第34話 兄と妹
『……わからん。孤児なんぞ、助けて……。目的はなんじゃ?』
「別に……。目的なんかないけどな」
『報酬もなしに、あんな自分とは無縁の子らを助けたのかえ!?』
「ああ」
『わからん! 益々、わからん! アリンロッテを助けたのは家族というやつじゃからな。まぁ、なんとなくわからいでもないわい。じゃが、孤児を助けた理由はさっぱりわからんぞ!?』
「俺だってわからんさ」
『は? 自分でもわからんことをするのかえ!?』
「ああ」
『ふぅむ……。報酬もなしに見ず知らずの孤児を助けるかねぇ……。ライト・バンシャンス。不思議な男じゃのぉ』
「嫌だったのか?」
『…………………別に、嫌ではないが』
「だったらいいじゃないか」
『ふぅむ……。納得がいかぬ。お主といると頭が混乱するわい』
「ははは。まぁ、細かいことはいいじゃないか。それよりさ。帰ってアリンロッテに会おうよ。きっと、旨いシチューを作って待ってくれてるぞ」
『あやつの作る料理は好きじゃな。シチューは極上の味じゃよ』
「だろぉ? アリンロッテは最高なんだってぇ。ふふふ。アリンロッテェ〜〜」
『妹大好きじゃの〜〜』
「当然だろぉ。兄妹なんだからさぁ。ふふふ。アリンロッテェ。お兄ちゃんは急いで帰るからなぁ」
『……………………………………』
「アリンロッテ♡ ふふふ」
むぎゅっ!
「痛っ……。な、なんだよ。急につねったりして?」
『……別に』
「は? わけわからんぞ」
『ふん……』
「なんだよ?? おまえのが変じゃん」
『ライトといると調子が狂うのじゃ!!』
「何怒ってんだよ?」
『怒っとらんわい!』
いや、明らかに怒ってるだろ。
そういえば、女の子には月一でそういう日があるっていうからな。
魔神にも生理があるのだろうか?
直接聞くのはデリカシーに欠ける……。排泄がないから生理はないのかな?
まぁいいか。アリンロッテのシチューを食べれば、こいつの機嫌も治るだろう。
さぁ、帰ろう。
可愛い妹が待つ、我が家に。
家に帰るとアリンロッテが笑顔で出迎えてくれた。やっぱり、妹は最高だ。
食事にはシチューが出て、案の定、デストラは上機嫌になった。魔神の機嫌さえも上げてしまうアリンロッテの食事。最強なのは我が妹なのかもしれないな。
さて、美味しい食事を堪能して、少し寝ることになったのだが……。
父さんと母さんのこと。
アリンロッテに話すべきだろうか?
翡翠の鷹に殺された事。彼女が真実を知ったらどう思うだろうか? 悲しませるだけのような気がする。真相を知っても両親は帰って来ない。知らない方が良いのかもしれないな。
それに、彼女には外側にいてもらいたいんだ。天光の牙との戦いは、俺だけで終わらせたい。あんな醜悪な連中とは、もう、妹は関係を持って欲しくないんだ。できるだけ遠くにいて欲しい。
トントン、とドアがノックがされる。
「お兄ちゃん、入っていい?」
「ああ、なんだ。どうした?」
「ううん。別に、大した理由じゃないけど」
彼女は俺の顔をジーーっと見つめる。
「な、なんだよ? 俺の顔になんかついてるか?」
「お兄ちゃん……。なにか隠してる?」
ギク……。
鋭いな。
流石は我が妹だ。
しかし、まいった。どう伝えていいものやら……。
ムギュ……。
突然、妹が俺を抱きしめた。俺の顔を大きな胸の中に突っ込む。
「お、おいおい。なんだよ?」
「なんだか辛そうなんだもん。見てられないよ」
「…………」
彼女には、復讐のことは伝えていない。
俺が王都で指名手配になっているのは、その冤罪を晴らして天光の牙の悪行を止める為、とだけ伝えている。彼女は、俺が奴らの右腕を斬り落としていることは知らないのだ。
でも、アリンロッテはそれだけで十分に理解してくれていて、その詳細を聞こうとはしなかった。住処をエンフィールに移し、大っぴらに外に出れないことも甘んじて受け入れてくれているのだ。
自分の兄が、元仲間の右腕を斬り落としていると知ったら、どんな反応をするだろうか?
