4-12 鈴心の生い立ち
「うーん、彼が盗んだのは体毛だったんだね。それはちょっと期待外れだな」
「
「その毛にどれだけの力があったか、ですね」
「確かに
「その所見はあくまで呪術の素人の目から見てですが……」
「まあ、皓矢が実際に見たらどう思うかは知らないけど、
「そうですね」
永と鈴心は蕾生を置き去りにして、先ほどの話題を掘り返し始めた。
「毛でもなんでも、これで眞瀬木に
「それを崇めることで、眞瀬木に鵺信者が現れたんでしょうか」
「だろうね。目に見える物があれば、信仰は広がりやすいし」
二人だけで納得していく会話に、蕾生は痺れを切らして質問を投げかける。
「眞瀬木に鵺信者ってなんだ?」
「あ、そうかそうか。ごめん!実はこっちもわかった事があってね──」
永はやっと顔を上げて蕾生と梢賢を見ながら瑠深とした話を伝えた。
「はばつ……」
一連の話をきいて蕾生が何の気無しに反芻した言葉を鈴心が意地悪く捉えた。
「ライには単語が難し過ぎましたかね」
「バカにするな、クソガキ。派閥くらいわかる!」
恒例のデコボコ口喧嘩を揶揄う余裕もないほどに、梢賢は青ざめていた。
「ていうか、君達……とんでもないことしてくれたやん」
「大丈夫です、瑠深さんとは内緒話のつもりなので」
ケロッとして言う鈴心に、梢賢は首を捻って訝しんだ。
「そこも不思議やねん、いつの間にあのルミを手懐けたんや!」
「手懐けた訳では……リンのおかげだよ」
「身を切った甲斐がありました」
「何したんだよ」
蕾生も怖々聞いた。鈴心なら得意のスンとした表情でとんでもないことを言うだろう。それは既に経験済みである。
「私の身の上を少し話しただけです」
「何それ、教えて!」
梢賢が興味津々で身を乗り出すので、鈴心はウラノス計画のことをかいつまんで話す。
二人の遺伝子上の父親は精子提供者である銀騎詮充郎であること、卵子にリンの魂を憑依させるのに時間がかかったため鈴心は二年遅れて生まれたこと、などを聞いて梢賢は口をあんぐり開けて驚いていた。
「なんや、そのSF設定は!銀騎詮充郎ってそんなことまでするん?」
「驚くよねえ。なのにリンてば涼しい顔で「詮充郎の娘です」なんて言ったもんだから、
梢賢の正当な反応を面白がって永は笑っていた。詮充郎によりとんでもない事態に慣らされてしまった自分への嘲笑でもあった。
「銀騎もそれを知ってるのか?」
蕾生も詮充郎が父親だと知って驚きながら聞くと、鈴心は溜息を吐きながら答える。
「そのはずです。たまにふざけてお姉ちゃんとか呼んでくるので」
ウラノス計画では鈴心の卵子が被験体一号で、星弥の卵子が二号である。その為、鈴心が姉、星弥は妹ということになる。
「うん、彼女は本当に強いね」
「そうだな」
永と蕾生がリモートの向こうで荒ぶっている星弥を思い出しながら頷いていると、梢賢はまだ口を開けたままであった。
「おいおいおいー……、見知らぬカワイコちゃんの話で君らだけで和まないでくれる?こっちは理解が追いつかへんやんか!」
「ま、あまり深刻に捉えられても困ります」
「あー、しんど。今回の君らはほんとに複雑やねえ」
鈴心は涼しい顔をしてその話題を切り上げた。
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