第9話 昔と今の関係性――
家が近かった事もあり、幼稚園児の頃からの付き合いだった。
両親同士もある程度親しい仲で、たまにちょっとした遠出の旅行に行った事もあったのだ。
小学校に上がった時も、中学に上がった時も、クラスが同じだった。
けれども、高校生になってからはクラスが別々になり、友人関係も大きく変わってしまっていた。
高校二年生になって、ようやく付き合う事になったのだが、昔と比べ、幼馴染の雰囲気は変わっていると思う。
幼馴染と付き合うことになったのだが、和弦の中で、ある不安を抱えていたのだ。
幼馴染は高校生になってから垢抜け、容姿も以前と大分変った。
和弦は、高校生になってより一層陰キャになり、今後の事を考えると、色々な意味で、やはり幼馴染に対して不安が募るのだった。
幼馴染の
そのためもあって、紬は小学生の頃、たまに小説を書いていたりしたのだ。
今は書いているかはわからないが、そんな趣味があった。
和弦に関しては、紬が書いた小説を見て、イメージ的なイラストを描いていたりした。
それなりにイラストは上達したのだが、中学の頃、自分の絵を他人からバカにされてから、それがトラウマとなり、全然書かなくなった。
今では漫画を読むだけで、自分から積極的にイラストを描く事はしなくなっていた。
今さら書こうとは思えない。
むしろ、あれ以上、上達する事はなかっただろう。
思えば、辞めておいて正解だったのかもしれない。
振り返ってみれば、色々なことがあったが、やはり、何も変わっていないのは自分だけだと思った。
そんな事を考えている今、和弦は学校指定の体操着に着替え、体育館にいたのだ。
周りには、和弦と同様に体操着を身につけている人が大勢いる。
今日は二学年全体の合同の体育の授業の日らしい。
そこまで友人関係が広くない和弦からしたら、今の時間が物凄い地獄そのものだったのだ。
周りの人らは楽しく会話しているのに、和弦だけ体育館の壁に背をつけて周りの様子を伺うだけになっていた。
大きなため息をはく。
「そろそろ時間だし。では、今から合同練習するから」
体育館の壇上前に颯爽と現れた、ジャージ姿の、四十代くらいの男性教師。
「なんで、今日は合同練習なんすか?」
「それはだな。今週中から来週にかけて先生がな、テストを作らないといけないからだ。いっその事、まとめて授業した方が効率いいし、テストの範囲も伝えやすいだろ」
先生は全体を見渡しながら発言していた。
「そうか、二週間後にテストか」
「全然やってないし。めんどいな」
「夏休み前にテストとか、嫌なんだけど……」
周りからは不満な声が多発する。
「皆がそういうと思ってな。今回のテスト内容は簡単にするつもりだ」
「そうなんすか!」
一部の界隈で、やったー、という声が大きく聞こえる。
「そうだ! 私のテストでは、筆記試験と今日やる実技試験の合計で点数を決める事にするから。他のテストよりかは大分マシになると思うからな。そこは安心してくれ」
「でも、実技。私、運動が苦手なんだよね……」
その女子は俯きがちに言う。
和弦も実技は得意な方ではない。
どんな実技になるのか不安に思っていると、先生が話を切り出す。
「実技っていっても、今からペアを組んで、共同で運動するだけでいい」
「それだけで、いいのですか?」
先ほど苦手意識を持っていた女子が顔を上げた。
「そうだ。ストレッチだけでもいいし、筋トレでもいい。またはバスケや、テニスでもいい。今回は、皆がどれくらい運動に関心を持っているかのテストだからな。頑張り具合によって評価は変わるから、そのつもりでな」
先生は周りを見渡しながら説明するのだ。
「それなら、私でもできそう!」
「じゃあ、俺らは外でサッカーでもしないか」
「そうだな。楽しそうだしな!」
学校の敷地内にあるグランドや、テニスコートなどを一気に解放させるために、今回だけは合同練習にしたようだ。
そのような経緯があると、追加で先生が説明していたのである。
周りから、誰と組むか、そんな話し声が聞こえる。
一部の男子らが一か所に集まっているのが分かった。
「俺と組まないか?」
「いや、絶対に俺の方がいいって」
「抜け駆けするなって。絶対に、俺の方がいいって」
そんな中、幼馴染の紬は周りの男子らから誘われていたのだ。
今日は合同練習という事も相まって、別クラスの男子からも話しかけられていた。
「ごめんね、ペアが決まっているの」
紬はそう言って、周りの男子らの誘いを断っていた。
元から組む人がいたのかと、和弦もショックを受けていたのだが、紬はまっすぐと和弦がいる壁の方へ近づいてきたのである。
「え?」
なぜと来たのかと、和弦は目を丸くする。
「一緒に組もうよ」
彼女から直接告げられた。
「お、俺でいいのか? 他の人からも誘われてた気がするけど。同性の友達もいるはずなのに」
「いいから。私、最初から組む予定でいたからさ」
紬から手を差し伸べられ、笑顔を向けられる。
周りからは、なんであんな奴と組んでるんだよ、という批判的な意見が多かったが、幼馴染の考えは変わらなかった。
ここで拒否したら幼馴染が悲しむと思い、和弦は彼女の好意を受け入れておく事にしたのだ。
「皆、決まったようだし。では、今から開始な。授業が終わる五分前には戻ってくるように。後、わかっていると思うが、今日は次の時間も体育の時間だから、休憩の時間は休んでもいいから。今日は特段に暑いから水分補給も忘れずにな。以上、では、先生も見回りに行くから、適当になるなよ。その場合は減点だからな!」
先生から最後の助言があり、体育館にいた人らの大半は各々の場所へと向かって行く。
学校の校庭やテニスコート以外にも、卓球が出来る場所。水泳が出来る場所など、色々とある。
和弦は体育館に残る事にし、幼馴染と何をするか決める事になったのだ。
「何にする? 私はなんでもいいよ」
紬から明るい口調で問われていた。
「俺もなんでもいいけど……」
和弦が考え込んでいる際、最初に視界に入ってきたのは、彼女の体操着だった。
白色のTシャツと、青色のショートパンツいう事もあって、彼女の体のラインが強調されていたのだ。
よくよく考えてみれば、学校指定の体操着は際どいデザインであり、変に彼女の事を意識してしまいそうになっていた。
「どうかした?」
「な、なんでもないし」
「なに、どういうこと? もしかして、この服が好きだとか?」
「は? な、ないから。それは」
「でもさ、この前の漫画にも、そういうシチュエーションがあったでしょ?」
「な、なんでそれを? で、でも、そのシーンは全然見せた事が無かった気がするけど?」
「私、あの後ね。漫画のタイトルをスマホで検索して、漫画サイトで見たからね」
「は……は? な、何してんの?」
「だって、気になるし」
「でも、あ、アレは」
なんで、見てしまうんだよ。
「和弦って、ああいうシチュエーションとか、好きなんだね」
「だから、それはここでは言わないでくれ」
体育館には殆ど人がいないものの、他人には聞かれたくない内容ばかりで赤面してしまう。
「そ、それより、今話す内容は何をやるかだよな!」
「なんか、話逸らす感じ?」
「別にいいだろ」
和弦は彼女から問い詰められ、なおさら恥ずかしくなってくる。
「じゃあ、ストレッチとかにする? 二人でやれるのあるでしょ?」
紬は和弦を誘惑するかのように、体を近づけてきたのだ。
彼女の暑さで火照っていた体が当たり、和弦はさらに変なテンションになる。
昔とは違う幼馴染に圧倒されながらも、流されるがまま一緒に体育をすることになった。
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