ある日、おっさんを拾う。
露庵
第1話 おっさんを拾う
トントントン……
リズムよく野菜を刻む音が聞こえる。
その音は心地よく、実家で母が台所に立って料理をしていたときの音に似ている。
「あの音、好きだったな……」
少しずつまぶたを開けると、頭がズキズキと痛んだ。
「う……うん、頭が痛い……昨日、飲みすぎた……」
私は頭を押さえながら、だるい体をゆっくり起こす。
部屋にはビールの空き缶や残飯、面倒で出していないごみ袋、散らばった雑誌や服、見慣れた段ボールの山が転がっている。
カビ臭い部屋のにおいは、いつもの自分の部屋だ。
「ああ、自分の部屋か……昨日、飲んだ後……ああ、思い出せない……」
ベッドから体を起こし、座ってガンガンと痛む頭を押さえていると、キッチンから低い声が聞こえた。
「おー、起きたか。昨日はだいぶ飲んでたな。とりあえず、水をここに置いておく。もう少しで朝食ができるから、先に風呂でも入ってくれ」
見知らぬおっさんが、水の入ったコップを持ってきた。
「いてて……ありがとう、助かるわ」
彼が渡してくれた水を一気に飲んで、私は一息つく。
「って!誰よ、あんた!なんで私の家に……いるのよ!」
えっ!?何で!?えっ、私、何があったの!?
おっさん、誰?何?なんで?
はっ、もしかして事後!?
私は自分の下半身を確認する。昨日と同じスカートをちゃんと履いているのを見て少し安心し、キッチンへと向かうおっさんに振り返る。
「ちょっと!あんた誰よ!なんで家にいるの!な、なんなのよ!」
すると、おっさんはキッチンから顔を出して、
「ん?昨日のこと、何も覚えてないのか。まあ、落ち着いてとりあえず風呂でも入れ。上がる頃には飯ができてるから食ってくれ」
そう言って、バスタオルを私に渡し、キッチンに戻っていった。
「……えー……」
とりあえず、まずは頭をしっかりさせよう。おっさんの言うように、とりあえず風呂に入ろう。まずはそこからだ。幸い、おっさんは私に危害を加えるつもりはなさそうだ。警察に連絡するにしても、まずは話を聞いてからだ。
私は周囲から下着と、高校時代から愛用している体操服を手に取り、料理をしているおっさんの横を通り過ぎて浴室に向かい、鍵をかけて風呂に入った。
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