第36話:闇奴隷
「……で、問題ないよな?」
念の為、ミリアとリーシャにも確認しておく。
「良いと思います!」
「ええ。やりやすくなったんじゃないかしら」
よし、話はまとまった。
「じゃあ、とりあえずルーガスの怪我を治しておくか」
「……⁉︎」
言いながら、腰を下ろして右手でルーガスを触れると、レイヴンが驚いたようだった。
「お、俺を……⁉︎ 恨んでないのか⁉︎」
レイヴンだけじゃなく、ルーガス本人にとっても意外だったらしい。
もちろんこれも優しさではない。レイヴンの話を聞く限り、こうした方が俺たちの利益になる可能性が高いというだけのこと。
「そう簡単に話がまとまるとは思えない。力尽くで……となると、一人より二人の方が成功確率が高いだろう? それだけのことだ」
「なるほどな。……いや、恩に着る」
「どんな理由であれ、癒してもらえるのは助かる。しっかり仕事させてもらうぜ……」
こうして、俺はルーガスを対象に『
白い光に包まれたルーガスの怪我は、一瞬にして完治したのだった。
「この話、王国側にも伝えた方が良いのかしら」
「その方がいいな。ただ、俺たちの証言で信じてもらえるかどうかだな」
「レイヴンさんたちに直接話してもらえば……あっ、でも王国側の出方によっては作戦がパーになってしまいますね……!」
「そこなんだよな」
より確実に、より簡単に事を終えるためには、王国側も味方につけて足並みを揃えて動いた方がいい。『黒霧の刃』のクーデター作戦に関しては、既に王国側も知るところ。
計画が判明した以上は、早急に組織を潰しにかかるはずだ。そこにノコノコとレイヴンたちが出てくれば、捕まってしまう可能性が高い。そうなれば今話した作戦は失敗する。
かといって、いくらミリアの地位があっても国の一大事で俺たちが突然持ってきた話を採用してもらえるとは思えない。
何か、確実な内部情報であると信じるに値する証拠が必要だ。
……と頭を悩ませていると、レイヴンから提案があった。
「それなら、我々しか知らない情報を持っていけばいい」
「情報?」
「おそらく……王国側は『黒霧の刃』を調査をした段階で、クランの戦力に収支が合わないことに気がついているはずだ。主に武器や防具、アクセサリー……報告済みの資産に対して、かなりレベルが高い。金の出どころはクランの中でも上層部しか知らない」
「なるほど」
それなら確かに、少なくとも俺たちが『黒霧の刃』の幹部から話を聞き出したという信憑性を高められるかもしれない。
「で、金の出どころなんだが……闇奴隷だ」
「闇奴隷?」
そもそも奴隷売買自体が闇だろうとは思うのだが、この国では奴隷の取引自体は合法。闇ってどういうことだ? と思っていると、レイヴンから説明があった。
「闇奴隷っていうのは、素性を隠して取引される奴隷のことだ。全ての奴隷は素性を明かして売らなきゃいけないんだが、うちでは帳簿外の資金を作るために秘密裏に攫った貴族の娘だったりを金持ちに売りつける……なんてことをしていたんだ。俺はそこには触れてなかったがな」
「素性を隠して……」
俺は思い当たることがあり、ミリアを見た。
「もしかして、私もですか……?」
「え、君は奴隷だったのか……? 俺はそっちの方面には手を出してなかったから分からないし、何より数が多い。だが王都の闇奴隷はうちが取り仕切ってるから、おそらくそうだろう」
なるほど。ある意味、ミリアの件のおかげで説明しやすくはなったな。
「それと……鍵を預けたい」
「鍵?」
すると、ルーガスがポーチの中から、金属製の首輪を取り出してレイヴンに渡した。
この形、このデザイン。見たことがある。
奴隷商から病気のミリアを引き取った時についていたものと同じだ。確か、奴隷を強制的に従わせる魔道具……。
「俺たちはレインの奴隷になる。まあ、別にこれを付ける場所は首である必要はない。足にでもつけておいて、騎士団連中に意図的にこれがついていることを見せればレインの支配下にいることの証明になるわけだ」
なるほどな。確かに、ここまでやれば完璧だ。
「分かった。でも、いいのか? 気分的に」
「殺される覚悟で目の前に来てるんだ。今更だよ」
まあ、それはそうか。
俺はレイヴンとルーガスに首輪をつけて奴隷化。鍵を失くさないようアイテムボックスに収納したのだった。
見た目上は奴隷化していることは分からないが、これで主人である俺に抵抗することができなくなっている。
「説得で怪我をさせたら、俺のところに連れてきてくれ。なるべくジルドにはバレずに進めたい」
「分かった。そうさせてもらうよ」
こうして、俺たちとレイヴンたちは一旦解散。
早速レイヴンたちには『説得』に向かってもらい、俺たちは王国政府側と話が繋げられるよう、俺たちが関わっている中で最も話がしやすい冒険者ギルドへ行くことになった。
さて……やるべきことははっきりした。ここからが本番だな。
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