのこめかみに血管が浮かび上がった。
「あ"あ"ァ〜〜ッ!!!ムカツクなー人類。ケナシザル風情が神の力でイキりやがってよォ!人類に飼い慣らされるよーな駄犬をよォ!フェンリル呼ばわりとか!?マジで許せねーよ!それ詐欺だよ詐欺!俺もっかい神界ボディプレスかまして来ていいかァ!?」
「魔王様!流石に今、王都に突撃するのは本当に自殺行為です!自殺はお止め下さい!悲しむ配下が沢山いるんですよ!」
アーバイン、適当なことを言って魔王をなだめようとする。
「分かった。じゃあ俺がこないだ作った
ヴォルガルはいきなり懐から虫の大群を取り出した、いついかなる時、彼に躊躇いはない。
「え、なんですかその虫?ゴキブリ!?きもっ!」
「ちょっ、魔王様!こっちに来ないでくださいよ!?俺虫苦手なんです!」
アーバインとフレイガは嫌がった。
比較的、まともな神経だ。
「流石魔王様、素手でゴキブリを触れるとは……」
ハオカーはヴォルガルの豪胆さを見てうんうんと頷いた。
「ひッ……!も、申し訳ありません、下がってもよろしいでしょうか……」
比較的魔王ヴォルガルへの忠誠心が高いサンタモニカだが、引き攣ったような声を出した。
「ゴキブリじゃねーよ、これは爆走虫。
「カサカサカサ……カサカサ……」
「ん?なんて……?ヴォルガル様、万歳?」
カサカサカサ ブブブブッッ ドォン……
「ぐァばあッッ!!?」
ゴキブリ型の魔物はヴォルガルに飛び掛かり、爆発した。
辺りにはぱらぱらと礫と、ヴォルガルの鱗片が降り注いだ。
「魔王様!?」
「ヴォルガル様!ご無事ですか!?」
「プッ、自業自得とはまさにこのことですね」
アーバインだけは鼻で笑った。
実際のゴキブリと変わりないサイズだが、一匹の爆発で人型とはいえヴォルガルにも大きなダメージを与えた。
そして、魔王城の大理石の床がごっそりと抉れて、小池程のクレータが生じている。かなりの破壊力である事が伺える。
「ガフッ……!まあ……こんな感じだ。コイツの最も優れているところは、この破壊力で繁殖力もゴキブリ並ってことだ!」
「いや、なんてモン作ってんだアンタ!?」
フレイガが叫んだ。
「兄貴が昔、教えてくれたんだよ。人間はちょっとやそっとじゃ滅びねーから、強めにいって大丈夫だって」
「あと、人間に集って爆発する卵を産み付けて、蛆虫を撒き散らす蝿型の魔物も作ったぞ!」
「BBbbbbb!!!」
恐らく、羽音で「ヴォルガル様万歳!」と忠誠を示そうとしている。
どやぁ、といい角度の笑みを魅せる魔王ヴォルガル。
ふむ、と腕を組んでいるハオカーを除く四天王は三名共、引き攣ったような顔をしている。
「こっちはヤベー伝染病ウイルスを三つ媒介する蚊の魔物。どんなに頑丈な人間でも、どれか一つは感染するだろ」
「プーンプンプンプーン!!」
恐らく、羽音で「ヴォルガル様万歳!」と忠誠を示そうとしている。
「あとはこの農作物だけを狙って栄養を吸い取り、腐敗させ、毒ガスを撒き散らすカメムシ型の魔物!」
「……カチカチ……ブブゥウウウウーン……」
恐らくこちらも「ヴォルガル様万歳!」と忠誠を示そうとしている。
「こいつらが魔王軍、害虫四天王だ!人間界に大量発生させてやるぜ!」
「お待ち下さい魔王様!害虫四天王より我々を!魔王軍四天王をお使い下さい!」
「お言葉ですが、さすがに害虫テロはやりすぎかと!」
「何甘いこといってんだアーバイン、フレイガ。お前等じゃ束になってもフェルシア王国のチート軍団に勝てねーんだからしかたねーだろ」
「それに、そもそも向こうがチート能力使って俺等を殺しに来てるんだからやり過ぎもクソもねェ!いくらチート能力持ってようが、食糧供給を叩いて餓死させちまえばカカシ同然よ」
ヴォルガルは顔色一つ変えずにそう言った。
この害虫四天王による残虐極まりないテロ・飢餓作戦によって、フェルシア王国の抱えるチート軍勢を無力化するという作戦だ。
「さすが魔王様、人類ジェノサイドの参考になります」
アーバインはヴォルガルの話を聞いて細かくメモを取った。
「さて、モニカくーん、今月の洪水準備できた?」
「はい、人類の水源となる各地の上流ダムを魔王様の″世界蛇の喉毒″で汚染しました」
「よーし、オーク軍団を下がらせろ。……つってももう下がってるけど。フェルシア王国軍を引き付けて、モニカはダム爆破して連中を毒水で流せ!そのついでに、今回はさっき俺が用意した害虫四天王の卵を洪水で人間領にばら撒いて、
「了解です!」
サンタモニカは元気よく返事をした。
魔王軍においてヴォルガルの次ぐらいには、人類に対する敵意が強いのが彼女である。
「しかし、それでは魔王様の毒で虫も死ぬのではないでしょうか」
「甘いなアーバイン、俺の毒はモニカくんがいい感じに希釈してる。こうすることで毒に耐性がある害虫だけが孵化するって寸法よ。ダムの水なんざまた貯めりゃいいしな……」
「なっ、まさか……人類が毒ガスで害虫駆除し難いように……!?」
「あたりめーだろ。あっさり駆除されちまったら、画竜点睛を欠くだろうがよォ……?キヒッ、キヒヒヒヒ、ヒャアァハハハハッ!!」
「あ゛あ゛ァ゛〜〜ッッ!!楽しみだなァーーッッ!!!今からクソザル共の苦しむ顔を見るのが楽しみで仕方ねェよォ〜〜!クヒヒヒ、ヒャアーハハハハハァッッ!!」
ヴォルガルは突然気が狂った様に自ら鱗を剥ぎ取り、舌を自分の牙で噛みながら笑い始めた。
「なんて酷いことを……流石魔王様!」
アーバインは若干引きながらその魔王ぶりを賞賛した。
狂笑を上げていたが、ぴたりと笑うのをやめて素に戻ったヴォルガル。
「フレイガとアーバインは遊撃。俺の毒で腐食した可燃ガスをバンバン燃やして風で煽って火事を拡散!対処、鎮火してる人間を攻撃して妨害!チート人間出たら無理せず俺を呼んでいいからなー!」
「了解!」
「おーし。これで人類の補給・兵站、農地を破壊して
そして今度はイノベーションを起こそう、という程度のテンションでそう言った。
「「「「おーッ!」」」」
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