第13話:回復術師だから
◇
二キロほど進むと、ようやく魔物の姿を確認できるようになった。
麓の魔物は新人のFランク冒険者でもそれほど苦労せず倒すことができるが、この辺りはEランク冒険者以上じゃなければ危険だと言われている。
とはいえ、冒険者ランクはあくまでも目安。要は、魔物を倒せれば問題ないわけだ。
さて。俺たちの目の前——十メートルほど先に見えるのは、目当ての黒色の狼。
「ようやく見つかったな。俺は後ろから支援に徹する。ミリア、攻撃は頼んだ」
「はい!」
返事をしたミリアが『ブラックウルフ』の懐に飛び込み、鋭く剣を一閃。
すると——
ザアアアアアアンンッッ‼︎
『ブラックウルフ』の頭が切断され、あっという間に討伐が完了したのだった。
この程度の魔物なら想定通りではあったが、俺の出る幕はなかった。
すかさず、仮のギルドカードを確認するミリア。
「やりました! 1/1になってます!」
「よくやったな」
「今日はこれで帰るのですか?」
「いや……さすがにな。依頼を受けてなきゃ報酬はもらえないが、勝手に倒した魔物の素材も買取はしてもらえる。ついでに持ち帰ろう」
「わかりました! じゃあ、次の魔物行きますね!」
ミリアは剣を振るのが楽しいのか、ご機嫌な様子。
普段のミリアも美しいが、笑っている姿は全ヒロインの中でピカイチだな。
ザン! ザン! ザン!
次々と魔物を倒したミリアは、俺の元へ帰ってきた。
「この剣、やっぱりすごいです! サクサク斬れて楽しいです!」
「勇者時代はもっと良い剣を使ってたんじゃないのか?」
「それはそうですけど、新しい剣はやっぱり楽しいのです。金額じゃないのですよ」
「そういうもんなのか……?」
車やバイクみたいな感覚だろうか?
特別速くて高性能なものじゃなくても味わいがあるみたいな?
「じゃあ、もう一回行ってきますね! 少し魔物がまとまっているエリアがあったので!」
そう言って、駆け出すミリア。
——と、その時だった。
「そういえば、倒した魔物の素材はいつ回収——って、エレン⁉︎」
俺から五メートルほど距離が離れたところで、俺の方を振り返ったミリアが血相を変えてこちらを見ていた。
「ん?」
「エレン、う、後ろ! 魔物がいます‼︎」
振り返ってみると、確かに『ワイルド・ラビット』——小汚い色をした兎の魔物が俺の背後を襲いかかっていた。
かなり素早いため、ミリアが離れた隙に一気に近づいてきたのだろう。
この距離では、ミリアの攻撃は間に合わない……か。
やれやれ、仕方ないな。
俺は、『ワイルド・ラビット』に左手を向けた。
そして、火・水・地・風・聖・闇——全ての属性を使って放つ魔力球『精霊球《エレメンタル・ボール》』を放ったのだった。
白く輝く魔力球が『ワイルド・ラビット』に衝突し——
ドゴオオオオおおおおおおおおおオオオオンンンンッッ‼︎
轟音を立てて大爆発を起こしたのだった。
もはや、『ワイルド・ラビット』の亡骸は消し炭すらも残っていない。
それどころか、地面が抉れて魔力球が通った場所は更地になってしまっていた。
「えええええええええええっ⁉︎ エレンは攻撃魔法も使えたのですか⁉︎ し、しかもめちゃくちゃ強いじゃないですか⁉︎ ど、どういうことですか⁉︎」
「ん、まあ……このくらいは、回復術師ならできるんだ」
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