第14話:アイテムボックス

 回復術師は、当然イメージ通り回復魔法を得意とするわけだが、攻撃魔法を一切使えないというわけではない。転生に気づいてから、既に自然と理解していた。


 『Sieg』では回復術師でも最低限のソロプレイができるよう設計されていた。どうやら、この世界でも同じようになっているらしい。


 さて、どうして俺の攻撃魔法が魔法師と比べても強い理由を説明しておこう。


「属性が乗った攻撃は、効果が1.5倍になるんだ。ついでに、有利属性だと当該属性にさらに2.0倍が掛けられることなる。つまり、有利属性3倍に五属性分の補正を足し算すると——5.5倍。単属性しか扱わない魔法師と比べて強いのはこのせいだ」


 俺は丁寧に基本的なダメージ計算について説明したのだった。


「な、なるほど……つまり、レインは色々な属性が使えるから強いということですか?」


「まあ、そういうことだ」


 ……前提となるゲーム知識がないミリアには難しすぎたかもしれない。


 大体合っているのでこれで問題なしとしておこう。


 それはともかく。


「それで、倒した魔物の回収だったよな?」


「あっ、そうでした!」


「とりあえず、一か所に集めよう」


 俺は、基礎的な風魔法『彩空嵐サイクロン』で魔物の亡骸をフワッと浮かして俺の目の前に移動。大量に積み上げたのだった。


「これだけ数があると、素材の回収だけでも大変ですね……頑張らないとです!」


 この世界は俺の知るゲームと似ているが、こういったところで地道な作業が必要になるなど細かな点でゲームとは違う部分もある。


 ゲームなら、荷物がどれだけ増えてもアイテムボックスにそのまま突っ込んでおけば良かったのだが……。などと思っていると——


「え?」


 俺はアイテムボックスを開くことに成功したのだった。


 俺の目の前に出てきたのは、幾何学模様の魔法陣。ゲームと同じなら、これはアイテム保管用の異空間に繋がるゲートである。


 『アイテムボックスを使いたい』と思っただけで出来てしまった。


「ミリア、解体の必要はないかもしれない」


「どういうことですか? って、えええええええっ⁉︎」


 俺がアイテムボックスに次々と魔物を突っ込んでいく様子を見たミリアはめちゃくちゃ驚いていたようだった。


「そ、それどうなっているんですか⁉︎ 魔物が消えて……取り出せるのですか⁉︎」


「問題ない。ほら」


 俺は、幾何学模様の魔法陣に手を突っ込んで魔物を一匹取り出してみる。


「す、すごいです……。量に制限はないですか?」


「わからないけど、このくらいなら全然大丈夫だと思う」


「こんなことができるなんて……! やっぱり、レインはすごいです……!」


「ハハ……」


 やめてくれ……照れちゃうじゃないか。


 そもそも、俺はたまたま知識があっただけで、特別すごいことはしていないのだがな。


「じゃあ、時間が来るまで引き続き魔物を倒そ——ん」


「どうかしましたか?」


「いや、ちょっと強い魔力を感じたんだ」


 回復魔法は、繊細な魔力操作を必要とする。そのため、俺は自然と敏感に魔物の魔力もセンサーのように感知できるのだ。


「動いてる……ということは、魔物か。となると、かなり強いな。多分……エリアボスだな」


「エ、エリアボスですか⁉︎」


 ミリアが驚くのも無理はない。


 エリアボスは対象エリアの中でランダムに現れる超強力な魔物で、倒せば大量の経験値とレアアイテムをゲットできる。


 しかし基本的に一人や二人での攻略は難しいので、その場合は見つけたら全力で逃げるのが唯一の正解だと言われている。


「レインが早く見つけてくれて本当に良かったです。急いで帰りましょう!」


「いや、倒しに行こう」


「ええええええええっ⁉︎ な、何言っているんですか⁉︎」

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