3-13 二百五十年前
「それで?
「
「へえー、銀騎はお弟子さんも集めたんだあ」
嫌味を込めた永の言葉を皓矢は気づかないフリをして続けた。
「銀騎の下で働いてもらうためにはうちの術や理を学んでもらう必要がある。当時は全国から術者の子息が集められて教育を施したそうだ」
「でも良かったのか?よくわかんねえけど、他人に自分家の手の内を教えるなんて危ねえんじゃ?」
「集められた子息達は二度と実家に戻ることはない」
蕾生の質問に皓矢は平然と言ってのけた。それに永はまた嫌味で反応する。
「出た。卑怯なやつ」
「当時は切羽詰まっていたからね。子息の実家にはきちんと説明しているはずだけど」
「それで、眞瀬木の長男はどうなったんですか?」
鈴心の問いに皓矢は溜息混じりで答えた。
「それが、どうもこの長男が問題でね。詳しい経緯は記されていないんだけど、銀騎に来た後ごく短い期間で出奔している」
「ああ……それが確執ってこと?」
「だろうね。うちにある記録はこちら側から書いたものだから、眞瀬木が悪いようになっているけど、真相はわからない」
「まあ、呪術師なんてどいつもこいつも良くはないよ」
公平を気取った皓矢の説明も永にしてみれば同じ穴の貉である。
「はは、耳が痛いね。だけど、うちにも言い分はある。眞瀬木は出奔する際、銀騎から
「──!」
皓矢の言葉に鈴心は大きな衝撃を受けていた。
「じゃあ、眞瀬木が悪いんじゃね?」
「問題は、そこじゃないよ」
のんびり言った蕾生の言葉を永が真面目な顔で否定した。画面上の皓矢も今までで一番神妙な顔つきになっている。
「そう。出奔した眞瀬木家の長男が鵺の遺骸と銀騎の技術を麓紫村に持ち帰ったんだとしたら……」
「眞瀬木の技術、銀騎の技術、鵺の未知数の力が合わさって、独特のやばい術に進化を遂げた──なら、あの変な結界も説明がつく」
永の考えを捕捉するように皓矢も言った。
「そういう雑種の力は、時として我々のような正当な陰陽師には想像もつかないような術を作り上げる」
「うわー、自分で言った。高飛車発言!」
永がそう揶揄すると、皓矢は苦笑していた。
「今のは眞瀬木を褒めたんだよ?それにこの件があってからうちもオリジナリティのある術の開発を始めた。それを完成させたのが僕の父だ」
「マジかよ、超天才じゃん。どうりでお前の使う術って変な呪文だと思った」
皓矢が使う陰陽術はその祝詞からまず違う。永は今まで使われてきた一般的なものとは一線を画す皓矢の術を思い出していた。
「父の作り上げた術体系の使い手は、僕と師匠だけ。あ、星弥はまだタマゴだね」
「ではお兄様の力なら麓紫村を探せたのでは?どうして放っておいたんです?」
鈴心の素朴な疑問に皓矢は呑気に答えた。
「んー、それを言われると困るなあ。なにせ二百五十年前の出来事だったからねえ。僕もそんな古い記録を理由もなくわざわざ読んだりしないしねえ」
「なんだよ、ちゃんと代々言い伝えろよな。だから今になって問題になるんだ」
「それは申し訳ない。そんなに眞瀬木とうちの因縁は問題なのかい?」
「もう、ちょっと酷いよ。心して聞けよなあ」
そうして永は文句を言いながら
「……ちょっと、言葉が出ないな」
「でしょ?」
あらましを聞いた皓矢は開口したまま頭を抱えた。
「一体、どこをどうしたら、そんなひん曲がった信仰心が生まれるんだろう……」
「所詮お坊ちゃまには下々の考えなんてわかんないよねえ」
「永、言い過ぎだぞ」
「えー。だって眞瀬木と雨辺がこうなったのは、銀騎が介入したからでしょう?」
永が不服を言うと、それに鈴心も追随した。
「銀騎はきっかけに過ぎないかもしれませんが、責任はあると思います」
「ほらぁ」
すると皓矢は更に真顔になっていた。
「とにかくもう一度うちの文献を漁る必要があるな。少し時間が欲しい」
「おう、もっと詳細に調べてくれよな」
「俺たちはその間どうするんだ?」
「お兄様、私達にできることはありますか?」
鈴心が聞くと皓矢は考えながら答える。
「そうだね。その
「うん、それはもうちょっと探ってみる」
「あと、できればそのお薬とやらのサンプルは手に入るかい?それが分析できれば──」
「ああ。わかった。やってみる」
「ハル様、危険です!」
簡単に頷く永を鈴心が嗜めると、永は手を振って笑った。
「大丈夫だって、気をつけるから!
「無理はするな。何かある前に引き返すんだ、いいね?」
「う、うん」
しかし皓矢も鈴心同様神妙な顔で言うので、永は少し態度を改めた。
「蕾生くん」
「?」
「
「ああ」
麓紫村に来てから蕾生は外出時はずっと白藍牙を背負っている。背にあるそれに手をかけて頷いた。
「何かあったら、鈴心と永くんは君が守るんだ」
「もちろん。けど、これが役に立つのか?」
今の所白藍牙はただの木刀でしかない。蕾生は少し不安を覚えていた。だが、皓矢は自信を持って頷く。
「それは君の牙だ。使い方は君の心が知っている」
「……?」
そんな抽象的に言われても困る。ただ白藍牙を握ると少し勇気が出る気がする。蕾生はその自分の感覚を信じることにした。
「こうなっては
「ああー!そうだったー!どんどん最初の目的から遠ざかる!」
今まさにそれを思い出した永は頭を抱えて大袈裟に叫んだ。しかし鈴心は既に諦めたような顔で溜息をついた。
「それもいつもの事です」
「ではまた連絡するよ。くれぐれも気をつけて」
皓矢が締めようとした所で遠くから
「すずちゃーん!すずちゃー……」
だが、その姿を再び見せることもなく電話は切れた。
「はあ……」
鈴心は今日一番の大きな溜息をついていた。
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