貧乏草の片想い

◯行雲◯

【もっといい名前があるよ】


道路建設予定地は

壊れた鉄線の中にあった


その長く広がった野原を

子供たちは遊び場にする


頬をくすぐる3月の風


緑、ピンク、黄色、白

私の目に映る色


春を

かき混ぜるように

男の子たちが走ってゆく


ビンボー、ビンボー!


「ビンボウ?」


よくわからなかったが


少し背丈のある草花を

そう呼んで走り始めた


しずかに 近寄る


さわった奴、ビンボーな!!


男の子がその草を

避けるように叫んだ


( 触っちゃいけない )

急に怖くなった


もし触ったらみんな

私を避けて逃げてしまう


怖かった


そのアソビは

ひどく怖い


みんなが去って、

少し離れた場所で草を眺めた


頬をくすぐったあの風がまたやって来て

ビンボーたちを優しく揺らす


風の続きのように声がした


「これはハルジオンっていうんだ」

「名前があるんだ」


知らない

優しい声だった


お兄さんの横で


「ハルジオン」

と つぶやいた


初めて父以外の人に教わった


ずっとある記憶


ハルジオンが咲く

季節を何度も見送った後


わたしの「初恋」だと知った









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貧乏草の片想い ◯行雲◯ @suemama

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