「本当に情報の通りだね。これはさ」

 砂漠の地下に広がっている巨大な空間の中にある幽霊(ホロウ)の街。その街の端っこにある大きな塔の(きっと電波塔だろう)てっぺんから真っ暗な世界の中で、まるで地上に星々が輝くように光が無数に灯っている、そんな幻想的な風景をジラは特殊な軍用の双眼鏡を覗き込みながら、いろんな場所の確認をしながら、そう言った。

『ええ。本当に。まるで嘘みたいですね』

 みちびきが言う。

 銀色のイヤリングの中にいるみちびきは、そこからひそひそ声でジラに声をかけている。

「やっぱりこれは、罠かな? それともお仲間さんの裏切り行為ってことなのかな?」

 双眼鏡からその目を外して、一度、そのマゼンタ色のポニーテールの髪をかきあげるようにしてから、ジラが言う。

 地下の世界には冷たい、凍るような風が吹いている。

 地上に広がる砂漠とは大違いの極寒とまでは行かないまでも、まるで巨大な冷蔵庫の中にいるような、そんな風が、この真っ暗な夜の世界の中には吹いていた。

 地下に落下したときには、これほどの寒さは感じなかったのだけど、幽霊の街に近づいてからは、寒さがいっそう激しくなった。きっと人工的に世界を冷やす装置のようなものがあるのだろうと、ジラは推測する。

 ジラは真っ暗な地上の蓋を見上げる。

 少し前まで、そこにはジラがこの地下世界に侵入するために開けた穴が空いていた。その穴から入り込む地上の光が、まるで一つの星のような光となって、地下の大地に広がる偽物の星々と同じように、(人工の光と、本物の太陽の光という違いはあったけど)輝いていた。

 でも今、その星の輝きは見えない。

 どうやらもう、地上の修復作業は完了してしまったようだ。あまりにも作業が早い。きっと自動で、地上にある天井に穴が空いたりすると、それを塞ぐためのシステムがあらかじめ構築されているのだろう。

 用心深いことだとジラは思った。

 そして、そんなに用心深い人物がこんなにも正確な機密情報を外側の秘密組織に簡単に漏らすはずかないとも、同時に思った。

 ……やはり、これは罠なのか?

 ……それとも。

『あるいは、今世紀最大のマッドサイエンティスト。浮雲ひまわり博士が自ら、情報を外側に漏らしたのか、ですね』

 みちびきがいう。

「うん」ジラは言う。

 ひまわり博士のことを個人的に知っているマゼンタ・Q・ジラはその可能性が、きっと一番高いと思った。

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