異世界最強の全属性ヒーラー 〜ゲームのモブに転生したので、原作知識を駆使して世界最強の回復術師を目指す〜
蒼月浩二
第1話:内定取消
俺の名前はレイン・シャドウ。
回復魔法に長けた能力を持つ『回復術師』である。
今日、王都の名門学院であるウェールス冒険者学院を首席で卒業したと同時に、ちょうど誕生日を迎えて十八歳になった。
進路は既に内定が決まっている。
この後、ミスト王国最強のクラン——冒険者たちを集め、魔物の討伐を生業とする組織——『黒霧の刃』に正式に加入することになっている。
『黒霧の刃』は毎年勧誘希望者が殺到するクランであるのに対して、採用人数は極端に少ない。今年度にウェールス冒険者学院から新卒内定が出たのは俺一人だ。
ふっ。自分で言うのもなんだが、かなりのエリート街道を歩んでいる気がする。
「すまない、待たせたな。卒業おめでとう、レイン君」
『黒霧の刃』のスカウト、レイヴンさんだ。
黒髪黒目の地味な見た目の俺とは対照的に、レイヴンさんは金髪赤目で首にタトゥーが入った派手な見た目の男性だ。
歳は二十八……と聞いた覚えがある。派手な見た目からは考えられないほど優しく、物腰が柔らかい印象で、実力も一線級とのことらしい。まさに完璧超人である。
卒業式を終えた後、俺は王都の教会でレイヴンさんと待ち合わせをしていた。
「いえいえ。お忙しいところご足労いただきありがとうございます」
「おいおい……敬語はやめてくれよ。属性検査が終わったら、俺たちは仲間になるんだからな」
ペコリと頭を下げた俺に、苦笑いを浮かべるレイヴンさん。
ちなみに、属性検査というのは、教会で俺がこの後受ける予定の検査である。
この世界には火・水・地・風・聖・闇の六属性があり、強さに序列はない。
だが、同じ職業でも微妙に習得できる魔法に違いがあったり効率の良い訓練方法に違いがあるので、正式加入前に検査をする決まりになっているらしい。
属性は十八歳になった時に発現するため、同世代の学院生はほぼ全員属性検査を終えているらしい。あいにく俺は早生まれだったため今の時期になってしまったのだ。
それはともかく、クランの最重要活動である人事を担うスカウトのレイヴンさんにタメ口なんて、恐れ多すぎてできるわけがない。
「仲間と言っていただけるのは嬉しいですけど、俺は新人ですから……」
「そうじゃなくて。現場では、知能の低い魔物とだけ戦うわけじゃない。高知能の魔物や対人戦が必要になる時には、指揮命令系統が割れると不味いんだ。普段から慣れておいた方がいい」
さらに、レイヴンさんは言葉を続けた。
「レインが気にする気持ちはわかるが……先輩への敬い方ってのは、言葉じゃなくでも伝えられるだろ? だから、意識して直していけ。できるな?」
なるほど、確かにそうだ。
どうしても心理的な抵抗があったが、むしろ迷惑になるというなら直すべき。
「わかり……わかった!」
「うん、それでいい。じゃあ、行こうか」
レイヴンさんは微笑ましそうに笑うと、教会に入るよう合図した。
「こちらへ」
だだっ広い教会の中にある一室に初老の神父さんが案内してくれた。
この部屋には大きな黒い水晶が置かれており、他には何もない。
「この水晶に手を触れるのです。さすれば、神がレインの属性を教えてくださるでしょう」
「わかった」
俺は、早速真っ黒の水晶に右手で触れてみた。
さて、何色に変化する?
聞いた話では、火属性は赤色、水属性は青色、地属性は茶色、風属性は緑色、聖属性は白色、闇属性は紫色を示すらしい。
期待して待つこと数秒。
「あれ……?」
なぜか、水晶の色に変化は現れなかった。
「神父さん……俺、何かやり方間違えてる?」
「いえ、そんなことはないはず……。触れるだけですので」
「水晶が壊れているとかってことは……?」
「あり得ません。この水晶には神の力が宿っているのですから」
言いながら、神父さんは自分の手で水晶に手を触れた。
すると、風属性を示す緑色に変化したのだった。
「このように輝く以上は、水晶の問題ではないでしょう……」
俺は、もう一度水晶に触れてみる。今度は左手で。
しかし、黒い水晶は何色にも変化することはなかった。
「なんで……?」
俺の呟きに、レイヴンさんが反応した。
「水晶が何色にも変わらないということは属性が無いということだろう」
「も、もしかして誕生日が間違っていたとか……?」
「あり得ない。もし誕生日前に水晶に触れれば、痛みを感じるはずだからだ」
確かに、水晶に触れた時に痛みは何も感じなかった。
ということは、年齢の条件はクリアしていると言うことになる。
属性が無い……だとしたら、俺はどうなるんだ?
冒険者学校を首席で卒業したとは言っても、これはポテンシャルを評価されたに過ぎない。
属性がなければ、おそらく属性が必要な魔法は何も習得できないだろう。
冒険者としては、致命的だ。
「レイン」
レイヴンさんに名前を呼ばれて、俺はパッと振り向く。
「……悪いが、この話はなかったことにしてくれ」
「え……? そ、それって……」
「ああ。内定取り消しだ。お前は『黒霧の刃』には必要ない。気の毒だがな」
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