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ」
「な、なんだよ、急に?」
「お兄ちゃんがどんな状況なのかはよくわからない。でも、どんなことがあったって、私はお兄ちゃんの味方だよ」
「…………」
抱きしめる力が強くなる。
アリンロッテは柔らかい。そして、石鹸のいい香りがするんだ。
「私は、美味しい料理を作ることしかできないけど、いつでも家で待ってるからね」
「ああ、ありがとう」
両親のことを話すのは全部終わってからにしよう。
彼女が両親の過去を知るのは、天光の牙の悪行を世間に知らしめてからだ。そして、俺が牙の連中にやったことも……。妹はどう思うだろうか? 兄がやっていることを知ったら軽蔑するだろうか?
「お兄ちゃん……。なんだか、また悲しい顔してるよ?」
「そ、そうか? そんなことないけどな」
「お兄ちゃん……。一緒に寝てあげよっか?」
「お、おいおい」
「だ、だって……。昔はよく一緒のベッドで寝たでしょ?」
「ははは……。そういえば、おまえは雷が怖いんだったな。嵐の日は、泣きながら俺のベッドに潜って来たっけ」
「んもう。今は、私がお兄ちゃんを慰めてるんだよ」
「ははは。そうだったな」
「私はいつもお兄ちゃんに助けてもらってばっかりだったから。今度は私がお兄ちゃんを助けなくちゃ」
「ふふふ。頼もしいな」
「えへへ♡」
『おい、アリンロッテよ。兄妹で結婚はできぬからな』
「何言ってんだ。俺とアリンロッテはそんなんじゃないよ」
「…………デストラさん。お兄ちゃんを守ってくださいね」
『そんなことはお主に言われなくともやっておるわい。なにせ、こやつとは魂レベルで融合しておるからの。ライトが
「じゃあ、デストラさんもお兄ちゃんだ♡」
ムギュッ……。
『うな! なんじゃこの娘は、調子が狂う奴じゃ!』
ははは。やっぱり妹が最強なのかもな。
アリンロッテ。あんがとな。
おまえには癒されるよ。
☆
王都ロントメルダ、王の間にて。
その美しい少女は姫だった。
少し釣り上がった瞳は勝気な印象を受ける。
彼女は頬を赤らめた。
「わ、
体の成長は著しく、胸が大きくて、子供を産むには十分な体つき。
しかし、その顔はあどけなさの残る、純粋な少女だった。
新任された左大臣は、1人の剣士を紹介する。
「ヒダリオ・アッシュ。彼の手腕ならば、王都の未来は明るいのです!」
剣士は天然パーマの銀髪だった。
年は20代半ばといったところか。
その容姿は美しく、いわば美男子。
その鋭い瞳は、何事にも動じない強さが感じられた。
服装はすべて銀色で、白銀の装飾品を身につけている。鎧には天使のデザインが施されて、中々に神々しい。それらは全て高価な物なのだろう。物怖じしないただずまいとは裏腹に、妙に派手な出立である。全身が真っ黒なライトとは真反対の服装なのかもしれない。
左大臣は続ける。
「彼のことは、騎士団長のゴルドンから教えていただきました。紹介どおり、本当に有能な男ですよ──」
左大臣は自慢げに語った。
優秀な婚約者を紹介することが、左大臣としての実績なのである。
なので、鼻を高くして胸を張り、本当に誇らしく剣士を紹介する。
「──剣の腕はさることながら、数々の魔法を使いこなし、軍事戦略にも長けている。伯爵のご子息ですが、王族になるには申し分ない実績でしょうな。なにせ、彼は王都を救った英雄。天光の牙のメンバーだったのですから」
ヒダリオは冷ややかな笑みを見せた。
「僕は完璧です。僕に王都を任せていただければ、絶対に、みんなを幸せにすることができます。僕の計算に狂いはありません。全て、僕に任せてくれればいいのです」
第1章、完。
────
とりあえずキリの良い10万字に到達しました。
書籍でいえば単行本1冊分の文字量です。
今作はおかげ様で大人気!
みなさんが⭐︎の評価を入れてくれたので、無事に2章に突入することができました。
さぁ、まだまだ残っている悪党はいますよね。
2章でも、痛快な復讐劇は健在ですよ!
ライトとデストラの活躍にご期待ください。
いつも、ハートと星の応援、コメント、誤字報告をありがとうございます。
忙しくて全部に返信できませんが、楽しく読ませていただいております。
お礼は執筆でお返しするしかありませんよね。
最後に、ここまでで、面白い、続きが読みたい、等々思っていただけましたら、↓の☆の評価をお願いいたします。
みなさんが応援してくれましたら、より長く作品を書き続けることができます。
なにより、星の評価は本当に嬉しい! どうか、ご協力をお願いいたします。
では、次回からは2章です!
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