第8話 後輩と友達になった理由
今日の昼休み時間。話の流れで、後輩の六花と、とある約束を交わしていた。
そんな
下駄箱のあるところで、幼馴染の紬とバッタリと出会った。
いつもの幼馴染の姿を見ただけなのに、変な緊張感に襲われる。
「今から帰り?」
「そ、そうなんだ。そうそう」
これから後輩の六花と遊びに行く予定だとは言い出せない環境だ。
「きょ、今日は? どうする?」
和弦は幼馴染から深堀される前に、自分の方から話題を振る。
「ごめんね、今日はちょっと用事があって」
「え、そ、そうなんだ。どんな用事?」
踏み入った話をする。
「友達と遊ぶことになって」
「そうか、じゃあ、まあいいや」
「え?」
「んん、な、なんでもないよ、こっちの話だからさ」
「そう?」
紬は首を傾げていた。
「でも、本当にごめんね。さっき、決まった事で」
「いいよ。俺もさ、丁度用事が出来てさ」
「どんな用事?」
「そ、それは……家庭の事情? まあ、そんなところ」
「そうなんだ。じゃあ、タイミングが良かったね。互いに放課後やることがあって」
「そうだな。まあ、そういう事で、俺、先に帰るから。また、明日な」
和弦はそう言って、今日は別れた。
昇降口の下駄箱で靴を履き替え、校舎を後にする。
後輩の六花とは、街中のハンバーガー店で待ち合わせしているのだ。和弦は駆け足で通学路を移動し、街中へと向かうのだった。
和弦は街中のハンバーガー店まで急ぐ。
アーケード街を入り、少し歩いた場所に目的となるハンバーガー店が構えている。
ハンバーガー店はこちらと書かれた看板が、店の前に置かれてあった。
ちょっと、早くに到着しちゃったか。
周りを見渡すが、後輩の姿はどこにもなかった。
六花のクラスのHRがまだ終わっていないのかもしれない。
んー、確かにちょっと早く来すぎたかもな。
和弦は店屋の前で制服から取り出したスマホの画面を見ながら悩む。
時刻は四時四十五分を少し過ぎたあたりだ。
外で待っているより、店内にいた方が何かと安心だと思う。
たまたま知っている人と遭遇してしまったら、後々面倒事になりそうだからだ。
出来る限り、下手な言動はしない事。
それを心がけたのだ。
和弦は店内に入る。
入店直後。いらっしゃいませという、数人のスタッフによる明るい挨拶声が聞こえてきた。
「ご注文はいかがなさいますか?」
会計カウンターにて、和弦は近くの女性スタッフに問われる。
注文するにしても、後輩が来てからの方がいいと咄嗟に判断し、早く注文しても問題なさそうな商品であるコーラを一人分だけ先に購入しておく事にした。
後は、後輩が来るのを待つだけである。
このハンバーガー店では、一階が会計エリアで、二階の方が飲食可能なスペースになっている。
数秒ほどで出来上がったコーラ。
そのコーラが入った紙コップを店員から受け取ると、和弦は階段を上って二階のエリアへ向かう。
その場所には、学校終わりという事も相まって、他の制服を身につけた同年代の人らがいる。
そこまで混んでいる様子はなかったが、少し騒がしかったくらいだ。
和弦からしたら気にならない程度だった。
周りの様子を気にしながらも店内を歩き、空いている席を探す。
窓際の席は数席ほど空いており、その席を選ぶ事にする。
和弦は窓から見える景色を眺めた。
先ほど歩いていたアーケード街を行き会う人らの姿が瞳に映るのだ。
まだ、後輩の姿は確認できなかった。
暇な時間はスマホを弄り、ネットサーフィンする。
すると、数分ほどで着信があった。
それは
手を振っている後輩の姿があった。
もう来たかと思い、和弦はスマホを制服にしまい、窓から手を振り返すのだった。
「寿崎先輩はまだ注文していなかったんですか?」
「一緒に注文した方がいいと思ってさ。一応、コーラはあるけどな」
「優しいんですね、寿崎先輩!」
「い、いや、そんな事はないさ」
和弦は照れ臭そうに笑う。
褒められて嫌な気分はしなかった。
