第9話 商人グシェムン③【復讐1人目】
グシェムンは絶叫していた。
「ま、ま、ま、待て待て! 早まるなぁああああああああああああ!!」
斬られたら斬り返す。
「俺は
「どんな理屈だぁああああ! 待て待て待てぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
俺は腰につけている剣を左手で抜いた。
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
『ククク。バカな奴じゃのぉ。あの時、ライトを助けておったら、こんなことにはならなかったのにのぉ。恨みを買えばやり返されるのは当然じゃろうに。ククク。因果応報は自然の摂理じゃよ。後悔先に立たずじゃな。ククク』
「待て! ライト! 違うんだ!!
『ブハッ! こやつ嘘をついておるぞ。脅されておる人間がニヤニヤと笑うものか! この嘘つきド外道が!』
完全に同意だな。
こいつは外道中の外道だ。まさに、ド外道の名が相応しい。
あ、そうそう。
最後の質問があったんだ。
「
「そ、それならばボルボボン卿に聞いてくれ! 魔神の武器は王城が管理しているんだ」
なるほど。
アリンロッテと
次のターゲットが決まったな。
「ライト! 聞いてくれ!!
ああ、信じているさ。
あの時、ニヤニヤと笑っていた嫌な笑みが、おまえの本性だろうよ。
自分本位。他者の命を道具のように扱う。ド外道がおまえの本性さ。
今だって、平気で仲間を売っている。自分が助かるためなら、仲間のことなんてどうでもいいんだ。これがこいつの本性さ。
過去の自分が嫌になるな。
こんな奴でも、仲間として慕っていたんだから。
「助けてくれぇええええええ! ライトぉおおおおおお!!
このド外道が。
俺は剣を振り下ろし、グシェムンの右腕を切断した。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
さて、俺の復讐は終わったな。
「わ、
「命だけは助けてやる。
「た、助けてくれぇええええ……。出血多量で死んでしまう! か、回復魔法、使えるんだろ? 魔神の右手で治せるんだよなぁああああ!?」
あの時……。俺が腕を斬られてダンジョンに置き去りにされた時。
「回復魔法も……。粗悪品のポーションすらもらえなかったさ。この意味がわかるか?」
「そんなぁあああああああああああああ……」
「じゃあな。あとはがんばれ」
同じ状況にしてやるさ。
これが俺の復讐。
俺は窓から外に飛び出した。
上空で待機しようか。
『遠くの物を見る時はの。この魔法が使えるのじゃ。
これは遠方目視魔法。
デストラの片目はギョロリと飛び出して、フワフワと飛んでグシェムンの屋敷内へと侵入した。
俺の脳内には、目玉で見た映像が浮かび上がる。
『声も鮮明に聞こえるからの。便利な魔法じゃろ』
さて。あとは、この目を使ってグシェムンの行動を追ってみよう。
俺の復讐は終わったんだからな。
「ひぃいいい! 血がぁああ……。血が止まらないぃいいいいい……」
グシェムンは号泣していた。
それでもなんとか立ち上がる。
どうやら
「おい。起きろ! 起きるんだよぉおおおおおお!!
僧侶らしき部下に声をかけている。
まぁ、無駄だな。
屋敷の連中には
強力な魔力でかけてやったからな。半日は起きないだろうよ。
だから、奴の部下がグシェムンを回復することはない。
そして、奴自信は商人だからな。回復魔法は使えない。
つまり、この屋敷で回復魔法によって止血することは不可能ってことだ。
そうなると……。
俺の脳内には息を切らして地下の階段を降りるグシェムンの姿があった。
『ふぅむ……。どうやらあ奴……。目的地があるようじゃの。動きに迷いがない』
「地下にある備蓄倉庫に向かっているのだろう」
『ほぉ。備蓄倉庫とな?』
「なにかに備えて、食料や生活品を保管しておく場所さ。もちろん、回復アイテムのポーションもそこにあるだろう」
奴がポーションを使えば助かるかもしれない。
しかし、俺の復讐はおわっているからな。
あくまでも、やられたことを返すだけだ。
俺は、奴の右腕を斬り落とした。
あとは、奴が自分の運命を切り開くだけ。
俺が魔神デストラの魂在融合を受け入れ、運命を切り開いたようにな。
グシェムンは扉の前に立っていた。
おそらく、ここが備蓄倉庫なのだろう。
「はぁ……はぁ……。か、鍵だ……」
右利きなのかもしれないな。
慣れない左手を使って、懐から鍵束を出す。
あれから10分以上は経っているだろうか。
右手からはずいぶんと大量の血が流れ出ている。
立っているのがやっとなはずだ。奴の命は保ってあと数分ってところだろう。
「あ、あった……。か、鍵だ」
ああ、鍵を見つけたか。
奴は運命に勝ったのかもな。
ポーションを見つけて治療が上手くいけば命は助かるかもしれない。
鍵を開け、ドアノブを触ったその時である。
ガチャガチャ。
「あ、開かないぞ!? なぜだ!? 鍵は開けたはずなのに!?」
ん?
