第四話「ようこそロリっ子パラダイスへ 〜ロリコンの皆さんこんにちは〜」

 なんだかとても長い一日に感じた。

 嫌いなバイトの時間が短く感じたくらいだ。


 バイトから帰った時点でもう日は暮れている。お子様にとってはもういい時間。

 俺が小学生くらいの歳だった頃は二十一時には寝かされていたもんだ。

 今の時代、小学生でも零時くらいまで起きているらしいが、寝る子は育つとも言う。

 もう寝かしたほうがいいだろう。


 と言うことで、風呂に入って、コンビニ弁当を食べさせて、歯を磨かせた。

 因みに風呂は一緒に入った。


 いや、聞いて欲しい。

 みんなが羨ましがるのはわかるが、言い訳を聞いて欲しい。

 異世界幼女はお風呂の入り方を知らなかったんだ。しょうがなかったんだよ諸君。


 ああ、心配いらない。

 もちろんノータッチさ。

 YES! ロリータNO! タッチ。

 イリーガルユースオブハンズ。

 やましい事一切なし。


「よし、今日はもう寝ろ」


 テーブルを片付け、クッションやら冬用の掛け布団で作った即席の寝床を指差す。

 最初は俺のベットを使わせようとしたのだけど、頑なに床で寝ると煩かったからだ。

 今度布団も買わないとだな。出費が嵩む。


「はい……」


 エルフ少女は霞んだ声で返事をすると、顔を赤くし、体をもじもじさせながら服を脱ぎ始めた。


「おい」

「?」

「なんで脱ぐんだよ。それが当分パジャマっつたろ」

「あの、でも、初夜……ですよね?」


 は? 初夜?

 なにを言うとるんじゃこの幼女。


「あのなぁ……」

「し、失礼しました。着衣のままですね!」


 そう言うと、脱ぎかけていた服を戻して、パンツだけを脱ぎ始める。


「おい」

「っみ°」


 すかさずデコピンをお見舞いすると、なんか変な声が出た。


「お前な、最初から変なこと言ってだけど、子供がそんなことするなよな。

 元の世界じゃどうかは知らんが、こっちの世界は子供とそういうのは禁止なんだよ。

 それに、俺はロリコンじゃない。子供にそんな感情はないの。わかったか?」

「でも……」


 すると、ベット下の収納ボックスからあるものを取り出して、俺に見せるように持ってくる。


「ようこそロリっ子パラダイスへ 〜ロリコンの皆さんこんにちは〜」

「………」


 あーん(ハート)。と今にもセクシーな効果音がなりそうなパッケージを手に、真剣な眼差しで俺のことを見つめてくる幼女。


 俺は冷静を保つ。

 ふぅー。

 落ち着け。

 例え幼女が俺の所持するロリ系AVを手に取り、タイトルを読み上げたとしても、冷静を保たなければならない。

 動揺すれば俺がやましいと認めたようなもの。

 大丈夫。これは誤解なんだ。それを解くためには今は冷静に……。


「こんにちは」

「こっち見てこんにちは言うな」

「ま°」


 俺はAVを取り上げ、それで幼女をチョップする。

 なんだこいつ。叩くと変な声出すぞ。


「いいか。まず、俺はロリコンじゃあない」

「でも……」


 なんだ?

 説得力ないってか?

 取り上げたロリAV片手に否定しても説得力ないってか?


「これはな……資料なんだよ」

「資料……ですか?」

「そうだ」


 俺は淡白な表情に努めながら、説明する。


「俺は小説を書いている。ライトノベルだ。わかるか? ライトノベル」

「わかります」


 わかるのかよ、すげぇな異世界。


「わかるなら話は早い。いいか。これはライトノベルを書く上で必要な資料なんだよ」


 トントンと、AVを叩く。

 それを見て幼女はキョトンとした顔で傾げる。

 なんで? と言いたげな顔だ。


「いいか。ライトノベルは流行りに合わせてある程度のテンプレートが重要なんだ。

 異世界転生、VR MMO、俺TUEEE系、成り上がり系、追放系、etc。そしてそのどのジャンルにもロリキャラが登場する。

 メインヒロインなり、サブヒロインなり、必ずと言って登場する。

 それは何故か。単にロリキャラが人気だからだ。ここまではわかるか?」

「わかりました」


 そうか。わかったか。

 ロリが、ロリの需要を理解したか。

 わかりたくなかっただろうに。

 あーあ、お前らのせいだぞ。


「そこでだ。ロリコンでない俺が、どうすれば皆が望むようなロリキャラが書けるのか俺は考えた。

 考えた結果、まず俺自身がロリを好きにならないといけないと思い至った。ロリのなにが良いのか理解しないと、ロリコンのハートを掴むことができないからだ」

「なるほど……!」

「そうだ。だから俺はロリコンじゃあない。頑張ってロリコンになろうとしている最中だ」


 よし。胸を張ってロリコンじゃないことを証明することができた。

 因みにこれは言い訳じゃない。ホントだよ?