「では、一緒に注文をしに行きましょうか」
「俺が奢るけど、多めに注文しても困るからね」
「わかってます。そんなに私、大食いに見えます?」
和弦は後輩の全身を見やる。
六花はツインテールに小柄な体系。痩せている方だが、ガリガリではない。
程よい体系で、異性からしたら一番好ましいスタイルかもしれない。
「寿崎先輩、どうしたんです?」
「え、あ、いや、なんでもないよ」
「少し顔が赤いですけど?」
彼女の姿に見惚れてしまい、変な感情を抱き始めつつあった。
すでに幼馴染という、付き合っている相手がいるのに、浮気なんてダメだと思い、自身の心へと訴えかける。
「な、なんでもないよ。ただ、まあ、大食いではなさそうだなって」
「ですよね?」
六花は少しニコッと笑ってくれた。
心を見空かれてそうな気がして少々ヒヤヒヤしたが、彼女から変に思われなかったらしい。
結果としてハンバーガーは、六花の方がセット商品として、和弦の方は単品で購入する事となった。
和弦は、お気に入りのチーズバーガーとフライドポテト。飲み物はすでにあるから追加注文する事はしなかった。
六花はテリヤキバーガーのセット商品で、和弦と同じくフライドポテト。それからオレンジジュースを、メニュー表の写真を指さしながら選択し、注文を終える。
この店の仕事スピードは途轍もなく早く、二分くらいでトレーに乗せられた商品が提供されたのである。
二人はさっき和弦がいた席まで向かい、一緒に座る。
「寿崎先輩ってチーズバーガー派なんですね」
「そういう六花は、テリヤキ派なのか?」
「そうですよ。昔から好きなので、二週間に一回ですかね? 結構、ハンバーガー店に立ち寄る事が多いんです」
「それくらい好きなんだな」
「はい」
六花は笑顔で答えた後、包み紙から上の部分だけ見せたテリヤキバーガーを、両手で持ちながら食べていた。
「寿崎先輩も食べたらどうですか?」
六花から言われ、和弦も自分のバーガーを食す事にした。
「寿崎先輩」
「ん?」
食べながらの返事で、上手く声を出せなかった。
「私、以前から寿崎先輩と一緒にプライベートを過ごしてみたかったんです」
「なんで?」
「だって、まあ、はい」
六花は慌てていた。
しまいには声が裏返っっていたのだ。
「え?」
「んん、なんでもないです」
六花は頬を紅潮させたまま、首を横に振っていた。
「え?」
「な、なんでもないです。さっきのはなかった事に」
「そ、そうか、ならいいんだけど」
「でも、寿崎先輩は、少し――」
「え、なに?」
「なんでもないですから、私の独り言です」
六花は暗かった表情を隠すかのように、ぎこちない笑顔を浮かべていた。
「……私、寿崎先輩には感謝してるんです」
静かになったと思ったら急に話し出す。
「私。入学当初一人ボッチで、寿崎先輩だけが私に声をかけてくれたの覚えてますか?」
「ああ、確か、そうだったな」
二人が友達になったのは数か月前。
四月の新学期が始まってから一週間が経った頃だ。
校舎の中庭で一人だった六花に、寿崎が話しかけた事があった。
その時の事を六花は鮮明に覚えていたようだ。
「私、あの時、寿崎先輩から話しかけられていなかったら、ずっと一人だったかもしれないですから。でも、今では教室にも馴染めてきて、少しは友達も出来ましたから。すべて、寿崎先輩のお陰なんです」
六花はテリヤキバーガーをトレーの上に置くと、体の正面を和弦へと向けてきたのだ。
「そんな大それたことはしてないさ」
「だから、私。寿崎先輩が困った時はなんでもしてあげますからね。これからも!」
六花から感謝の言葉を告げられ、面と向かって他人から感謝されたり褒められると、やっぱり気恥ずかしくなる。
和弦は不覚にも照れまくってしまい、六花の方に顔を向ける事が出来なくなっていた。
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