第19話:合格

 ◇


 王都に戻った後、すっかり日が落ちて辺りは暗くなっていた。


 街に戻ったら冒険者ギルドで依頼の達成報告をしなければならない。シオンも冒険者ギルドへ直行しようとしていたのだが、さすがに止めた。


 念の為、王都の治療院で身体を診てもらった方がいいからだ。


 シオンは平気だと言っていたし、回復魔法で肉体を再生させたため問題は起こらないはず。だが、初めて使った魔法だったので万が一ということもある。


 この世界は、ゲームとは違って一度死んだ者が蘇ることはないし、俺を含めモブの一人一人にも人生シナリオがある。確証がなければ安心だと断じることはとてもじゃないができない。


 ——さて、少しばかりミリアと並んで歩くと、冒険者ギルドに戻って来られた。


「あっ、レインさん。無事に戻られたんですね。良かったです」


 俺たちが建物の中に入ると、昼に依頼の処理をしてくれた受付嬢が声を掛けてきた。


 どうやら、心配してくれていたらしい。


「依頼は無事に済ませてたんだけど、色々あって戻るまで時間がかかったんだ。精算してもらって良いですか?」


「もちろんです。ギルドカードをお預かりしますね」


 俺とミリアからギルドカードを受け取った受付嬢は、慣れた手つきで専用の機械に挿れて依頼の精算処理をしてくれた。


 依頼の精算機……なんだか、あまり中世ヨーロッパ風のファンタジー世界っぽくはないが、ゲームで見慣れたせいで違和感はない。


「精算が終わりました! おめでとうございます。ミリアさん、特別試験合格です‼︎」


「よ、良かったです!」


 ほっと胸を撫で下ろしたミリアと顔を見合わせる。


 ミリアにとってはそれほどハードルが高い試験ではなかったが、優しい子なので、俺に迷惑がかからないか、合格が確定するまで不安に感じていたのだろう。


「おめでとう」


「レイン、ありがとうございます!」


 嬉しそうに微笑むミリア。


 さて、これで明日からミリアも一緒に冒険者として依頼をこなせるようになる。


 俺の最終目標はあくまで魔王を倒し、全ての魔物を消滅させることなわけだが、ゲームをクリア済みの俺が見て、まだまだ力が足りない。


 レベルを上げるためにはどんどん強い魔物と戦っていきたいのだが、今日の依頼をこなした感じでは、Fランク依頼は俺たちにとって簡単すぎた。


 早めにランクを上げてもっと強い魔物と戦えるようになりたい。


「少し聞きたいことがあるんだが……ランクは、依頼を達成時にもらえるギルドポイントを貯めると上がるんだよな? 今回の依頼だと何ポイントになる?」


「今回はあくまでも試験なので、ギルドポイント算入不可案件なのですが……通常の依頼としてご依頼させていただいた場合は、10ポイントですね」


「何ポイント集めたらランクアップできる?」


「FランクからEランクですと……昇格には100ポイント必要です。今日の依頼をしっかりこなせたのであれば、すぐに昇格できそうですね!」


「……そうか、ありがとう」


 思ったよりも時間がかかるな……。


 まあ、仕方ないか。


「それでは、今回の達成報酬をお支払いしますので、しばらくお待ちください」


 そういえば、今回はギルドポイントには算入しないものの、通常の依頼を使う関係でしっかり報酬が出るんだったな。


「あ、ちょっと待ってくれ」


「どうかしましたか……?」


「いや、どうせなら集めてきた魔物の素材も買取してもらえたらと思ってな」


「素材……ですか?」


 手ぶらの俺を見て、疑問符を浮かべる受付嬢。


 そう言えば、アイテムボックスはこの世界では普通じゃなかったっけ。


 仕方ないので、俺はアイテムボックスに手を入れ、『ブラック・ウルフ』の頭を少し取り出す。


「……えっ⁉︎」


「ちょっと特殊な魔法で、俺は異空間に素材を収納できるんだ」


「な、なるほど……! も、もちろん買取させていただきます! 隣のカウンターに置いていただければすぐに査定しますね!」


 と言われたので、隣のカウンターを見てみる。


 しかし、あまりにも小さい。


 『ブラック・ウルフ』など普通サイズの魔物なら二〜三体程度乗りそうだが、『レッド・ドラゴン』はおろかそれ以外の十体程度の魔物ですら乗り切らなさそうだ。


「いや……ちょっと数が多くてな。できればもっと広い場所があればいいんだが……」


「な、なるほど……? では、倉庫までご案内しますね。こちらに来ていただけますか?」


「ああ」


 俺とミリアは受付嬢の後をついていく。


 ギルドの広大な裏庭に設置された、大きな倉庫についた。


 棚には魔物の牙や角、皮や骨に至るまでが分別されて保管されていた。


 亡骸を丸ごと持ち帰ってきた場合にはここで解体もするらしく、解体された直後の干された素材も見られる。


 俺は倉庫の中央——何もない場所に歩いていく。


「できれば、解体場所に近い方がありがたいのですが……?」


「いや、ここの方がいいと思う。……多分」


 俺はやや困り顔の受付嬢を無視してこの場でアイテムボックスから『レッド・ドラゴン』を含む全ての魔物素材を取り出したのだった。


「えっ、えええええええええ⁉︎ な、なんですかこれ⁉︎」

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