第41話:ポーション錬金

 『ポーション錬金』。


 モンスターハウスで大量の魔物を倒し、レベルが上がった際に獲得したスキルだ。必要な素材を用意することで目的にあったポーションを錬金することができる。


 例えば、生命力ポーションレベル1を一つ生成するには、『空の瓶×1』、『赤い薬草×1』、『純水30ml』を用意する。魔力ポーションの場合には、『空の瓶×1』、『青い薬草×1』、『純水30ml』だ。


 だが、ここまでは、通常のポーション作りに必要な素材は同じ。『ポーション錬金』の真髄はここからだ。


 こうして作った生命力ポーションレベル1×2自体を素材として錬金し、生命力ポーションレベル2×1を作ることができたり、生命力ポーションレベル1×1と魔力ポーションレベル1×1を素材とすることで、状態異常回復ポーションレベル1×1を作れる。


 何もないところからポーションを無限に生み出せるというわけではないし、習得したばかりでは当然ながらスキルレベルは1なので、高レベルのポーションを作れるというわけではない。


 だが、状態異常回復用のポーションを生産するには十分有用なスキルだ。


 というのも、『ポーション錬金』を使わずに手作業でポーションを作成する場合、出来上がるポーションの上限はレベル1まで。


 現在この世界で流通しているポーションを、本来必要な特別素材を使わずに短時間で作れるのだから、優秀なスキルである。


「ちょっと見ていてくれ」


 俺は、アイテムボックスから余っていた『空の瓶×2』、『赤い薬草×1』、『青い薬草×1』、『純水30ml×2』を取り出す。


 『ポーション錬金』を使用し、生命力ポーションレベル1×1と魔力ポーションレベル1×1をそれぞれ用意することができた。


「なっ……⁉︎ 素材が一瞬でポーションに⁉︎ こんな魔法初めて見たぞ⁉︎」


 驚いているのは、ジャンさんだけではない。


「レインはこんなこともできたのですね⁉︎」


「どれだけ多彩なのよ⁉︎」


 分かってはいたことだが、やはりこの世界では唯一無二のスキルのようだな。


「ここからが本番だ」


 俺はそう言って、今度は『状態異常回復ポーションレベル1』の錬金に取り掛かる。


 ついさっき作った生命力ポーションと魔力ポーションを素材として錬金。


 すると、俺の狙い通り紫色のポーションが出来たのだった。


「こ、これは……⁉︎」


「この色は、状態異常回復ポーションということよね⁉︎」


「ええええっ⁉︎ どうしてこうなるんですか⁉︎」


 まあ、スキルの内容については後で詳しく話すとして——


「ということで、素材となる生命力ポーションと魔力ポーションさえあれば、すぐにでも大量生産できる。これで問題は解決だ」


 ジルドは騎士団側の情報をキャッチしていた。もし、ポーション量問題を把握しているのであれば、これに応じて計画を練っているはず。そう考えると、問題解決だけに留まらず、かなりのアドバンテージになるかもしれない。


「で、でもこのポーションってちゃんと効果あるのよね?」


 あまりにも都合が良いこのスキルに少し疑いの目を向けてくるリーシャ。


 言葉にはしていないが、本来の状態異常回復ポーション作成に必要な素材が揃っていないのに、どうして同じものができるのか疑問なのだろう。


 俺は『Sieg』の設定が頭にあるので説明しようと思えばできる。そもそも、原理的には錬金に必要な二つの素材しか必要がない。状態異常回復ポーションの作成に必要と言われている希少素材『サソリの血』。これは、生命力ポーションと魔力ポーションを原子レベルで組み換え、繋ぎ合わせる作用を持つ素材。スキルでこの工程を代替できるのであれば、必ずしも希少素材は必要ではないのだ。


