第18話 古代図書館⑧ 崩壊

「物質変化か…まさか原始の魔法を使うとは…驚くべきことだ。」

 タルオの剣で両断されたはずの上半身が浮いたままエレガルが喋っている。

 いや、コッチの方が驚いてますが…


「あのぉ〜、何で死なないの?というか痛くありません?大丈夫??」

 思わず訪ねてしまうタルオであった。


「この身体も貴様のせいで使い物にならんな。折角の入れ物だが仕方があるまい。」

 タルオの心配は無視された格好になるが仕方あるまい。こういうキャラの方は何故が独り語りが好きなのだろうか?もしかすると自己顕示欲が強いのかしら?そんな風にタルオは思った。


「入れ物?その身体が?どういう事だ!?」


「我の魂はこの身体には入っていないのだ。我を殺したと思ったか?残念だったな。身体は貴様のせいで使い物にならなくなってしまったがな。」

 エレガル…の半身は得意げに話をつなぎ笑い出した。何か…ホラーだ。でもここは気持ちよく話していただいて情報を聞き出さないと。


「魂が入っていない?どういうことだ!?」

 前世では、上司が自慢話をする時に合いの手を入れるのは得意だった。自分が話すよりは相手に話をさせ適当に相槌を打つ方が楽だ。「はい、どうぞ!」とマイクを渡すような気持ちでタルオは一呼吸待った。


「フフ、貴様には理解できまい。だが、我の存在はこの世界にはない?この次元にはな。知りたいか?世界の王たる『エレガル・シャドウハート』がどこに存在しているのかを?」


 多分、言いたいんだろうなぁ〜とはタルオは思ったが、ここはお約束だし乗っておくか…


「エレガル!?貴様は、あの魔道士エレガルなのか!?」

 その声はエルであった。フラフラと身体を起こし立ちあがろうとしている。


「知ってるの?あいつのこと?」

 タルオは、今だに足元が覚束ないエルを支えるように肩に手をまわしたが、心臓が激しく乱れる。エルに聞こえるのではないかと心配になった。


「お前こそ、知らんのか!?あいつのことを…あぁそうか記憶を無くしているんだったな…」

 そうなんです…ですのでご説明を宜しくお願いします。タルオは心の中で手を合わせた。

「あいつは…」


 エルが口を開いたタイミングで…床が、壁が軋み始めた。最初はゆっくりと小刻みな振動が、徐々に大きく激しくなっていく。あちこちの壁や天井に亀裂が入り、土塊が頭上へ降りかかってくる。


「ククク、頃合いか…一旦退くとしよう。ギルモ!」

「ヘ、ヘイ!」

 手下感満載の口調でダークエルフのギルモは、エレガルの意に応えた。彼の半身を右手で抱えると、もう片方の手を下に向けた。その方向に闇に覆われた空間の渦が現れた。エレガルが現れた時にも使った空間転移系の魔法なのか?

 あいつ、魔法が使えないとか言ってやがったくせに…それもブラフか!?



「逃げる気か!?」

 タルオは剣を構え直した。もう少し話を聞き出したかったが、エルが何か知っていそうだし後で聞こう。そもそも、あいつはエルを傷つけようとしたのだ、それだけでも許せない!

 だが、ギルモの動きは彼の想像を超え素早かった。タルオが剣を振り下ろす前に闇の中へと身を投じていた。

「ふはははぁ〜、また逢おう!もちろん生きていればだが…お、ぉい、まだ話の…途中だろぉ〜がぁ〜〜〜〜〜〜。」

 上司が話の締めを始めたタイミングで、空気を読まずにお開きにしてしまった部下のパターンだな…後から散々怒られるよな、絶対に。お気の毒。辛いよね下っ端は。


 しかし、目の前で繰り広げられた寸劇よりも、現状は緊迫していた。

 揺れはさらに激しくなり、立っているのも困難だ。


「くそっ、あいつら何かしたのか?」

「タルオ、このままではマズイ!ここから早く避難せねば!」


 だが、見れば出口は瓦礫で塞がっている。

「エル、魔法で突破口を作れないか?出口が塞がってる!」

「私の魔法力では無理だ!」

 このままでは生き埋めになってしまう。

 そう思ったとき、右手に持った大剣に気づいた。

「そうか、この剣なら可能かも!」

「タルオ!何だその剣は!そんな立派な剣は見たこともない。いつの間にそんなものを!?」エルが少し悔い気味にタルオの持つ剣に興味を示した。彼女も剣士なので気になるのだろう。だが、なぜ自分がこんな大剣を持っているのか、持てたのか、をタルオ自身が説明できないのだ。剣の刀身からは白い煙が上がった。もしかして照れてる?!


「い、いや、何故かは俺も分からないんだ…」彼は正直に説明した。

「そ、そうか、タルオは記憶喪失だったな…すまない。」

 そうなの?そんな感じで納得してくれるの?記憶喪失って設定ってやっぱり最高だよね。っていうかエルって、もしかして天然なのかしら?


 剣の力は凄まじかった。タルオの一振りで出口を塞ぐ瓦礫は吹き飛ばされた。剣の斬撃が目に見えぬ衝撃派となったようだ。

 先ほどエレガルに向けて放ったのは一点を貫く鋭い斬撃であり、今回は広範囲に及ぶ衝撃…まるでタルオの意思によって攻撃が変化するようである。


「な…んて威力なんだ。こんな力をもっていたのか…タルオは!?」

 エルは目を白黒させて固まっている。


「いや、俺の力っていうよりは、この剣の力だと思うよ…多分。」

 タルオは頭を掻いた。

 タルオ自身、自分の力が常人を軽く凌駕していることは理解していたし、エルにだけはそれなり伝えていたが、ここまでの力を有していることに驚きよりは戸惑いが優っているのだろう。

 たが、その戸惑いよりも、目の前の危機的状況に二人の意識は向いていた。

 部屋からの脱出口は作ったが、彼らの居る階層はほとんどが崩れ去り、上層へ続く道はもはや存在していなかったからだ。


「本!出口はないか?ここから脱出する手段はないの?」

 相変わらず部屋で呑気に羽ばたいている本を見やった。


『この階の出入り口は一箇所のみ。他にはありません。階層の結界が損傷しているので、空間転移系の魔法が使用可能です。』

 エルを見る。だが彼女は静かに顔を左右に振った。

「一体何が起こった?地震か?それとも攻撃を受けているのか?」

『…火山が活動を始めました。一万年ぶりのことです。現在、古代図書館に緊急対応措置命令が発動しています。まもなく所蔵書籍の全てに退避命令が下されます。私もまもなくこの場から退避します。』


 ちょっと待て、俺たちはどうなる?

「図書館にいる人間はどうなるんだよ!一緒に退避させてくれないのかよ!」


『本が全てに優先されます。本の退避が終わり次第、救助が可能かと。』

 あんまりな話だが、取り憑く島もない。

 揺れはさらに激しくなり、更に下から突き上げるような大きな衝撃を受け床が崩れだす。

 何か策は無いかとタルオとエルは周囲を見やるが、どうしようもない。何の方法も思いつかなかった。

 不意に赤色の何かが視界に留まった。あれは…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る