気がつけば、俺の右手が震えていた。
それはまるで肩を踊らせる時のように。
『ククク。さぁて、見ものじゃな』
グシェムンは何度もドアノブを回す。
「開かない! 開かないぞぉおおおおおおお!! ド、ドアノブが冷たい……。凍っているのか?」
ほぉ。
偶然にドアノブが凍ることはないよな。
さてはデストラ。
「おまえ……。備蓄倉庫のことを知っていたのか?」
『プハッ!
「どうやって氷魔法を付与したんだ?」
『固有スキルの魔獣召喚じゃよ。氷の妖精を召喚しての。ポーションのある場所の扉は全て凍らせるようにしておいたんじゃ』
なるほどな。
『プククク。復讐は一度だけ。直接的に命を奪ってはいけない。が条件じゃったよな?』
「ああ、そうだ。あんな奴にも生きるチャンスは必要だからな」
『ライトは腕を斬り落とした。
「ふっ。なかなかやるな」
『備蓄倉庫という希望にすがりつき、その希望が絶たれたのじゃ。奴は今、絶望のどん底じゃろうて。ククク。痛快じゃな。今夜は美味い酒が飲めそうじゃわい』
グシェムンは崩れ落ちた。
「湯だ……。熱い湯をかければ氷は溶ける……」
しかし、もう動けないのである。
全身はわずかに震え、床に腰を下ろして立てないでいた。
出血多量の影響だろう。
あとはゆっくりと死を待つだけ──。
の、はずだったんだがな。
「だ、旦那様っす……」
それは顎にホクロのあるメイド。
寝ぼけ眼で、起きたてって感じだが、確実に目が覚めている。
田舎の出身なのだろうか? 語尾に「す」が付いている独特の喋り方だ。
まいったな。
このメイド。
とにかく、グシェムンにとっては渡りに船だ。
「ハ、ハツミ……。良かった……。起きていたのか……」
「………………」
ハツミと呼ばれたメイドは、グシェムンの状況を目で追った。
右腕が無くなり、真っ赤な血がそこいら中に付着している。
まぁ、普通の侍女ならば、血相を変えて助けに行くことだろう。
それを阻止するのは簡単だがな。俺は腕は斬り、デストラはドアノブを凍らせた。
俺たちの復讐はすでに終わっているんだ。もう、これ以上、手を出すことはない。
俺がこうして生きているように、グシェムンにも運命があるのではないだろうか。
あのハツミという女が現れたのは、奴にとっての好機だ。これがグシェムンの運命……。
「ハ、ハツミ。こ、この倉庫に入っているポーションが欲しい。しかし、ドアノブが凍っていて開かないのだ。だから、湯が欲しい。熱い湯をここに持って来てくれ! ド、ドアノブを湯で溶かすのだ」
「は、はい……旦那様……。お湯ですねっす……すぐに沸かすっす」
ハツミはフラフラと階段を上った。
向かう先は台所だろうか?
1階に着いたハツミは、全ての従者が眠っているのを確認した。
そして、ゆっくりと倒れ込む。
どいうことだ?
と、思うのも束の間。
彼女は小さな声で呟いた。
「ざまぁみろっす……ふふふ」
そう言って眠ってしまった。
はい?
えーーと……?
ご主人がピンチなんだがな。
この女、睡魔に負けたぞ?
普通なら、血相を変えて湯を沸かすはずだ。
それなのに寝る……だと?
『アハハハハ! 最高じゃな!! ライト、最後の言葉を聞いたかえ!?』
「ざまぁみろ……と言ってたよな」
『あのハツミとかいう女。これは夢だと思っているのかもしれぬぞ』
「まぁ……。みんな寝ていて、主人が血だらけなんだからな」
『それなのに……クハハハ! ざまぁみろだと? アハハハハ! これが笑わずにはいられるか!!」
ふっ……。
たしかにな。彼女の言うとおりかもしれない。
流石にあの言葉はないな。
血だらけの主人を見て『ざまぁみろ』は絶対にない。それに『ふふふ』と笑みが溢れていたからな。
『プククク。あの女とグシェムンには、さぞや素晴らしい信頼関係が築けておるのだろうな。プハハハ!』
「ああそうかもな。グシェムンのことだ。部下に愛されているご主人様なんだろう」
あの2人になにがあったのかは知らない。
しかし、日頃の行いが帰って来たのは言うまでもないだろう。
グシェムンが、メイドにとってどう思われているのか。あの言葉を聞けば自明である。
「湯を……………………………」
それがグシェムンの最期の言葉となった。
切断された右腕からは真っ赤な血が流れ、全身は蒼白。そのまま息を引き取った。
明日になれば王都の調査団が入るだろう。
ハツミがどんな証言をするのかは見ものだがな。もう追うことはやめよう。
まぁ、夢と思えばそれまでだ。黙秘を貫くのが定石か。
屋敷内の従者は誰一人として負傷していない。死んだのはグシェムンだけ。
この不可解な事件が、どんな風に広まるかは見ものだな。
さて、天光の牙は12人。
残り11人だ。
待っていろ。必ずその右腕を切り落としてやるからな。
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