第4話 定期定期的に宣戦布告

 拝啓 フェルシア王国 国王エルヴァルド殿


 立夏の頃となりました、今年は害虫の大発生が予想されております。

 されども、稀代の名君にして爆炎王の異名を持つ貴殿の事です、さぞや名采配を振るい民を導いていらっしゃる事でしょう。


 さて、この度は大変申し上げにくいことですが、我々魔王軍は貴方がた人類に対し、″然るべき対応″を実行することに決定致しました。


 予てより、貴方がた人類は神々に与えられた所謂、″チート能力″で″俺つえー″に基づく恫喝、挑発行為を繰り返し、我々魔族を襲撃・虐殺して参りました。


 そして、己の浅ましい欲望を満たす為に魔族を虐殺し、搾取するに飽き足らず、此の度、貴方がた人類は我が実兄たる″魔神王フェンリル″に対し、お手軽に家畜化出来る″犬″として侮辱する旨の悪質なデマ情報を拡散し、我が兄フェンリルを侮辱しました。


 魔王である当方としましては、これらは断じて看過することの出来ない卑劣な民族虐殺ジェノサイド、及び歴史修正主義的行為、そして我が兄フェンリルへの事実無根の侮辱及びその名誉の毀損であり、我々魔族の存続と沽券に対する挑戦と受け取った次第です。


 つきまして、大変遺憾では御座いますが、貴方がた人類に対し″然るべき対応″を実行し、魔族の権利と生命、及び我が兄の名誉を護ることと決定致しました。


 以上を以て、我々魔王軍から全人類に対する宣戦布告とする。

 怖じて惑え、人間共!


 敬具


 魔王ヴォルガル


*


 ヴォルガルから宣戦布告を受けたのは、魔王城のある北部山岳からはるか南、大陸中央平野に位置するフェルシア王国。

 かねてより、召喚魔法を用いて転生者を迎え入れることで発展してきた人類国家。

 何を隠そう、爆炎王の異名を持つ国王エルヴァルドその人も転生者である。


「……なんで!?なんで急に!?今までなんかいい感じに和解に向けて交渉してきたのに!?」


「誰じゃ!?フェンリル馬鹿にした奴のせいで我が国に危機が訪れたんじゃが!?衛兵!フェンリル勝手に飼ってる奴を片っ端から引っ捕らえて連れて来い!!!」


 国王エルヴァルド、この突然の宣戦布告に慌てふためいた。


「陛下、先程正式に宣戦布告の文書が届き、北部から魔王軍の侵攻が始まったとの報告がありました。もはや手遅れかと……」


「ハァー……ま、所詮魔族よな。しゃーない、やるか」


「とりあえずバンバン異世界召喚して時間稼ぐぞ!その間に我が王国の総力戦態勢を整え、魔王軍を叩き潰し、ヴォルガルの首を取る!」


 エルヴァルド、各員に方針を示す。


「陛下、もう召喚無理です」


 エルヴァルドが異世界召喚の担当者、大司教グーレンフォルズに命じた所即座に拒否された。


「え、なんで?」


「神々が魔王にやられて全滅しています、召喚もう無理です」


「グーレンフォルズ、そなた何を申している?気でも違ったか?」


「神が全員ヴォルガルのクソったれにブッ殺されたので異世界召喚できないって言ってるでしょ!」


「この国の国王は建前上神に選ばれた超エラい人間って事になってんだから、それじゃワシの権威も面目も丸潰れじゃろが!」


「初手で勇者召喚とか言ってる時点で国家の権威もクソもないでしょうが」


「仕方ないじゃろが、ワシもう76歳ぞ」


「あー、いいこと思い付いた。大司教。本当に心苦しいけどお前を生贄にして強い奴召喚しよう。伝統的な生贄召喚の儀式なら、お前とおんなじぐらいの魂の強さ持った奴召喚できるじゃろ?」


 エルヴァルド、ちょっとぐらいいいだろう?ぐらいの軽さで言った。


「……いやじゃいやじゃ!陛下が自分を生贄に召喚すればいいじゃろう!」


「いやー、そうは言うがな?異世界召喚者&ワシなら案外いけるかもしれんぞ。所詮、ヴォルガルなんて無能力のザコ魔王だし」


「そりゃ、一理ありますけど……」


「陛下!お言葉ですが!生贄召喚は現行法では禁ぜられて……」


 大臣のうち一人が進言をする。


「そんなことは分かっとるわい。ワシが禁止したんじゃから。じゃがのー、人道守って国民が守れませんでした、じゃ話にならんじゃろ?」


「それともお主は魔王軍のスパイかの?」


「いえッ!御無礼を申し上げました」


「よい。差し当たり、討伐隊長と近衛騎士団長と王国軍司令官と大臣ズと冒険者ギルドマスターと魔術協会の会長と貴族諸侯ズ呼んで対策会議を開くぞ!全員今すぐ来ないと魔王軍のスパイとして処刑するって言っといてな!」


「へ、陛下!それって、総力戦ってコト……!?」


「あたぼうよ!いざとなりゃワシも戦うぞ!」


「まあ、あのヴォルガルはワシの頭飛ばして直接神々ブチ殺しに行くぐらい頭のイカれた魔王じゃからな。備えるに越したことはない」


*


「すまぬな。大司教……いや、我が臣下グーレンフォルズよ。この国の為に死んでくれ。存分にワシを恨んでくれて構わん」


 冗談ではなく、エルヴァルドは臣下を生贄に捧げようとしていた。

 ヴォルガルは、狂っている。

 何をやって来るか分からないし、何をやって来てもおかしくない。


 異世界召喚の担当者が事実上無効化された以上、有効活用する方法が、生贄召喚しか思いつかなかったのだ。


「何を仰いますやら、この老骨の命はとうの昔にエルヴァルド陛下に預けております。陛下の好きにお使い潰し下されば本望!」


「グーレンフォルズ……!」


「ワシも、国王としてこの戦いから抜け駆けするような事はせん。彼岸にてまた会おうぞ!」


 エルヴァルドは、グーレンフォルズの首を刎ねた。

 粛清ではなくその命を以て、生贄による異世界召喚を行う為に。

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