第22話:新たな加入者

「……は?」


 いきなり何を言い出すんだ?


 唐突な誘いに困惑していると、先ほどまでリーシャを取り囲んでいた群衆がこちらへやってきた。


 後ろを振り向いたリーシャはその群衆に向けて一言。


「ごめんなさい! たくさんお誘いもらってありがたいのだけど、今回の募集は締め切らせて!」


 すると、集まっていた群衆は離れていったのだった。


「憧れのリーシャ様とお近づきになれると思ったのに……」


「仕方ないわ。今回は……ってことはまた次の機会もあるのよね?」


「にしてもリーシャ様が注目するなんて、あの子たち何者? 見たことない顔だけど……」


 ……なんだか、気の毒になってしまうな。


 まあ、それはともかく。


「……なんのつもりだ? いきなりパーティがどうとか」


「私はリーシャ・グレイシアよ。昨日まで『黒霧の刃』に所属していたのだけど、ちょっと事情があって今はフリーなの。強い仲間が欲しくて募集していたのだけど、あなたたちを見てピンときてお誘いしたってわけ」


 まあ、そんなところだろうということは分かっていた。


 俺としては、誘うとしても順序というものがあると言いたかったのだが……本気で悪気が無さそうなので、咎める気になれない。……まあ、いいか。


「ピンときたってのは?」


 俺が尋ねると、リーシャは楽し気な様子で答えた。


「強い冒険者ってね、見れば分かるの。オーラが違うっていうか、立ち振る舞いから強者感があるというか、そんな感じ。私の目は誤魔化せないわよ。えーと……二人、名前は?」


「……レイン・シャドウ」


「私はミリア・シャドウです」


「あれ? ってことは夫婦? 兄妹?」


 高速で俺とミリアの顔を交互に見るリーシャ。


 やれやれ。ミリアがややこしいファミリーネームをつけたせいでまた誤解されてしまった。


「違う。偶然だ」


「そんな偶然があるのね。まあ、そんなことはどうだっていいのよ」


 ……いいのかよ。


 リーシャはくるんとその場で一回転すると、俺たちの前に手を伸ばしてきた。


「レイン、ミリア、私のパーティに入りなさい。そして、一緒に高みを目指しましょう!」


「断る」


 俺が即答すると——


「ええっ⁉︎ ど、どうして⁉︎ 私、強いわよ?」


「俺とミリアはパーティを組んでるんだ。解散してまでそっちのパーティに入ろうという気はない」


 確かに俺たちとしても強い仲間は欲しいが、あくまでも俺が主導権を握れることが前提だ。


 俺が冒険者をやるのは、あくまでも魔王を倒して魔物をこの世界から消し去りたいから。手段であって目的ではない。『Sieg』では、魔王討伐に関してリーシャはここを目標にしているという記述はなかったので、価値観が違う可能性がある。


 リーシャが俺に従ってくれるなら歓迎だが、彼女は既に実績のある冒険者。自分のために仲間を欲しているという状況では絶望的だろう。


「ふーん。じゃあ……私がレインたちのパーティに入るのは良いってこと?」


「ん、まあ……俺としてはそうだな」


 確認の意図を込めて、チラッとミリアの方を見てみる。


「私もそれなら良いと思いますよ」


 すると、リーシャは手をパンと叩いた。


「それなら簡単じゃない! 私、レインたちのパーティに入るわ! どうせ一人だし、もうパーティがあるならそっちの方がいいわ!」


「え、リーシャは自分がパーティリーダーじゃなくて良いのか?」


「そんなものに興味はないわ。これまでは私が一番強いから、リーダーをしなきゃいけなかっただけ。やってくれるなら大歓迎よ!」


 ……なんか、凄く話がサクサク進んでいくな。


 このまま加入してもらえると、俺たちとしては戦力的にありがたいが……まだ説明して納得してもらわなくちゃいけないことがある。


「俺たちのパーティの最終目標は、この世界の魔物・魔族を牛耳る魔王の討伐なんだ。かなり危険を伴うし、長期間の旅になる可能性が高い。それでも問題ないか?」


「ああ……最高じゃない♡ やっぱり、私って見る目があるわね。そう、冒険者ならこれを目標にしなくちゃいけないのよ。お金とか地位とか、そういうのじゃないのよ冒険者っていうのは!」


 身体をクネクネさせて興奮してい様子のリーシャ。


 ……まあ、性格はともかく利害は一致しているし、お互い都合が良いなら何よりか。


「分かった。それなら……ミリアも良いよな?」


「はい!」


 俺は、さっきとは逆の構図——リーシャの方に手を伸ばした。


「リーシャ、歓迎するよ。よろしく」


「ええ。共に高みを目指しましょう!」

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