「わかってもらったか」

「わかりました」

「よし。じゃあパンツ履け。そして寝ろ」


 なんかどっと疲れた。

 なんで、昨日の今日に会った女の子とこんな会話をしなきゃいけないんだよ。こいつ、いちいちツッコミどころが多いんだよな。


 俺ももうバイトで疲れてさっさと寝てしまいたい気持ちを抑えて、パソコンの前に座る。


「シノさまはお休みになられないのですか?」

「ああ、さっき小説書いてるって言ったが、まだプロじゃないからな。昼はバイトして夜に書いてんだよ」

「そうでしたか。では何かお手伝いできることはありませんか?」

「あ? ないない。俺ももうこれと歯磨いて寝るだけだからお前はもう寝とけ」

「いえ、私はシノ様がお休みになられるまで……」

「寝ろ」

「……はい」



÷−÷−



 翌朝、というか昼近くまでぐっすり眠った俺は、むくりと起きると、直立姿勢で立っている幼女と目があった。


「おはようございます。シノさま」

「ああ。おはよ。ふぁ……」


 夢じゃなかったかと思いつつ、目を擦って眠気を払う。


「あーそういや、お前の名前なんとかしないとな」


 昨日はずっとおい、とか、お前とかで誤魔化していたけど、なんともやりづらい。


「私のですか?」

「そうだ。名前がないと不便だろ。確か俺がつけるんだよな。ならそうだな――」

「あの、そのことなのですけど……」


 なにやら言いたげの様子だ。

 なにか希望でもあるのだろうか。

 自分の名前だ。希望があるのならそれで決定でいいだろう。


「言いそびれていたのですが、名前をいただく事で購入完了になります」

「なんの話だ?」

「今、仮購入の状態でチェンジができますけど、名前をいただいた時点で購入完了になります」


 なんだ?

 つまりは名前をつけるともう返品できなくなるってことか?

 っぶな!

 今俺普通に名前つけようとしたぞ!

 そういう大事なことは最初に言おうぜ。


「……そういうことなら名前は保留だ」

「はい」


 そんな残念そうに俯くなよ。

 なんか俺がいじめてるみたいじゃねーか。

 約束だろ、一ヶ月は様子見だって。


「よし。腹減ったろ。食料でも買いに行くか」


 俺は話題を逸らしつつ、幼女の頭にポンと手を乗せる。


「私も、ですか?」

「当たり前だ。昨日も言ったろ。そのために服と靴を買ったんだぞ。ゆくゆくは一人で買い物できるようになってもらうからな。今日はその練習だ」

「はい!」


 なんかずいぶん嬉しそうだな。まるで散歩に行く前の犬みたいだ。

 さて、身なりだが、目的のスーパーはアパートからすぐそこだ。多少ぶかぶかな服を着てても大丈夫だろう。

 問題はエルフ耳か。

 深い帽子でも買わないとなと思ったけど、現状そんな目立つほど尖っていない。

 髪であんま見えないし大丈夫か。



÷−÷−



「わぁ……」


 外に出るなり、息を呑んで空を見上げていた。

 虹でもかかっていたのかと、空を見るも、そこにはただの青い空があった。


「UFOでも見えたか?」

「空って、本当に青いんですね……」

「あー?」


 なにを言っとるんだ。

 空は青いし、血は赤いに決まってるだろ。

 当たり前だ。


「初めて見ました。きれい……」


 マジかよ。空を初めて見たって。

 そういや昨日、牢屋から来たって言ってたな。牢屋以外知らないって。

 でもそうか……初めて空を見るか。


「……知ってるか? 空は夕方になればオレンジにも夜には黒にもなるんだぜ」

「はい。知識では、知っています」

「そうか。じゃあ見とかないとな。人生で一度は空を見た方がいい」

「はい!」




÷−÷−



 近場のスーパーで、久方ぶりに開けた郵便ポストから出したチラシの山から最新のものを見つけ、そこに書かれた特売品を中心に買ってきた。


「いいか。食費は……そうだな月三万だ。できればもっと抑えたい」

「はい!」


 生活の基本を漢字で表せば、衣食住だ。


 住居は家賃さえ払えればなんとかなるから、部屋の広ささえ我慢すれば今までと変わりない。

 衣服はまだ課題に残るけど、一旦は一張羅で誤魔化すとして、

 問題は食事だ。

 食事代は単純に人が増えれば倍になる。


 今まで、カップ麺やコンビニ弁当で誤魔化してきたが、この出費が二倍になれば、フリーターの収入では難しい。

 となれば自炊で節約だ。


「食費三万に抑えられなかった時点でチェンジだ」

「わかりました」


 今度は神妙に頷く。

 因みに、こいつはお金の事や、四則演算くらいならできる事は確認済みだ。

 

 こうして、俺と不思議の国からやってきた少女の節約生活が始まったのだった。


 そして、問題が起こったのは、金髪少女が来てから一ヶ月が経とうとしていた時だった。

 

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