 とはいえ、今ここで全てを説明する必要はない。


「もちろんだ。飲んでみればすぐに分かる」


 そう、作用に間違いはないのだから、面倒な説明などなくてもこれで十分。


 未知のポーションに当然警戒してしまうだろうから、その役は俺が買って出ればいい。


「痺れ草とか、毒とか……何か状態異常を起こせるものを用意してもらえないか?」


「あ、ああ……分かった!」


 ジャンさんが部下へ指示を出し、すぐに痺れ液を用意してくれた。


「キイロウルシの樹液はかなり毒性が強く、少し触っただけでも全身に痺れを起こすと言われています。気を付けてくださいね……!」


 ミリアが心配してくれていた。


 仮に状態異常回復ポーションが効かなかったとしても、俺には万能な回復魔法がある。心配は無用なのだが……まあ、気持ちはありがたく受け取っておこう。


 ペロッ!


 早速、樹液を舐めてみる。


 うえっ……辛い。


 すると、すぐにピリピリとした不快な刺激が舌を通して全身に広がっていく。


「うお……こ、これはな……か……な……か……」


 口が動かしづらくなり、思うように言葉を発せない。


 そう言えば、濃密な痺れ液を舐めたのは人生で初めてだ。冒険者学院時代には痺れの感覚を知るため、弱い痺れ役に少し触れたことはあったがあれは安全に配慮してかなり薄められていた。やはり勉強と実務は違うのだとしみじみ感じる瞬間である。


 それはそうと、毒が回るとだんだん身体が動かしづらくなっていく。重く軋む関節を強引に動かして、さっき俺が作ったポーションを口に運んだ。


 ごくん。


 直後、全身の毛細血管に流れる毒素が浄化されていく感覚を覚えた。


 一瞬にして痺れが取れ、不快感は消滅。思い通りに身体を動かせるようになった。


「うん、大丈夫だ」


 試しに、ぶんぶんと肩を回してみる。


「す、凄いな……これは本物だ!」


「こんなに一瞬で効くんですね⁉︎ 普通のポーションより効いてませんか⁉︎」


「完璧だわ。こんなことまでできるなんて、すごすぎるわ」


 信頼してもらえたようで何よりだ。


 それより、ミリアの言葉が気になるな。俺は冒険者学院を卒業したばかりで、この世界での戦闘経験は少ない。いまいち普通のポーションの感覚というものが分からなかった。


「普通のポーションは効くまでもっと時間がかかるものなのか?」


「そうですね。ジワジワと痺れが取れていくという感じなので、レインのポーションみたいに一瞬で効くわけではないんです」


「なるほど」


 もしかすると、この世界の普通のポーションは『サソリの血』を使う関係で不純物が混じってしまっているのかもしれないな。


 さっき独白したように、普通のポーションは『サソリの血』と呼ばれる希少素材を使って原材料を加工する。『ポーション錬金』で錬金したポーションに比べると、本来必要のない素材が混じって効果を下げてしまっているのかもしれない。


 俺は同じものができるとばかり思っていたが、ここは盲点だった。


「素材となる生命力ポーションと魔力ポーションがあればいくらでも作れるのか⁉︎」


「ああ。多少このスキルは魔力を使うんだが……数千個くらいなら問題ない」


「よし、材料を集めさせよう! レイン君、ポーション作りを頼んだ!」


 こうして、敷地内の倉庫に保管してあった生命力ポーションと魔力ポーションを次々に『状態異常回復ポーション』に変換。


 日が暮れる頃には、必要量を用意することができた。


 これで、騎士団側の物資の用意は完了。後は、レイヴンたち『黒霧の刃』幹部たちをまとめあげれば、いつでも作戦を実行できる。


「よし、レイヴンたちと一旦合流して一旦情報を共有しよう。向こうの進捗も気になる。ミリア、リーシャ、ついてきてくれるか?」


「はい、もちろんです!」


「分かったわ」


 こうして、騎士団の本部を離れようとしたその時。「


「レイン君」


「?」


 ジャンさんに呼び止められた。


「合流するのなら、これからの具体的な動きを彼らに伝えてほしい」


「……? わかった」


 俺は、ジャンさんから伝言を預かってから、敷地を出たのだった。

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