クレプトマニア・サーペンツ

こまりがお

白き秘宝は誰の手に

第1話 白き秘宝は誰の手に Ⅰ

 ————いつだってこの瞬間は胸が踊る。


 作戦開始まであと五分を切っていた。


 今夜は仕事日和の朧月夜。

 

 もう十年近くこの感覚を経験しているが未だに自分ではどうにもできない。だから『子供』だと馬鹿にされるのは百も承知だが抑えられないものは抑えられない。


 俺は『ヤコ・サーペンツ』。十四歳。

 この世に生を受けて直ぐに路地裏に捨てられていた。そんな俺を盗賊団『サーペンツ』が拾った。


 二歳の頃にはナイフを握り、四歳の頃には家族のフリをして仕事を行う際には子供役として現場へ出されていた。その所為か今でも他の団員達から子供扱いされていることが最近の悩みである。



 さて、俺の話はこれぐらいで今夜の盗みについて話そう。今回は街を牛耳っているマフィア『アダムス』からの依頼で街の外れの教会へある人物をさらいにやってきた。


 アダムスからの情報では、獲物ターゲットは教会に隣接する塔の最上階に監禁されているとのことだが……。予定外にも塔の入口に武装した衛兵がいる。そんな話はアダムスからは一切なかった。


(それほど重要な人物だということか?)


 獲物ターゲットの写真は渡されているが、俺にはそれ以上の情報は何も知らされていない。


「……作戦は決行よ」


 考え込む俺の元にリリスが顔を見せそう告げた。



 彼女は『リリス・サーペンツ』。

 彼女の父がこの盗賊団を作ったのだが、半年程前に『定年だ』と言って引退し一人旅へと出てしまった。以降は実子である彼女が盗賊団の頭領を引き継いでいる。


 見た目は十歳ぐらいの少女であるが、実際には三十路前のオバ……お姉さんだ。


 普段はサーペンツの本拠地で他の組織との交渉や金の管理をしているのだが、今夜は現場にやって来た。理由は今回の獲物ターゲットにある。


 今回の獲物ターゲットをどうしても自身の眼で見たいと言い出したからだ。これは今回に始まった訳ではない。以前から珍しい宝やいわれのある物を盗む際は現場へと赴いてくる。


(……面倒だ。頼むから誰か止めてくれ)


 彼女が現場に来るのは俺にとっては望ましくない。何故なら簡単な仕事がサーペンツの歴史に残るぐらいの大事件へと変貌させる。


「いいのかよ? 話が違うんだろ?」

「えぇ。大した問題じゃないもの。それに——」


 リリスは悪い顔をしている。

 彼女がこの顔をしている時は何かよからぬ事を企てている時だ。勿論、良い方向に向かった試しはない。


「作戦はどうするんだ?」

「大体は同じよ。ヤコのやることは変わらないわ」

「……わかった」


 少しおかしいと感じた。

 武装した衛兵がいるにも関わらず、彼女が作戦を決行するなんて。普段であれば金にうるさい彼女は依頼主と金の交渉をいの一番に行うはずだが……。


「あと、いつも通り殺しはご法度よ」

「あぁ。……リリス、何か俺に隠してないのか?」

「リリスじゃない! 『親方』って呼びなさい!」


 彼女の父である先代の頭領は『親方』と呼ばれていた。それを意識してか彼女は団員達に自身を『親方』と呼ばせている。


「あぁ、悪かったよ! オ・ヤ・カ・タ!」

「ふむ。わかればヨイ。くるしゅうない」


(……ったく…どこの殿様だよ!)


 上手くはぐらかされた気はするが作戦開始まで時間はあまりない。やる事は変わっていないのであれば問題ない筈だ。


「それよりも作戦名を変更するわよ」

「……あぁ、別に構わない」

「『静かなる親方ビッグ・ボス』改め『春休ゴールデン・みの名探偵エクリシス


 真面な作戦名はないのかとため息をついていると作戦開始の時間がやって来た。



「ザザッ——ザ——準備はできてる?」


 インカムの調子が悪い。シャルンの声にノイズが乗っている。ただこの程度は作戦に影響がないだろうと思い、ノイズの件には触れなかった。


「……あぁ、いつでも問題ない」

「さぁ、さぁ、さぁ! 早く始めましょ!」


 実行部隊は俺とリリス。

 現場のバックアップはジンとラウムが行う。


「こっちもオッケーです」

「さっさと終わらせて帰ろうぜ」


 ジンとラウムも準備はできているようだ。


作戦ミッション 『春休ゴールデン・みの名探偵エクリシス』 スタートッ!」


 シャルンから作戦開始の合図が告げられた。

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